マンション管理費の督促、理事が「個人で」やってはいけない理由|組合として進めるためのルールづくりを弁護士が解説

この記事のポイント(要約)
  • 管理費の督促は、理事個人の好意や判断で行うものではなく、管理組合が果たすべき責任として行うものです。
  • そのため、理事がその場その場で対応するのではなく、あらかじめ決めたルールにもとづいて、組織として進めることが大切です。
  • ルールにもとづかずに融通をきかせすぎると、ほかの組合員から不満が出るだけでなく、役員としての務めを果たしていないと見られるおそれもあります。

管理費の滞納が起きると、理事の方が「同じマンションの住民どうしだから」と、個人的に声をかけたり、事情を聞いて支払いを待ったりすることがあります。善意からの対応で、その気持ちはよく分かります。

しかし、管理費の督促は、理事個人ではなく「管理組合として」行うべきものです。この記事では、その理由と、組合として督促を進めるためのルールづくりについて、管理組合の立場から解説します。

なお、管理費の滞納に対する基本的な考え方は「マンションの管理費滞納への対応」で、弁護士に相談するタイミングは「管理費の滞納、弁護士に相談するタイミングは?」で解説しています。

※ この記事のモデルケースは、複数のご相談に共通する要素をもとに再構成した架空の事例です。実在の特定の案件ではありません。

目次

管理費の督促は、誰の仕事?

管理費の督促は、管理組合の仕事です。

理事の方が個人として、好意で行うものではありません。

管理費は、マンションの清掃や設備の点検、将来の修繕など、建物を維持するための費用を、所有者みんなで分担するものです。一部の人が支払わない状態を放っておくと、きちんと支払っているほかの組合員との間に不公平が生まれます。

そのため、滞納があったときに督促を行うことは、管理組合が組合員全体に対して果たすべき責任です。

理事の方は、その責任を、管理組合の役員として担っている立場にあります。

なぜ理事が「個人で」督促してはいけないの?

理由は、督促が「管理組合の責任として行うもの」だからです。

責任として行うものである以上、誰が理事になっても、同じ考え方・同じ手順で行われる必要があります。ところが、理事個人の判断で督促をすると、次のようなことが起こりがちです。

  • 理事によって、督促する・しないの判断が変わる
  • 相手との関係によって、強く言ったり、遠慮したりと対応がばらつく
  • 「いつ、誰が、どのように督促したか」が、組合として把握できない
  • 理事が交代すると、それまでの経緯が引き継がれない

こうした対応のばらつきは、組合員全体の公平という、督促の本来の目的からも外れてしまいます。督促は、理事個人がその場その場で行うのではなく、一定のルールにもとづいて、組織として行うべきものなのです。

「融通をきかせる」ことの、何が問題なの?

理事の方が、滞納している方の事情を聞き、「今月は無理でも、来月払ってくれればいい」と、個人の判断で支払いを待つことがあります。思いやりからの対応ですが、ここには注意が必要です。

ルールにもとづかずに融通をきかせすぎると、次のような問題が生じるおそれがあります。

ほかの組合員からの不満

きちんと支払っている組合員から見ると、「なぜあの人だけ待ってもらえるのか」という不公平感につながります。理事会への信頼を損なうことにもなりかねません。

役員としての務めを果たしていないと見られるおそれ

管理組合の役員は、組合のために誠実に務めを果たすことが求められます。督促を個人の判断で止めたり、先延ばしにしたりした結果、滞納が膨らんだり、時効の問題が生じたりすると、役員としての務めを十分に果たしていなかったと見られるおそれがあります。

もちろん、やむを得ない事情のある方に配慮すること自体が、いけないわけではありません。

大切なのは、その配慮を理事個人の判断で行うのではなく、組合として決めたルールや、理事会での判断にもとづいて行うことです。

モデルケース 理事長が「好意で」支払いを待っていた

どんなご相談か

築30年・約50戸のマンション。ある住民の方から、「仕事が不安定で、しばらく管理費が払えない」と理事長に相談がありました。理事長は長年の付き合いもあり、「落ち着いたら払ってくれればいいですよ」と、個人として支払いを待つことにしました。理事会には報告していませんでした。

その後、滞納は1年以上に及び、理事長の交代のときに、新しい理事会が初めてその事実を知りました。ほかの組合員からは、「なぜ今まで誰も督促しなかったのか」「あの人だけ特別扱いなのか」という声が上がり、新しい理事会がご相談に来られました。

何が問題だったのか

理事長の対応は、思いやりから出たものでした。しかし、次の点が問題になりました。

  • 支払いを待つという判断が、理事会ではなく理事長個人によって行われていた
  • 理事会として経緯を把握しておらず、記録も残っていなかった
  • 交代のときまで引き継がれず、滞納が長期化していた

結果として、滞納している方への対応だけでなく、「理事会はこれまで何をしていたのか」という、ほかの組合員への説明という問題も抱えることになりました。

このケースのポイント

滞納している方の事情に配慮すること自体は、間違いではありません。ただ、その判断を理事個人が抱え込むと、組合としての公平が保てず、後で理事会全体が説明に追われることになります。

事情のある方への配慮が必要な場合も、理事会に報告し、組合として判断し、その内容を記録に残す。これが、滞納している方・ほかの組合員・理事の方ご自身のすべてを守ることにつながります。

督促を「組合として」進めるためには、何を決めておけばいい?

督促を組織として進めるために、次のような点をあらかじめ決めておくことをおすすめします。

決めておくべき督促ルール
  • 1. 督促の段階と時期
    滞納が発生してから、どの時点で、どのような方法で督促するかを決めておきます。たとえば、「支払期限を過ぎたら督促状を送る」「◯か月続いたら理事会で対応を検討する」といった流れです。
  • 2. 誰が督促を行うか
    管理会社に管理を任せている場合は、管理委託契約で、管理会社が督促する期間や方法が定められているのが一般的です。その期間が過ぎたあと、管理組合として誰がどう対応するかも決めておきます。
  • 3. 理事会への報告と記録
    滞納の状況や督促の経過を、定期的に理事会に報告し、記録に残す仕組みを作ります。理事が交代しても、経緯が引き継がれるようにするためです。
  • 4. 事情のある滞納者への配慮の決め方
    支払いを待つ、分割での支払いを認めるといった配慮をする場合に、理事個人ではなく、理事会で判断することを決めておきます。

こうしたルールは、細則などの形で定めておくと、理事が交代しても同じ対応を続けやすくなります。どのような内容にすればよいか迷う場合は、ルールづくりの段階から弁護士にご相談いただくこともできます。

管理組合だけで対応できる? 弁護士に相談する目安は?

最初の督促は、決めたルールにもとづいて、管理組合だけでも行えます。

一方で、次のような場合は、弁護士への相談を検討するとよいでしょう。

  • 督促のルールを、どのような内容で定めればよいか迷っている
  • ルールにもとづいて督促しても、支払いや連絡がない状態が続いている
  • 事情のある滞納者に、どこまで配慮してよいか判断に迷っている
  • これまでの対応にばらつきがあり、今後どう立て直せばよいか迷っている

督促は、理事の方お一人が抱え込むものではありません。組合として、そして必要に応じて専門家の力も借りながら進めることが、理事の方の負担を軽くすることにもつながります。

よくある質問(FAQ)

Q. 理事が個人的に、滞納者に支払いをお願いしてもよいですか? A. 督促は管理組合の責任として行うものなので、理事個人の判断ではなく、組合として決めたルールにもとづいて行うことが大切です。理事がその場その場で対応すると、対応にばらつきが出て、組合員全体の公平が保てなくなるおそれがあります。

Q. 事情のある滞納者に、支払いを待ってあげてもよいですか? A. 配慮すること自体は問題ありません。ただし、理事個人の判断ではなく、理事会で判断し、その内容を記録に残すことが大切です。個人の判断で融通をきかせすぎると、ほかの組合員からの不満や、役員としての務めを果たしていないと見られることにつながるおそれがあります。

Q. 督促のルールには、どのようなことを決めておけばよいですか? A. 督促の段階と時期、誰が督促を行うか、理事会への報告と記録の方法、事情のある滞納者への配慮の決め方などを決めておくと、理事が交代しても同じ対応を続けやすくなります。

Q. 督促のルールづくりから、弁護士に相談できますか? A. はい、ご相談いただけます。マンションの規模や管理の方法に合わせて、どのようなルールにすればよいかを一緒に検討できます。

この記事を書いた人

千葉県の市川市の法律事務所 羅針盤の弁護士。「お客様の根本問題を解決する」がモットー。複雑な法律の知識についてわかりやすく解説します。

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