失踪とは?失踪宣告について弁護士が解説!普通失踪と特別失踪の違いとは

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

長期にわたって行方不明な人がいる場合、「失踪宣告」によって死亡した扱いにしてもらえる可能性があります。

相続人の中に行方不明者がいるときにも失踪宣告をすれば、行方不明者の相続人を交えて遺産分割を進められるケースが少なくありません。

ただし失踪宣告には注意点もあり、やみくもに申し立てるとトラブルになる可能性もあります。「普通失踪」と「特別失踪」の区別も押さえておきましょう。

今回は失踪宣告制度の概要や普通失踪と特別失踪の違いについても弁護士が解説します。

相続人の中に行方不明者がいる場合など、親族が行方不明になって困っている方は参考にしてみてください。

目次

1.失踪とは?

失踪とは、文字通り「見えなくなる」ことです。具体的には、ある人が住んでいた場所や働いていた場所から突然姿を消すことを指します。家族や友人、職場の人たちがその人の居場所を知らず、どこに行ったのか探しても見つからない状況を「失踪」と言います。

ただし、家出をして1日や2日家に戻らなかったりするだけでは、一般的に失踪とは言いません。ある程度の時間が経ち、かつその人の居場所が全く分からなくなる場合に「失踪」と呼ばれます。

さらに、失踪には様々な理由があります。問題やストレスから逃れたい、新しい人生を始めたい、何かの事件や事故に巻き込まれた、など、人それぞれ様々な背景が考えられます。こういった理由が絡んで、人は自らの意思で失踪することもあれば、他人によって失踪に追い込まれることもあります。

2.相続人が欠けると遺産分割協議を進められない

相続が発生したら、相続人らが全員参加して遺産分割協議をしなければなりません。

遺産分割協議が完了しないと、いつまで経っても不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなどができないのです。ただ遺産分割協議には相続人が全員参加しなければなりません。1人でも欠けると協議が無効になってしまいます。

相続人が行方不明の場合には、その人を遺産分割協議に参加させることができません。かといってその人を外して遺産分割協議を進められないので、対処方法を検討する必要があります。

ここで使える手段が「失踪宣告」です。失踪宣告が認められるとその人は死亡したことになるので、失踪者の相続人を参加させることによって遺産分割協議を進められます。

3.失踪宣告とは

失踪宣告とは、長期間行方不明な場合や危難に巻き込まれて死亡している可能性が高い場合において、行方不明者を「死亡したもの」と取り扱う制度です。

失踪宣告が認められると、行方不明者は「死亡した」ことになります。失踪者の遺産相続が発生しますし、配偶者がいたら遺族年金の支給なども開始します。

失踪宣告によって遺産分割協議を進める具体例

たとえば父親が亡くなって3人の子ども(長男、次男、三男)が相続人になったとしましょう。三男が行方不明とします。この場合、三男がいない状態のままでは遺産分割協議を進められません。

三男について失踪宣告をすれば三男の子ども(被相続人の孫)が相続人になります。よって長男、次男、三男の子ども(孫)が話し合えば父親の分の遺産分割協議を進められます。

4.2種類の失踪宣告

失踪宣告には「普通失踪」と「特別失踪」の2種類があります。以下でそれぞれについてみてみましょう。

4-1.普通失踪

普通失踪は、原則的な失踪宣告です。要件は「行方不明者が生死不明となって7年が経過したこと」です。どういった状況であれ、対象者が生死不明の状態になってから7年が経過すると、共同相続人などの利害関係者は普通失踪を申し立てることができます。

普通失踪の場合「7年の経過」が要件となるので、行方不明となっても7年が経過していない場合、普通失踪は認められません。

民法30条1項

不在者の生死が7年間分明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。

4-2.特別失踪

特別失踪は、行方不明者が死亡の蓋然性の高いような危難に巻き込まれた場合に認められる失踪宣告です。「危難が去ったときから1年」が経過したときに利害関係人が特別失踪を申し立てられます。

戦争に巻き込まれたときや沈没した船に乗っていたときなどには、単に行方不明になったのとは異なり対象者が死亡した蓋然性が高いといえます。そのようなときにまで7年間待つ必要はないので、早めに死亡を認めるのが特別失踪の制度です。

民法30条2項

2 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止やんだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。

5.失踪宣告の効力

失踪宣告の効力は「失踪者の死亡が擬制されること」です。つまり失踪宣告が認められると失踪者は法律上「死亡したもの」と取り扱われます。

戸籍上も死亡したことになりますし、遺産相続も発生します。遺族年金の支給や保険金の請求などもできるようになります。

失踪宣告の効力が発生する時期

失踪宣告の効力が発生する時期は、普通失踪のケースと特別失踪のケースで異なるので注意しましょう。

普通失踪の場合「生死不明となって7年が経過した時点」で死亡したものと取り扱われます。たとえばAさんが2010年10月1日に生死不明となった場合、2017年9月30日をすぎた時点で死亡したことになります。

一方特別失踪の場合「危難が去ったとき」に死亡したとみなされます。特別失踪を申し立てることができるのは「危難が去ってから1年が経過したとき」ですが、死亡時期は「1年が経過したとき」ではありません。「危難が去ったとき」に早めに死亡が認められるので間違えないように注意しましょう。

たとえばBさんが沈没船に乗船していて2019年1月1日に行方不明となり、船が2019年3月1日に引き上げられて状況が落ち着いたとしましょう。この場合、特別失踪の申立ができるのは2020年3月1日以降です。ただし特別失踪が認められたときの「死亡時期」は2019年3月1日となります。危難が去ったといえるのは2019年3月1日だからです。

普通失踪の場合には「7年が経過した時点で死亡した」とみなされるので、特別失踪とは死亡時期についての考え方が異なります。両者を混同しないように注意しましょう。

6.特別失踪を申し立てられる条件

特別失踪の申立ができるのは「戦争に巻き込まれた場合や沈没船に乗船していたとき、その他死亡の原因となるべき危難に遭遇したとき」です。

戦争に巻き込まれたことや沈没船に乗船していたことは「例示」であり「死亡の原因になりそうな危難」に巻き込まれたら特別失踪の申立ができます。

では具体的に「死亡の原因になりそうな危難」とはどういった状況をいうのでしょうか?

以下では特別失踪が認められる要件について、より詳しくみていきます。

6-1.死亡の原因になりそうな危難の例

特別失踪の要件である死亡の原因になりそうな危難の例としては、以下のようなものがあります。

  • 戦争に巻き込まれた
  • 沈没船への乗船
  • 地震や津波、洪水、山崩れ、雪崩、火山の噴火などに巻き込まれた
  • 火災や火薬庫の爆発に巻き込まれた
  • 猛獣による襲撃を受けた
  • 登山や探検中に遭難した

特別失踪にいう「死亡の原因となりうる危難」について判断した高等裁判所の決定があるのでご紹介します(東京高裁平成28年10月12日)。

6-2.高等裁判所の事案

本件は、冬山登山を行おうとして遭難した失踪者の事案です。

スキーのリフト終点から登山を開始した人が行方不明となったケースにおいて、親が特別失踪を申し立てました。

原審の千葉家庭裁判所は以下のような事情から「危難」を否定しました。

  • 行方不明となった日に降雪がほとんどなく警報も発せられていなかった
  • 登山時には濃霧や低温注意報も解除されていた
  • 強風や雪崩のおそれが強かった事情もなく、通所の状態と比べて特に危難の可能性が高かったとはいえない
  • 捜索によっても行方不明者の足跡などが発見されなかった
  • 下山したのかどうかも不明で、遭難したといってもどこの地点でどういった危難に遭ったのか不明

失踪宣告が認められなかったため、失踪宣告を申し立てた父親が高等裁判所へと抗告しました。

6-3.高等裁判所の判断

東京高等裁判所は原審の判断を変更し、以下のような事情から本件の行方不明者は「死亡の可能性の高い危難に巻き込まれた」ことを認めました。

  • そもそも「その他死亡の原因となるべき危難」とは「人が死亡する蓋然性の高い事象」を意味する
  • 本件における登山ルートではガスの発生やホワイトアウト状態の発生などによって視界が悪化しており、道に迷って凍死するおそれがあった
  • 登山道には樹木が雪に覆われた「モンスター」が多数あり、樹木の根元部分には2~3メートル程度の穴ができていて、転落する危険があった
  • 同日の山頂付近の気温はマイナス10度から20度であり低かった
  • 登山ルートには約5メートルの積雪があって新雪も多かった

高裁は上記事情を認定した上で、「失踪者は冬山登山の経験が少なく登山ルートや所要時間を確認しないまま装備も携帯せずに危険な登山ルートを歩んでいる途中で消息を絶ったのだから、視界が悪化した道に迷ったか穴に落ちて凍死した蓋然性が高い」と判断しました。

結論的には原審を変更し「死亡の蓋然性の高い危難」があったとして特別失踪を認めました。

以上のように、「冬山登山」で遭難した場合にも普通失踪ではなく特別失踪が認められるケースはあります。特別失踪が認められれば7年を待つ必要がないので、遺産分割協議を早めに進められるでしょう。

相続人の中に遭難者がいて遺産分割協議にお困りの場合、早めに弁護士へ相談してみてください。相続手続きを進められる可能性があります。

7.失踪宣告の方法や流れ

7-1.失踪宣告の申立ができる人

失踪宣告を行う際には「利害関係人」が申し立てなければなりません。

利害関係人となるのは行方不明者の相続人や財産管理人、受遺者などです。

7-2.申立先の家庭裁判所の管轄

失踪宣告の申立先の家庭裁判所は「不在者の最終住所地を管轄する家庭裁判所」です。

7-3.申立に必要な費用

  • 1件について収入印紙800円分
  • 連絡用の郵便切手
  • 官報公告費用4816円

7-4.申立てに必要な書類

  • 申立書
  • 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 不在者の戸籍附票
  • 失踪した事実を証明する資料
  • 申立人の利害関係を証明する資料(たとえば親族関係があれば戸籍謄本(全部事項証明書)など)

申立前に入手不可能な戸籍謄本などの資料については、申立後に追加提出してもかまいません。

申立があると、家庭裁判所で失踪宣告を認めるかどうかの審理が行われます。要件を満たしていれば失踪宣告が下されて、不在者は死亡した扱いとなります。

8.行方不明者が現れたときの対処方法

行方不明者について失踪宣告をしても、その後生存が明らかになるケースがあります。

その場合、失踪宣告を取り消さねばなりません。

失踪宣告が取り消されると、行方不明者は「ずっと生きていた」ことになります。

相続も発生しなかったことになり、配偶者がいた場合には婚姻関係も復活します。

8-1.財産を返還すべき限度について

行方不明の相続人について失踪宣告をすると、行方不明者の相続人が遺産分割協議に参加して行います。ところが行方不明者が現れて失踪宣告が取り消されると、遺産分割協議も無効になります。本来なら、相続人が受けた利益は失踪者へ全部返還しなければなりません。

しかし現実には相続人が財産を使ったりして失われていることも多いでしょう。すべてを返還させるのは酷といえます。そこで失踪者が現れたときに返還すべき財産は「現に利益を受けている部分」に限定されます。つまり現存利益のみを返せば良いのであり、すでに使ってしまったり失われたりした部分については返還する必要がありません。

財産が第三者へ譲渡された場合

失踪者の財産が第三者へ譲渡された場合には、第三者や譲渡人が「生存の事実」を知らない限り第三者が保護されます。つまり第三者は現れた失踪者へ財産を返還する必要がありません。

相続人が行方不明の場合には弁護士へご相談ください

相続人が不存在の場合、失踪宣告を申し立てるか不在者財産管理人を選任するか、どちらかを選択しなければなりません。失踪宣告の方法にも普通失踪と特別失踪があり、状況に応じた選択が必要です。対応に迷ったときには専門の弁護士へ相談しましょう。

千葉県の法律事務所羅針盤では相続問題に力を入れて取り組んでいます。相続に関するお悩みごとがありましたらお気軽にご相談ください。

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