相続財産の範囲とは?調査費用や分け方について弁護士が解説

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

相続において、遺産分割を行うときには、そもそも何を相続するのか?ということを決める必要があります。

これは「相続財産の範囲」と呼ばれ、この「相続財産の範囲」が決まらないと、遺産分割協議も始められません。

どういった財産が相続財産となるのか、範囲や調査方法をおさえておきましょう。

この記事では相続財産の範囲や、相続財産ではないのに相続税がかかる「みなし相続財産」、各種の財産調査方法、費用の目安についてお伝えします。

千葉県市川市の相続に強い弁護士 本田真郷

【この記事を書いた弁護士】
弁護士 本田真郷(ほんだまさと)
「お客様の根本問題を解決する」がモットー。15年以上弁護士として活躍する中で多くの相続問題の解決に携わる。相続に関しての不安を解決してもらう無料相続相談会を事務所にて開催中。

目次

1.相続財産とは?相続財産の範囲を知る

相続財産とは、被相続人(亡くなった方)が遺して相続人が相続する財産全般をいいます。

基本的に遺産分割の対象となり、相続税の課税対象となります。

(ただし遺産分割協議の対象にはならなくても相続税がかかる特殊な「みなし相続財産」もあります。※後述)

まずは基本的な相続財産の範囲をみてみましょう。

1-1.財産や借金は基本的に相続財産になる

被相続人(亡くなった方)が所有していた財産、取得していた権利、負債や義務は基本的に相続財産となります。

プラスのものもあれば、マイナスのものもあります。

たとえば以下のようなものが相続財産に含まれます。

プラスの相続財産の例

現金、預貯金

不動産(自宅、投資用物件、区分マンション、事業用の不動産、畑、山林)

借地権、借家権

株式、債券

出資金

各種積立

貴金属や絵画、骨董品などの動産類

貸付金の請求権

敷金返還請求権

損害賠償請求権

プラスの資産だけではなく、以下のような負債も相続財産に含まれます。

マイナスの相続財産の例

借金

事業用ローン

買掛金

滞納税、滞納保険料

滞納通信料

未払い家賃

未払い光熱費

損害賠償義務債務

1-2.相続人に関係しないものは相続財産にならない

一方、相続人その人でないと認められない・意味をなさないような権利・義務(一身専属的な権利義務)は相続の対象ではありません。

このような権利や義務は、本人が死亡すると相続されずに消滅します。

たとえば以下のようなものです。

相続財産にならないものの例

養育費の請求権や支払い義務

認知の請求権

婚姻費用の請求権や支払い義務

生活保護受給権

年金受給権

また、理由は異なりますが、祭祀財産も相続財産にはなりません。

祭祀財産(さいしざいさん)とは、先祖を祀るための財産です。

具体的には以下のようなものが含まれます。

祭祀財産(さいしざいさん)

系譜…家系図や過去帳などです。

祭具…位牌、仏壇や仏像、神棚などです。

墳墓…墓地、墓石や墓標などです。

祭祀財産を承継する人は「祭祀主宰者」(さいししゅさいしゃ)とよばれます。

祭祀主宰者は、先代の祭祀主宰者が遺言などによって指定できます。

たとえば遺言書で「長男を次の祭祀主宰者とする」と指定されていれば、長男が祭祀財産を引き継いで墓の管理や法要などを行います。

先代による指定がない場合には、慣習によって定めます。慣習もない場合には、家庭裁判所が祭祀主宰者を指定します。

祭祀財産については下記で詳しく解説しています↓

1-3.相続財産の評価額は評価する時期がポイント

不動産や株式などの財産を相続したら、「評価額」を明らかにしなければなりません。

評価額が不明では公平な遺産分割ができず、相続税の計算もできないからです。

不動産や株式など相続財産の評価額が変動する場合、「いつの時点の評価額」を採用すべきかが問題となります。

・遺産分割の場合は遺産分割時が基準

遺産分割を行う場合の基準となるタイミングは、基本的に「遺産分割時」です。

相続開始後、遺産分割までに時間が経過している場合、基本的には「遺産分割するときの時価」を適用します。

たとえば不動産の相続開始時の時価が3,000万円でも、その後価格が下落して2,500万円になっていれば、不動産の価値は2,500万円として遺産分割を進めます。

・相続税の場合は相続開始時が基準

相続税を計算する際には「相続開始時の評価額」が採用されます。

また厳密な「時価」によらないことも多く、それぞれの財産について税務上の評価方法が決まっています。

たとえば不動産の場合には、路線価や評価倍率、固定資産評価額などの方法で評価を行います。

相続財産の評価時や評価方法は、遺産分割と相続税課税時で異なるので間違えないように注意しましょう。

不動産などの評価額を決めるタイミング

・遺産分割 → 遺産分割のタイミングで評価額を計算

・相続税 → 相続開始のタイミングで金額を計算

2.申告漏れに注意!みなし相続財産とは?

相続財産についての知識として「みなし相続財産」をおさえておく必要があります。

みなし相続財産とは、遺産分割の対象にはならないけれど相続税が課税される財産です。

本来、相続財産でないなら相続税も課税されないのが原則です。

しかし相続財産でなくてもさまざまな理由で相続税がかかるものがあります。

それが「みなし相続財産」です。

みなし相続財産がある場合、遺産分割の対象にはなりませんが、相続税の計算には入れなければなりません。みなし相続財産を受け取ったにもかかわらず申告しなければ「申告漏れ」となってしまうので、間違えないように注意しましょう。

POINT

みなし相続財産は遺産分割には関係ないが、相続税の計算には含める

みなし相続財産の種類

みなし相続財産の代表的なものは「死亡保険金や死亡退職金」です。

被相続人が保険料を支払っていた生命保険契約により、指定された受取人が死亡保険金を受け取ると「みなし相続財産」となります。

死亡保険金は遺産分割の対象になりませんが、受取人は相続税を負担しなければなりません。

ただし死亡保険金には以下の相続税控除が認められます。

死亡保険金の相続税控除額

法定相続人数×500万円

死亡退職金についても同様で、遺族が死亡退職金を受け取っても遺産分割の対象にする必要はありませんが、相続税が発生します。死亡退職金にも死亡保険金と同様の相続税控除が認められます。

以下のようなものも、みなし相続財産として課税されます。

その他の、みなし相続財産

・特別寄与者が支払を受ける特別寄与料で、額が確定したもの(例えば、相続人の妻が故人の介護を中心になって手伝っていた場合に、金銭的な価値を評価したもの)

・被相続人から生前、相続時精算課税の適用を受けて取得した贈与財産

・被相続人から生前に贈与を受け、贈与税の納税猶予の特例を受けていた農地、非上場会社の株式や事業用資産など

・教育資金の一括贈与によって贈与税の非課税の適用を受けた場合の残額(ただし一定の場合を除く)

・結婚・子育て資金の一括贈与によって贈与税の非課税の適用を受けた場合の残額

・被相続人の死亡前3年以内に被相続人から財産の贈与を受けた場合(特例が適用される場合を除く)

・相続人がいなかった場合に特別縁故者が受け取った分与財産

3.相続財産の調べ方

以下では各種相続財産の調査方法をみてみましょう。

3-1.預貯金

預貯金については、預け入れている金融機関へ情報照会するのが基本です。

まずは口座のある金融機関を特定しましょう。

単純ですが下記のような方法で、金融機関を特定します。

・自宅で保管されている通帳やキャッシュカードを確認

・スマホやPCで取引しているネット銀行を確認

・金融機関から届いた郵便物を確認

金融機関を特定できたら、戸籍謄本や身分証明書を持参して「残高証明書」や「取引履歴」を申請します。郵送で申請できるケースもあるので、金融機関が特定できたら、まずは電話で事情を伝えてみましょう。

3-2.不動産

不動産については、以下の4つの書類を入手しましょう。

不動産の調査に必要な書類

不動産全部事項証明書:法務局へ申請して取得します。

名寄帳(固定資産課税台帳):市区町村内に所有する不動産の一覧が載っている資料です。被相続人名義の不動産をすべて把握できるので、個別の不動産を特定できないときに取得すると便利です。市区町村役場で保管されているので、役場へ行って申請してみてください。

固定資産評価証明書:市区町村役場で取得できます。

査定書:不動産にどの程度の価値(時価)があるかを明らかにする資料です。不動産会社へ簡易査定を依頼して取得しましょう。

どのような不動産があるかわからない場合、自宅に不動産売買契約書や権利証、登記識別情報通知などがないか調べてみてください。同一市区町村内の不動産であれば、名寄帳を確認するとわかります。

3-3.株式

株式については、取引している証券会社へ情報照会しましょう。

取引している証券会社がわからない場合、スマホアプリやPC、証券会社から届いたお知らせの文書などによって特定してください。

配当金通知書を送ってきている信託銀行へ問い合わせたり、「証券保管振替機構」へ問い合わせたりして株式を特定できる場合もあります。

3-4.現金、動産

現金や動産類については、自宅や事業所、貸金庫などに保管されていないか調べましょう。

タンスや棚などに重要な財産が保管されているケースもよくあります。

3-5.負債

相続財産調査をするときには、負債の調査も重要です。負債に気づかずに放置していると、相続放棄の期限を過ぎてしまい、相続せざるを得なくなるリスクが発生します。

(相続放棄とはプラスの財産も、マイナスの財産も含めて相続の権利を全て放棄することです。相続の開始を知ってから、3ヶ月以内に手続きが必要です)

たとえば以下のような方法で負債が明らかになるケースが多々あります。

自宅に保管されている契約書や借用書、振込記録を確認

自宅に金銭消費貸借契約書、借用証、保証契約書などが保管されているケースは多数あります。振込証があれば、借金している可能性があるので情報照会しましょう。

事業所を確認

特に被相続人が事業者だった場合、さまざまな借金をしている可能性があります。

自分で借り入れをしていなくても、会社借り入れや他の経営者などの保証人となっているケースが少なくありません。

自宅だけではなく事業所を含めてしっかり調査しましょう。

信用情報の開示請求をする

JICC、CICなどの信用情報機関へ情報照会すると、現在のローンクレジット利用状況がわかります。借入先や残高などを確認できるので、負債を把握できるケースがあります。

通帳の引き落としを確認

通常から毎月クレジットカードなどの引き落としがあれば、未払金が残っている可能性があります。

債権者から届いた郵便物を確認

支払いが滞ると、債権者から督促の書類が届くものです。相続開始後、ポストに溜まっている郵便物もきちんと開封して中身を調べましょう。

留守電やメールを確認

被相続人への電話やメールで督促が来ている可能性もあります。

3-6.調査すべき場所

相続財産調査の際、最低限、以下の3つの場所は慎重に確認しましょう。

貸金庫…証書などの重要書類の他、遺言書が保管されているケースもよくあります。

自宅…自宅には重要書類や現金などが保管されているケースが多々あります。

事業所…事業者の場合、事業所に重要書類や契約書類などが保管されている可能性が高いといえます。

POINT

預貯金、不動産、株式、現金・預金などプラスの財産だけでなく、負債・借金などマイナスの財産も忘れずに確認しましょう。マイナスが大きい場合は相続放棄が必要になる場合もあります。

相続財産調査にかかる料金・費用はいくら?

相続財産の調査にかかる費用は、その範囲や状況に応じて異なってきますので一概に決めることは、なかなか難しいものです。

法律事務所羅針盤では、相続に関する無料の相談会を開催しております。そちらにお越し頂ければ、詳しく状況を伺い、料金や今後すべきことなどのアドバイスをさせて頂きます。

その他、有料のご相談の費用に関してはこちらの料金ページをご確認ください。

難しい場合は専門家に相談を

相続財産の調査や評価は、素人の方にとって難しいケースが少なくありません。漏れが生じると、遺産分割協議を進められなくなってしまったり、後で遺産が発見されてトラブルになってしまったりする可能性もあります。

弁護士などの専門家に相続財産調査を任せることで、預金や不動産、株式などの遺産内容を確定し、適切に評価してもらうことができます。

当事務所でも遺産分割協議の進行や遺産分割協議書の作成もサポートできるので、お困りのことがあればご相談ください。千葉県以外のお客様のご依頼も承っております。

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