マンションの滞納管理費を回収。強制執行手続きについて弁護士が解説

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

マンションの区分所有者が管理費や修繕積立金を支払わない場合、管理組合としては強制執行を検討しなければなりません。

マンション管理費の強制執行手続きには、一般の債権とは異なる方法が法律によって認められています。

混乱してしまう人も多いので、正しい手順を知り、最適な方法で滞納管理費を回収しましょう。

今回はマンション管理費を滞納された場合の強制執行手続きの種類や方法について解説します。

目次

1.マンション管理費を回収するための強制執行とは

マンション管理費や修繕積立金を滞納されたら、通常は管理組合から区分所有者へ督促を行うものです。

しかし何度督促しても支払わない悪質な区分所有者も存在します。

そういった相手に対しては「強制執行」をして管理費を回収しなければなりません。

強制執行とは、相手の資産を強制的に換価して弁済させるための手続きです。

一般的には「差押え」と理解されているケースが多いでしょう。

差押えの対象になるのは、相手の資産です。

たとえば預貯金や保険、不動産や車などの資産が差押え(強制執行)の対象になります。

2.マンション管理費を滞納されたときの強制執行の種類

マンション管理費を滞納されたときの強制執行手続きにはいくつかの種類があります。

相手の区分所有権や敷地権を差し押さえてマンションを競売にかけるのであれば、区分所有法によって特別な手続きが定められているのでそちらに従いましょう。

一方、相手の預貯金や保険などの一般財産を差し押さえるのであれば、一般的な強制執行の手法を用いる必要があります。

こちらではまず、預貯金や保険などの一般財産を差し押さえる方法をご説明します。

3.預貯金や保険を差し押さえるには「判決」が必要

預貯金や保険などの一般的な財産を差し押さえるには、事前に裁判所で支払い命令の「判決」を得なければなりません。

判決を「債務名義」といいます。

法律上、相手に対する債権をもっていても、何らかの債務名義がなければいきなりの差し押さえはできません。

3-1.預金や保険などを差し押さえるための流れ

STEP1

相手の預金や保険などの一般的な資産を差し押さえるには、まず「滞納された管理費を請求する訴訟」を起こす必要があります。訴訟内で適切に法的な主張と立証を行うと、裁判所から相手に対する管理費の支払い命令の判決を出してもらえます。

相手が争う場合には、相手による管理費や修繕積立金の滞納の事実を立証し、相手に支払い義務があることを法的に明らかにしなければなりません。

STEP2

判決を獲得したら、その後に債権差押や自動車競売、不動産競売の申立などを行い、相手の資産を差し押さえて取り立てを行います。

強制執行の際には「判決書」と「判決確定証明書」「執行文」や「送達証明書」などの書類が必要です。また差し押さえる対象資産によっても申し立てる手続きやその後の流れ、かかる期間や費用が異なってきます。たとえば預金や保険の場合には債権差押ですし、自動車なら自動車強制競売、不動産なら不動産競売となります。

3-2.差押え(強制執行)の対象となるものの例

  • 預金
  • 保険(解約返戻金のあるもの)
  • 株式や投資信託
  • 給料、ボーナス、退職金
  • 賃料
  • 売掛金
  • 不動産

たとえば預金を差し押さえると、債権者が強制的に預金口座を解約して残高から滞納管理費の支払いを受けられます。

保険を差し押さえると、強制的に保険を解約して解約返戻金を受け取り、その中から滞納管理費を支払ってもらえます。

相手の預金口座や保険などの財産内容が明らかな場合には、通常訴訟を起こして債権差押を行えば、滞納された管理費用を回収できる可能性が高いでしょう。

3-3.預金や保険を差し押さえる際の注意点

預金や保険などの資産を差し押さえるには、対象となる資産を債権者が特定しなければなりません。どこにどのような口座があるかわからない状態では、差押えができないので注意が必要です。

ただ判決があれば「財産開示手続き」や「第三者からの情報取得手続き」により、ある程度は資産内容を調べられる可能性があります。

財産開示手続きとは、相手方を裁判所に呼び出してどのような資産があるかを尋ねる手続きです。債務者が虚偽を述べたり呼び出しに応じなかったりすると、罰則も適用されます。

第三者からの情報取得手続きとは、裁判所が役所や法務局、金融機関などへ情報照会を行い、相手の勤務先や所有不動産、預金口座などを調べる手続きです。

3-4.相手のマンションの専有部分の強制執行は別の手続きで進める

一般的な強制執行の方法で滞納者の「区分所有権そのもの(マンションの専有部分)」を差し押さえるのはおすすめではありません。

後に詳しく説明しますが、管理費を滞納された場合の管理組合には「先取特権」が認められるからです。先取特権があるため、管理組合は訴訟を起こさなくてもすぐに区分所有権の差し押さえができます。

また実際には先取特権を行使しても管理費用を回収できない事案も多く、最終的には「区分所有法59条にもとづく競売」を申し立てる必要があります。

3-5.保全処分の必要性について

相手の預金口座や保険などが明らかになっていて差し押さえのために訴訟を起こす場合には、注意点があります。

訴訟を起こすと通常、判決までに数か月程度の時間がかかってしまいます。

すると、その間に相手が預金をおろしたり保険を解約したりして、財産を隠してしまうでしょう。そうなったら判決を得ても差し押さえるべき対象が存在せず、強制執行ができなくなってしまいます。

相手による財産隠しを防ぐには「保全」を検討しましょう。保全とは判決確定前に、仮に相手の資産を差し押さえて動かせなくする手続きです。預金や保険などの保全手続きを「仮差押」といいます。

たとえば預金を仮差押すれば相手は判決が出るまでの間、預金を払い戻したり振り込んだり引き落としたりができなくなります。

保険を仮差押すれば相手は保険を解約できなくなるので、判決までの間、解約返礼金が守られます。

訴訟にどれだけかかっても財産隠しをされるおそれがなくなり、安心して裁判を進められます。

4.マンションを競売にかけて強制執行する方法

相手の預金口座や保険などの資産状況がわからない場合や、相手がこういった資産を持っていない場合、相手の区分所有権そのものを差し押さえて競売にかけましょう。

競売をすると、滞納管理費を回収できるだけではなく、管理費用を払わない不良な区分所有者をマンションから退去させられるメリットもあります。

管理費を滞納した区分所有者の区分所有権を差し押さえる方法としては、区分所有法に特別な規定があるのでそちらに従うのが得策です。

区分所有法には、以下の2つの方法による区分所有権の競売手続きが定められています。

4-1.区分所有法7条にもとづく先取特権

1つ目は区分所有法7条にもとづく先取特権です。先取特権とは一定のケースで債権者が優先的に弁済を受ける権利です。先取特権を持つ債権者は他の債権者に優先して権利を実現できます。

区分所有法7条では、管理費用を請求できる債権者に先取特権を認められているので、管理組合は訴訟を起こさなくても滞納者の区分所有権や敷地権を差し押さえられます。

預貯金や保険を差し押さえるときのように、わざわざ事前に訴訟を起こして判決を獲得する必要がありません。

ただし区分所有法7条による強制執行は失敗に終わるケースが多々あります。主に、相手が住宅ローンや不動産投資用のローンを組んでいる場合です。

住宅ローンや不動産投資用のローンを組むと、区分所有権に抵当権が設定されます。

区分所有法7条によって管理組合には優先的な先取特権が認められますが、抵当権には劣後してしまうのです。

競売を行っても、売却価額が残ローンの弁済に足りなければ管理費の支払いには回ってきません。また不動産の強制執行にかかる手続費用も管理費に優先して支払われます。

つまり相手のマンションを売却しても、ローンがあれば売却代金は強制執行の手続費用に支払われて残りは抵当権者が取得するのです。余りがなければマンション管理費の支払いには充当されず、管理組合は1円も回収できません。

このように、競売を行っても申立人に支払われる見込みがない場合、強制執行を進めても意味がないと考えられます。そこで裁判所が「無剰余取消(むじょうよとりけし)」をして、競売が取り消されてしまいます。

相手がローンを組んで専有部分や敷地権に抵当権を設定している場合、先取特権にもとづく競売を申し立てても失敗する可能性が高いといえるでしょう。

4-2.区分所有法59条にもとづく競売申立

相手が抵当権を設定していても相手のマンションを競売にかけて管理費用を回収できる方法があります。それは区分所有法59条にもとづく競売です。

区分所有法59条では、一定の要件を満たす場合に債権者へ区分所有権や敷地利用権の競売を申し立てる権利を認めています。

区分所有法59条にもとづく競売の場合、抵当権があっても無剰余取消されません。

相手が住宅ローンや不動産投資用のローンを組んでいても、競売手続きを進めて管理費の支払いを受けられる可能性があります。

4-3.区分所有法59条の競売が認められるための要件

区分所有法59条にもとづく競売が認められるには、以下のような要件を満たす必要があります。

  • 区分所有者がマンションの保存に有害な行為やマンション管理・使用に関して区分所有者の共同の利益に反する行為をした、あるいは行為をするおそれがある
  • 他の区分所有者の共同生活において、著しい障害が発生する
  • 他の方法によってはその障害を除去して他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難

また区分所有法にもとづく競売を申し立てる際には、管理組合による決定が必要です。

4-4.区分所有法59条にもとづく競売を申し立てる流れ

区分所有法59条にもとづく競売を申し立てるには、まずは訴訟を起こして判決を獲得しなければなりません。

この場合の訴訟は、一般の滞納管理費を請求するための訴訟とは異なり「区分所有法59条にもとづく形式競売を許可する判決」の獲得に向けた特殊なものです。この判決がないと区分所有法59条にもとづく競売ができないので、注意しましょう。

形式競売を許可する判決が出たら、区分所有法59条にもとづいて強制競売ができます。

この場合、ローンがあっても無剰余取消されませんし、抵当権者も無視できます。

新たな所有者が決まったら、新たな所有者へ滞納管理費を請求できるので、最終的に支払いを受けられる可能性が高くなります。また従前の滞納者にも支払い義務は残ります。

区分所有法59条に基づく競売請求については、以下の記事でも解説しています。

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5.滞納管理費が回収できなくなる時効に注意

マンション管理費の時効期間は原則5年。裁判の判決がでれば10年。

マンション管理費等の時効期間は原則として5年です(民法166条1項1号)。なんの手も打たずにいると、5年を経過した滞納家賃から回収することができなくなっていくので注意が必要です。

マンション管理費等について、滞納者に対する訴訟等の裁判手続を行い、裁判所の判決(訴訟上の和解など判決と同一の効力を有するものを含む)を取得した場合、時効期間は判決が確定したときから10年となります(民法169条1項)。

時効が近い場合は裁判手続を行うことで時効が完成しない

時効が近い場合は、速やかに訴訟などの裁判手続を開始することで時効の完成が猶予されます。

例えば、あと一ヶ月で時効!というときでも裁判に訴訟を提起することで、裁判中は時効となりません。

その後、判決がでて、管理費の回収が認められた場合は、今まで経過して時効期間は一度リセットされ、10年の期間となります。

裁判手続きは理事会での決議や弁護士との打ち合わせなど、ある程度時間がかかります。

他にも、

・催告を行う

・滞納の支払い義務の承認を取り付ける

・協議を行うことの合意を取り付ける

などの方法で時効の完成を防ぐ方法があります。

詳しくはこちらの記事も参考にしてください。

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6.管理費を滞納されたらご相談ください

マンション管理費を滞納されたまま放置していると、どんどん滞納額がかさんで損失が拡大してしまいます。当事務所ではマンション管理組合への法的支援に積極的に取り組んでいますので、管理費滞納にお困りの管理組合がいらっしゃいましたらお早めに弁護士までご相談ください。

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