遺言書が無効になるのはどんなとき?実際の事例を弁護士が解説

市川市本八幡の相続相談に強い法律事務所羅針盤の弁護士の本田です。

遺言書が無効なのか、有効なのかといった問題でお困りではありませんか。

遺言書は絶対的なものではなく、内容や形式、作成された経緯によっては無効となるケースがあります。遺言書の有効性を判断するには、遺言書が無効になるケースを理解しなくてはなりません。

今回は、遺言書の有効性について、遺言書が無効となる原因を解説したうえで、自筆証書遺言や公正証書遺言が無効となるケース、遺言書の無効を争う方法などを解説します。

遺言書の有効性についてお困りの方は、ぜひ参考にしてみてください。

目次

遺言書はどのような場合に無効となるか

遺言書が無効となる原因は1つではありません。遺言書が無効となる場合を大きく分けると、次の3つに分類されます。

  • 民法総則の適用により無効となる場合
  • 遺言書に特有の理由で無効となる場合
  • 遺言書の撤回により無効となる場合

ここからは、それぞれの場合について詳しい内容を解説します。

1 民法総則の適用により無効となる場合

遺言の作成は、法律に基づく行為です。そのため、民法に共通するルールである民法総則の規定が適用されます。

民法総則の適用により無効となる場合としては、次のものが挙げられます。

  • 公序良俗違反
  • 錯誤・詐欺・強迫

公序良俗違反

遺言書の内容が公序良俗に違反している場合には、遺言書は無効となります(民法90条)。

公序良俗違反による遺言書の無効が争われるケースとしては、遺贈の相手として不倫相手を指定したケースが挙げられます。

最高裁昭和61年11月20日判決では、不倫関係の継続を目的とする遺贈は無効としつつ、主な目的が生計を被相続人に頼っていた不倫相手の生活を保全するためのもので、他の相続人の生活基盤を脅かすものとはいえない遺贈については公序良俗違反とはいえないと判断しています(このあたりの判断は時代思潮の変化により変わり得ることも考えられます)。

詐欺・錯誤・脅迫

遺言書の作成には、詐欺・錯誤・脅迫についての規定も適用されます(民法95、96条)。

遺言者が遺言を作成する際に、詐欺・錯誤・脅迫といった事情があったときには、遺言を取り消すことができます。ただし、遺言者が亡くなったあとで遺言書の効力を争うケースでは、詐欺・錯誤・脅迫があったことを証明するのは相当困難な場合が多いものと思われます。

2 遺言書に特有の理由で無効となる場合

遺言書の作成については、民法総則の制限行為能力についての規定が適用されず、遺言に特有の規定があります。また、方式違反や共同遺言など、遺言書に特有の無効原因も存在します。

遺言書に特有の理由で無効となる場合としては、次のものが挙げられるでしょう。

  • 制限行為能力
  • 方式違反
  • 共同遺言
  • 遺言者の成年後見人が利益を受ける遺言

制限行為能力

遺言には、制限行為能力(未成年・成年被後見人・被保佐人)について民法総則の規定は適用されず、遺言に特有の規定がされています。

未成年者であっても、満15歳に達した人には遺言能力が認められます(民法961条)。また、被保佐人については保佐人の同意なしに遺言ができます(民法962条)。

成年被後見人については、本人が本心に回復していることを証明する医師2人以上の立会いがあれば、遺言が可能です(973条)。一方で、医師の立会いがない場合や、後見人が作成した遺言は無効となります。

方式違反

遺言は、法律に定める方式に従わなければ無効となります(民法960条)。

(遺言の方式)
第九百六十条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
引用:民法|e-Gov法令検索

方式違反の具体的なケースについては、次の章で紹介します。

共同遺言

遺言書は、2人以上の人が同じ書面ですることができません(民法975条)。1つの書面に2人以上の遺言が記載されている場合、その遺言は全て無効となります。

最高裁昭和56年9月11日判決は、1つの書面に2人の遺言が記載されており、そのうち1人の遺言に氏名を記載しない方式違反があったケースにおいて、共同遺言として遺言全体が無効と判断しています。

遺言者の成年後見人が利益を受ける遺言

遺言者が成年被後見人である場合に、遺言者の成年後見人が利益を受ける内容の遺言書を作成した場合、成年被後見人と成年後見人との間に特定の親族関係がある場合を除き、その遺言書は問わず無効となります(民法966条)。

3 遺言書の撤回により無効となる場合

遺言者は、遺言をいつでも撤回できます(民法1022条)。そして、新たな遺言の内容が前の遺言の内容と抵触するときには、抵触する部分について、前の遺言は撤回したものとみなされます(民法1023条)。

複数の遺言書が発見された場合、後の日付の遺言書と内容が抵触する遺言書は、内容が抵触する部分について無効です。複数の遺言書が存在するケースでは、遺言書が作成された順番や、遺言書の内容に抵触があるか否かについて争われることがあります。

自筆証書遺言が無効になるケース

自筆証書遺言は、遺言者が全文、日付、氏名を自書し、押印しなければ効力が認められません(民法968条1項)。

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
引用:民法|e-Gov法令検索

1 方式の違反により無効となるケース

自筆証書遺言は、遺言者自身の判断のみで作成されるケースが多いため、方式違反により無効となるケースも多いです。

平成31年の民法改正により、平成31年(2019年)1月13日以降に作成する遺言書については、財産目録を自書以外で作成することが認められました。しかし、財産目録以外については、全文を自書しなければ自筆証書遺言は無効となってしまいます。

本文をパソコンで作成したり、ゴム印で名前を記載したりした遺言は、全体が無効です。

2 文面に斜線を引く行為が遺言を撤回したとみなされたケース

最高裁平成27年11月20日判決は、遺言者が自筆証書遺言の文面全体に故意に斜線を引いた行為について、遺言の撤回であると判断しています。

遺言書を訂正したり、内容を書き加えたりする場合には、訂正や書き加えた箇所に遺言者が署名・押印しなくてはなりません(民法968条3項)。

自筆証書遺言は、本文を作成する際はもちろんのこと、訂正をする際にも方式に注意が必要です。

公正証書遺言が無効になるケース

公正証書遺言の作成には、厳格な方式が定めされています(民法969条)。

(公正証書遺言)
第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
引用:民法|e-Gov法令検索

公正証書遺言は公証人が関与して作成されるため、自筆証書遺言と比べると無効となるケースは少ないです。しかし、無効となるケースがないわけではありません。ここでは、公正証書遺言が無効とされたケースを2つ紹介します。

1 立会いの違反により無効とされるケース

公正証書遺言の作成には、証人2人の立会いが必要です。証人は、公証人が遺言者に内容を読み聞かせているときだけでなく、遺言者が署名・押印する際にも立ち会わなければなりません(最高裁平成10年3月13日判決。ただし本最高裁判決は、公正証書遺言の作成方式に瑕疵があったことを認定しつつ、結論としては公正証書遺言の効力を認めています)。

公正証書を作成する一連の手続きの中で、証人の立会いがない場面があると、公正証書遺言も無効となる可能性があります。

2 口授の違反により無効とされるケース

公正証書遺言を作成する際、公証人は、遺言者に質問して回答を遺言書の内容に反映します。公証人としては、遺言者の意思を正確に遺言書の内容に反映させなくてはなりません。

最高裁昭和51年1月16日判決は、公証人の質問に対し、遺言者が言語で陳述することなく、単に肯定または否定の挙動をしただけでは、口授があったとはいえないと判断しています。

遺言書の無効を争う方法

遺言書の無効を争うには、次の3つの方法があります。

  • 交渉
  • 遺言無効確認調停
  • 遺言無効確認請求訴訟

以下、それぞれの方法について順番に解説します。

1 交渉

遺言書が無効であるとして遺言書とは異なる内容の遺産分割を求める場合、まずは、相続人や受遺者との交渉をおこないます。

交渉の結果、相続人と受遺者全員の同意があれば、遺言書の内容と異なる遺産分割協議を成立させることができます。

2 遺言無効確認調停

交渉での解決が難しい場合には、裁判所での手続きが必要となります。遺言の無効を確認する事件については、裁判より先に調停をおこなわなければなりません(調停前置主義)。
ただし、合意成立の見込みがない場合には、当初から訴訟を提起することも認められます。

調停には強制力がないため、調停でも全員の同意が得られない場合には、訴訟での決着が必要です。

3 遺言無効確認請求訴訟

調停でも解決できない場合には、遺言無効確認請求訴訟を提起します。遺言無効確認請求訴訟の審理は数年間に及ぶことも珍しくありません。

審理の途中で和解が成立しない場合、判決が下されます。判決の結果に不服がある場合には、控訴審、上告審まで手続きが続きます。

遺言の無効を争う場合、手続きを進めるには専門的知識が必要で、解決までには時間もかかります。自分で手続きを進めるのに不安がある場合には、専門家である弁護士に相談するのがおすすめです。

まとめ

遺言は、法律行為であるため民法共有のルールである民法総則の規定が適用されます。さらに、遺言書は種類によって厳格な方式が定められています。そのため、遺言書が無効となる原因は少なくありません。

民法総則の規定で無効となるケース

  • 公序良俗違反
  • 錯誤・詐欺・強迫

遺言書に特有の理由で無効となるケース

  • 制限行為能力
  • 方式違反
  • 共同遺言
  • 遺言者の成年後見人が利益を受ける遺言

特に、自筆証書遺言については、方式違反で無効となるケースが多いため注意が必要です。

遺言書の無効を争う際は、交渉、調停、訴訟の順番で手続きが進行します。遺言書の無効を争うには専門的知識が必要で、解決までに時間がかかるケースも多いです。

自分で遺言書の有効性が判断できない場合、遺言書の無効を争うのに不安がある場合には、お近くの弁護士など、相続に詳しい専門家のちからもぜひ活用してみてください。

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