相続人に行方不明者がいる場合の相続手続きの方法を弁護士が解説

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

「相続人の中に行方不明の人がいて連絡を取れない場合、どのようにして相続手続きを進めれば良いのでしょうか?」

といったご相談を受けることが少なくありません。

行方不明な相続人がいても、無視して遺産分割協議を行ってはなりません。

「不在者財産管理人」を選任し、その人を交えて遺産分割を進める必要があります。

今回は行方不明な相続人がいる場合の相続手続きの進め方を弁護士が解説します。

連絡を取れない相続人がいてにお困りの方はぜひ、参考にしてみてください。

目次

1.行方不明者を抜きに遺産分割はできない

相続人の中に行方不明者や連絡をとれない人が含まれていると、その人を抜きにして遺産分割協議をしようとする方がおられます。しかし一部の相続人を除外して遺産分割協議はできません。遺産分割には相続人が全員参加しなければならないからです。

たとえ行方不明がいる場合でも、その人を交えた遺産分割でないと無効になってしまいます。せっかく遺産分割協議書を作成しても、不動産の相続登記や預貯金の払い戻しなどを受け付けてもらえません。

行方不明の相続人がいる場合でも、その人を除外して遺産分割協議を進めないように注意しましょう。

2.行方不明者がいる場合の遺産分割の進め方

相続人の中に行方不明者がいる場合、どのようにして遺産分割協議を進めれば良いのでしょうか?

この場合、基本的には「不在者財産管理人」を選任する必要があります。

不在者財産管理人とは、行方不明者に代わってその人の財産を管理する人です。

不在者財産管理人がいれば、その人を本人に代わりに交えて遺産分割を進められます。

ただし不在者財産管理人が必要になるのは「相続人が行方不明でどこにいるかがわからないケース」です。「単に連絡をとれないだけでどこにいるかはだいたいわかっている場合」には不在者財産管理人を選任できません。

3.不在者財産管理人とは

不在者財産管理人とは、行方の分からない人の財産を管理する人です。

行方不明の人がいる場合、誰も財産管理しなければ財産が散逸してしまう可能性があり、債権者や関係者にも迷惑がかかるでしょう。

本人にとっても関係者にとっても不利益が及ぶリスクが高まるので、代わりに財産管理する人を選ばねばなりません。それが不在者財産管理人です。

遺産相続権も一種の財産なので、不在者財産管理人が管理して遺産分割協議に参加できます。

3-1.不在者財産管理人になれる人

不在者財産管理人になるために特別な資格は不要ですが、財産管理を適切に行える能力は必要となります。

家庭裁判所へ不在者財産管理人の選任を申し立てる際、候補者を立てることも可能です。裁判所は不在者との関係や利害関係などを考慮して候補者が適格かどうか判断します。遺産分割協議のために不在者財産管理人を選任する場合には、不在者や被相続人の親族を候補者に立てるケースが多くなっています。

ただし親族間に争いがある場合や適切な人がいない場合など、状況によっては弁護士、司法書士などの専門家が選ばれる可能性もあります。

3-2.不在者財産管理人が行う職務

不在者財産管理人に選任されると、以下のような職務を果たさなければなりません。

  • 行方不明者の財産調査
  • 行方不明者のために財産管理を行う
  • 財産目録を作って家庭裁判所へ報告する

不在者財産管理人は「本人のために」財産管理しなければなりません。自分や第三者に利益を与えるため不正に財産を使ってしまった場合には、刑事的に「業務上横領罪」が成立します。民事的には関係者から損害賠償請求をされてしまうでしょう。

不在者財産管理人の職務については解任されます。

いったん不在者財産管理人に選任されたら責任感を持ってしっかり財産管理を行いましょう。

3-3.不在者財産管理人への報酬について

不在者財産管理人が選任されると、報酬が支払われるケースもあります。

具体的な流れとしては、不在者財産管理人自身が家庭裁判所へ請求し、家庭裁判所が金額を決めます。

ただし不在者財産管理人が親族の場合、あえて請求せず報酬が払われないケースもあります。一方で弁護士や司法書士などの専門家が選任されると、一般的には報酬を請求するでしょう。

なお不在者財産管理人への報酬は「不在者の財産」から支払われるので、申立人などが負担する必要はありません。

4.不在者財産管理人が遺産分割協議を進める方法

不在者財産管理人が選任されると、その人を交えて遺産分割協議を進められます。

ただしその前提として、家庭裁判所に「権限外行為の許可」を申請しなければなりません。

権限外行為の許可とは、本来不在者財産管理人に認められる権限を超える行為についての家庭裁判所による許可です。遺産分割は、民法103条に定められる不在者財産管理人の基本的な権限を超えているため、あらかじめ権限外の許可が必要になります。家庭裁判所が不在者財産管理人による遺産分割を許可してはじめて、不在者財産管理人が有効に遺産分割協議を進められると理解しましょう。

反対に、不在者財産管理人が選任されても権限外の許可を得ない限り遺産分割協議を進められません。

行方不明者がいる場合の遺産分割では「不在者財産管理人の選任」と「権限外の許可」の2段階の対応が必要です。権限外の許可申請のステップを飛ばして遺産分割協議を行ってしまわないように注意してください。

5.不在者財産管理人を選任すべきケース

相続が発生したとき、以下のような状況であれば不在者財産管理人を選任しましょう。

  • ある相続人が生きている可能性が高いけれど、居場所がわからない
  • ある相続人が行方不明になってから7年未満(7年未満では失踪宣告できないため)
  • 行方不明の相続人がいるが、失踪宣告をして死亡扱いにはしたくない

不在者財産管理人の職務はいつまで続くのか

不在者財産管理人の職務は、遺産分割が終わったからといって終了しません。

以下のタイミングまで財産管理を継続する必要があります。

  • 行方不明者が現れた
  • 行方不明者について失踪宣告された
  • 行方不明者の死亡が確認された
  • 行方不明者の財産がなくなった

行方不明者が現れると、財産は本人へ引き継がれます。

失踪宣告が行われた場合や本人が死亡した場合、財産は本人の相続人へ引き継がれます。

遺産分割協議が終わっても、上記のタイミングまで職務を継続しなければならないので不在者財産管理人には負担がかかる可能性もあります。

安易に親族を候補者に立てると途中でやめたくなる場合もあるので、申立の際には誰を候補者とするか、十分慎重に検討しましょう。場合によっては弁護士などを候補者に立てるのが良いでしょう。

6.不在者財産管理人の選任方法

不在者財産管理人の選任方法は以下のとおりです。

6-1.申立ができる人

  • 行方不明者の利害関係人(配偶者や相続人にあたる人、債権者など)
  • 検察官

6-2.申立先の裁判所

行方不明者の最後の住所地または居住地の家庭裁判所

6-3. 申立てに必要な費用

  • 収入印紙800円分
  • 連絡用の郵便切手(家庭裁判所によって異なるので、事前に確認しましょう。)

上記とは別に「予納金」が必要となるケースがあります。不在者の財産が少なく財産管理にかかる経費を捻出できない場合や不在者財産管理人の報酬が不足する可能性のある場合などです。

6-4.申立てに必要な書類

  • 申立書(家庭裁判所に書式があるので、申立人が作成する必要があります)
  • 行方不明者の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 行方不明者の戸籍附票
  • 不在者財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票
  • 行方不明である事実を証する資料
  • 行方不明者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金や株式など有価証券の残高が分かる書類など)

6-5.申立後の流れ

不在者財産管理人の申立があると、家庭裁判所は申立書や行方不明になった事実がわかる資料などを確認し、申立人や関係者から事情を聞いて状況を確かめます。

その上で不在者財産管理人が必要と判断されれば不在者財産管理人が選任されます。

7.不在者財産管理人を選任するときの注意点

不在者財産管理人を選任する場合、以下の点に注意が必要です。

7-1.遺産分割協議が終わっても財産管理が終わらない

相続が発生して不在者財産管理人を選任する場合、遺産分割協議を目的とするケースが多いでしょう。

しかし遺産分割協議が終わっても、財産管理の職務は続けなければなりません。

候補者を立てるときには、候補者が財産管理責任の意味を理解した上で対応すべきです。

安易に親族を候補者に立てると、選任後に負担が大きくなってしまうリスクが発生します。

7-2.報酬が発生する可能性もある

不在者財産管理人は家庭裁判所へ報酬を請求できます。

親族であっても報酬はもらえますし、弁護士などの専門家が選任されるとほぼ確実に報酬請求するでしょう。

その分、行方不明者の財産が目減りする可能性があることには注意すべきです。

7-3.本人が現れるとトラブルになる可能性がある

不在者財産管理人が選任されても、その後に本人が現れるケースも想定されます。

その場合、本人は不在者財産管理人について知らないので「勝手に財産が処分された」ととらえてトラブルになる可能性もあります。

本人が現れたときにしっかり状況を説明できてトラブルを防げる人を候補者に立てるべきといえるでしょう。

8.単に連絡がとれない場合は不在者財産管理人が選任されない

相続が発生したとき「一定の相続人と連絡を取れない」ケースが少なくありません。

ただ、単に「連絡を取れない」だけで「生きていてどこにいるかだいたいわかっている場合」には不在者財産管理人を選任できません。

単に連絡を取れない場合には、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てましょう。調停を申し立てると家庭裁判所から相手を呼び出してくれるので、遺産分割を進められる可能性があります。相手がどうしても出頭しない場合、審判になって遺産分割の方法を家庭裁判所が決めてくれます。

遺産分割調停の呼出を無視するとどうなるか?

「調停」とは裁判とは違い、できるだけトラブルを円満に解決するために、第三者を交えて公平な視点で話し合いを行う場です。

無視をしてしまうと、自分の意見が反映されないまま相続が進んでしまうことになるので、基本的には呼び出しを無視することはおすすめはできません。

通常、一度無視するだけで調停がそのまま進んでしまうことはないですが、二度三度と無視が続くと、特別な理由がない限りは、調停が不成立となる可能性があります。

すると、今後の話し合いの機会を失ったり、相続税の期限に間に合わなくなるなどデメリットがありますので注意が必要です。

どうしても、他の相続人たちと関わりたくない事情があるようば場合は、弁護士など専門家に代理をお願いすることは可能です。

9.長期にわたって行方不明な状態が続いている場合には失踪宣告も可能

一方で、7年以上行方不明の状態が続いている場合、失踪宣告も選択できます。

失踪宣告とは、長期にわたる行方不明者や死亡している蓋然性の高い人について、死亡した扱いにしてもらえる制度です。失踪宣告が認められると本人は死亡したことになるので、遺産分割協議に参加させる必要はありません。

行方不明者の代襲相続人や次順位の相続人を遺産分割協議に参加させることになります。

10.行方不明の相続人がいるときに弁護士に依頼するメリット

以上のように、連絡を取れない相続人や居場所のわからない相続人がいる場合の遺産分割協議は非常に複雑で状況に応じた対応が要求されます。専門的な法律知識がないとうまく対応しにくいでしょう。間違った対応をすると、せっかく行った遺産分割協議が無効になったり後に現れた本人とトラブルになったりするリスクも高まります。

行方不明の相続人がいる場合には、、まずは弁護士に相談してみましょう。

以下のようなメリットがあります。

  • 状況に応じた最適な対応ができる
  • 不在者財産管理人の選任申立を任せられる
  • 不在者財産管理人になってもらえる
  • トラブルを防ぎやすくなる
  • 相続人調査から遺産分割協議、各種相続手続きまでワンストップで依頼できて手間がかからない
  • 相続に関するストレスも軽減される

法律事務所羅針盤では遺産相続の案件に力を入れて取り組んでいます。千葉県で相続人の立場となり、手続きをどのように進めて良いか迷われている方がおられましたら、お気軽にご相談ください。

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