マンション管理の知識~「特定承継人」の範囲や引き継がれる債務について~

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

マンション管理費などを滞納されたときには、元の区分所有者からの「特定承継人」にも請求が可能です。たとえばマンション管理費用を滞納したまま部屋が第三者へ売却されると、管理組合はその第三者へも滞納されたマンション管理費用を請求できます。

ただ「どこまでの人が特定承継人といえるのか」「どのような負債が承継されるのか」については、必ずしも法律の文言上明らかになっていません。

マンション管理を行うときには「特定承継人」の範囲や引き継がれる債務について知っておく必要があるでしょう。

今回は区分所有法における「特定承継人」の範囲や引き継がれる債務について、弁護士が解説します。マンション管理にかかわる方、区分所有者に管理費などを滞納されてお困りの方はぜひ参考にしてみてください。

1.特定承継人への請求とは

特定承継人への請求とは、マンションの区分所有権を引き継いだ人へ滞納している管理費などを請求することです。

区分所有法では、第7条、8条で管理規約や総会決議にもとづいて発生した債権などについて、区分所有者の「特定承継人」にも承継されると規定されています(区分所有法7条、8条)。

第7条 区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。

第8条 前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

これらの規定にもとづき、滞納された管理費用などは特定承継人にも請求できることになります。

2.特定承継人の範囲

債務が引き継がれる特定承継人とは具体的にどのような人を指すのでしょうか?

特定承継人の「範囲」をみてみましょう。

2-1.売買や贈与

売買や贈与によって区分所有権を引き継いだ人は「特定承継人」となって負債を承継します。

2-2.強制執行、担保権の実行

強制執行や抵当権などの担保権を実行して競売で競落した人も特定承継人となります。

たとえば不動産競売によって区分所有権を取得した人を「特定承継人」と判断した裁判例もあります(東京地裁平成9年6月26日)。

つまり競売で区分所有権を得た人も一般の売買や贈与によって区分所有権を得た人と同様に責任を負う、という意味です。

2-3.譲渡担保権者

譲渡担保権者についても、特定承継人にあたると判断された事例があります(東京地裁平成6年3月29日)。

譲渡担保とは、債務の履行を確保するためにものを債権者へいったん譲渡し、債務を履行したときに取り戻すことをいいます。譲渡担保を設定する債権者が「譲渡担保権者」です。

譲渡担保を設定する際には、実際にものの所有権を移転するので、マンションの区分所有権は譲渡担保権者へと移転します。このように債権担保の目的があるといっても譲渡担保権者はマンションの区分所有者となるので、譲渡担保権者は「特定承継人」にあたる、というのが裁判所の考え方です。

2-4.中間取得者

中間取得者については、特定承継人にあたるとする裁判例とあたらないとする裁判例に分かれます。

中間取得者とは、マンションの区分所有権が3者以上にわたって移転したとき、最初と最後以外の区分所有者を意味します。

たとえばAさんからBさん、BさんからCさんへと区分所有権が移転して最終的にCさんのものとなったとき、Bさんは中間取得者です。

この点については裁判例が分かれており「中間取得者は特定承継人にならない」と判断するものもあれば(大阪地裁昭和62年6月23日)、中間取得者も特定承継人と認めるものもあります(東京地裁平成20年11月27日、福岡地裁平成13年10月3日など)。

近年では中間取得者への請求も認められやすい傾向がみられますし、否定する判例は比較的古く法改正前のものが多数です。

現時点で管理費などを滞納されたときには、中間取得者へ請求できる可能性が高いと考えられるでしょう。

2-5.特定承継人にあたらない人

以下のような人は特定承継人にあたらないと考えられています。マンション管理費などを滞納されても、請求は難しくなると考えましょう。

包括承継人

包括承継人とは、区分所有者から権利や義務をまるごと引き継ぐ人です。たとえば相続人が典型的な包括承継人となります。

包括承継人の場合、「特定」ではなく「包括」的に承継するので特定承継人に含まれません。

たとえば元の区分所有者が破産した事例において、包括承継人である相続人は区分所有法8条にもとづいては滞納管理費を引き継がない、と判断した裁判例があります(東京地裁平成18年7月21日)。

なお相続人は包括的に権利と義務を引き継ぐので、被相続人がマンション管理費を滞納していた場合には滞納管理費の支払義務を相続するのが原則です。これは区分所有法にもとづく承継ではなく相続による効果です。相続人が支払いたくなければ、相続放棄しなければなりません。

占有者

マンションを使用している賃借人などの占有者は特定承継人に該当するのでしょうか?

この点、裁判例は「占有者については特定承継人にならない」と判断しています(東京地裁平成16年5月31日)。

区分所有法8条はあくまで「区分所有者」の義務を定めるものであり、単に専有しているだけで区分所有権を有していない占有者は区分所有者とはいえないからです。

区分所有者以外のマンションを使用収益している人(たとえば賃借人など)へは滞納管理費を請求できないと考えましょう。

3.もとの所有者と特定承継人の負債の関係は「連帯債務」

区分所有法によって管理費の支払義務などが特定承継人に引き継がれた場合、元の所有者の義務はどうなるのでしょうか?

法律上、もとの所有者と特定承継人の負債は「連帯債務」になると考えられています(東京高裁平成17年3月30日)。つまり特定承継人に債務が引き継がれても、元の債務者の負債は免除されません。両者は連帯して支払いをしなければならないのです。

管理組合としては、もとの所有者支払いを請求しても特定承継人へ支払い請求しても両方同時に請求してもかまいません。資力の高そうな方へ主に請求をするのもよいでしょう。

なお特定承継人が滞納管理費等を支払った場合には、元の所有者へ求償(支払い請求)できると考えられています。

4.引き継がれる負債について

次に区分所有法8条によってどのような負債が引き継がれるのかについてもみていきましょう。

4-1.管理規約や総会決議により債務の発生根拠がある

区分所有法8条によって負債が引き継がれるためには、基本的に「管理規約や総会決議にもとづいた債務」でなければなりません(区分所有法7条1項)。

たとえば管理費や専用庭の使用料などについては、基本的に管理規約において定められるので特定承継人へ承継されるといえるでしょう。

以下では個別の負債について、区分所有法8条にもとづいて承継されるのかみていきます。

4-2.管理費や修繕積立金

管理費や修繕積立金については規約で定めるべき事項であり、区分所有法8条の適用があると考えられます。

マンション管理費や修繕積立金を滞納されたまま区分所有権が売却されたり競売にかかったりしたら、新たな所有者へ請求しましょう。

4-3.専用庭使用料

マンションによっては専用庭使用料が設定されているケースがあります。

専用庭使用料は原則的に規約事項とされています。また専用庭は区分所有権の「住戸の部分」と一体的になり付従するものと理解されるケースが多いでしょう。

そこで専用庭使用料についても特定承継人へ引き継がれる、と判断されるケースが多数となっています。

専用庭使用料を滞納されたまま区分所有者が売買などによって変更されたら、新たな所有者へ請求しましょう。

4-4.駐車場使用料

駐車場使用料は特定承継人に引き継がれるのでしょうか?

この点、法律の学説における多数説では、引き継がれないと考えられています。

なぜなら駐車場については、住戸部分が譲渡されて区分所有者が変わると使用権自体が消滅するケースも多いためです。

たとえばもとの所有者が駐車場を利用していても、新しい権利者が車を持っていなければ駐車場は利用しないでしょう。

管理組合の運営に際しても、原則的に駐車場使用料の滞納分は新たな所有者へ引き継がれないものと考える方が無難です。

ただし管理規約に「駐車場使用料の滞納分も特定承継人へ引き継がれる」との規定があれば、新たな所有者に義務が引き継がれて請求できる可能性が高くなります。

マンション管理組合として駐車場使用料の滞納分をあらたな所有者へ請求したいなら、管理規約に明記しておくのがよいでしょう。この点は「標準管理規約」に定めがないので、自主的に加筆しておく必要があります。

4-5.水道光熱費

以前の区分所有者が水道光熱費を滞納したままマンションを譲渡してしまったら、水道光熱費はあらたな区分所有者へ引き継がれるのでしょうか?

この点についても肯定する裁判例と否定する裁判例があります。

たとえば大阪高裁平成20年4月16日判決や名古屋高裁平成25年2月22日では、特定承継人に対する水道光熱費の請求が認められています。

ただしこれらの裁判例でも無制限に水道光熱費の承継が認められたわけではありません。

「基本的には規約で定められる債権の範囲に含まれない」と判断されています。

その上で「特段の事情」があれば規約で定めることができて特定承継人へ承継される可能性がある、と判断されているのです。これらの事案では「特段の事情」が認められたため、結論的には特定承継人への請求が認容されました。

以上からすると裁判例では「原則として水道光熱費は特定承継人に承継されない」と判断されている以上、新たな区分所有者への請求は認められないのが原則といえるでしょう。

ただし上記の裁判例のように具体的な状況によっては特段の事情が認められて請求できる可能性もあります。

滞納された水道光熱費を請求できるかどうかなどの個別具体的な判断は弁護士でないと難しいので、迷われたときにはお気軽にご相談ください。

5.マンション管理は法律事務所羅針盤へお任せください

マンション管理を行う際には、区分所有法をはじめとする関係法令を正しく理解し、運用する必要があります。素人判断では間違ってしまうリスクが高くなるので、法律家によるアドバイスを受けながら対応を進めましょう。

千葉県市川市の法律事務所羅針盤では、マンション管理の法律や管理組合の支援に力を入れて取り組んでいます。千葉県のマンション管理組合で法律的なサポートやアドバイスをご希望されている組合さまがありましたら、お気軽にご相談ください。

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