相続した遺産が振り込まれない。遺産分割協議が守られないときの対処法を弁護士が解説

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

当事務所にご相談いただく相続トラブルの中に、「みんなで納得して遺産分割協議が成立したのに内容を守らない相続人がいるので何とかしてほしい」というものがあります。

具体的には、

・自分が相続したはずの遺産を引き渡してもらえない
・不動産を相続したのに、居座られている
・親の介護をするという条件だったのに約束を守らない

といったものです。

そんなときでも、原則として、遺産分割協議の解除はできません。

相手方に、何とか約束を守らせるためには、まずは交渉を重ねることです。

それでも応じない場合は、調停や訴訟を起こすことが必要になる場合もあります。

この記事では、「相手が遺産分割協議で定めた約束を守らない」といったトラブルの対処法と、事前に防止するための方法を解説します。

約束を守らない相続人がいてお困りの方や、遺産分割協議後のトラブルを予防したい方はぜひ参考にしてみてください。

1.遺産分割協議の内容が守られない!よくあるパターンとは

遺産分割協議で約束した内容を守らないパターンとして、以下のような例がよくあります。

1-1.お金を振り込まない(代償金を支払わない)

遺産分割では、土地や建物、会社事業など現金にきれいに分割できないものを、相続する際に、他の相続人に代わりになる金銭(代償金)を払う「代償分割」がよく行われます。

最も多いのは自宅など売却できない不動産を相続して他の相続人へ、法定相続分に応じた代償金を払うようなケースです。

しかし代償分割によって財産を受け取り、代償金を払う義務があるにもかかわらず、様々な理由をつけて代償金を支払わない相続人が少なくありません。

1-2.不動産を引き渡さない、明け渡さない

遺産分割協議で不動産を相続したら、不動産は当然自分のものとなります。遺産分割前に使っていた相続人がいたら、不動産を相続した相続人へ引き渡さねばなりません。

ところが遺産分割後も不動産内に居座って引き渡しに応じない、明け渡さない相続人がいます。

1-3.親の介護をしない

遺産分割協議では、年老いた親の介護を引き受ける代わりに他の相続人よりも多めの遺産を相続するケースがあります。

ところが遺産はもらったにもかかわらず約束の介護をしない相続人がいます。

約束を守らない相続人がいる場合は、「再協議」や「履行の請求」

上記のように「約束を守らない相続人」がいると、他の相続人は大変迷惑を被ります。

大きなトラブルに発展するケースも少なくありません。

約束を守らない相続人がいたら、再協議、履行の請求などの対応を検討すべきです。

これらの対処法については、後半で詳しく解説していきます。

2.原則として、一度決まった遺産分割協議をなかったことにはできない(解除できない)

物やサービスを売買するときに行われるような一般的な契約の場合、相手が約束したサービスを提供しなければ「債務不履行」となり、契約の解除ができるのが原則です。

つまり、契約をなかったことにしてもう一度やり直せます。

これに対して、遺産分割協議の場合には原則として解除が認められていません。

最高裁判所が以下のように判断しているからです(最一判平成元年2月9日)。

「遺産分割協議の解除を認めると法的安定性が著しく害されるので、解除は認めない」

最高裁が遺産分割協議の解除を認めない理由をわかりやすくお伝えすると、以下の通りです。

  • 遺産分割協議が成立すると、相続開始時に遡って効力が生じる(民法909条)
  • 遺産分割協議の解除を認めると、あらためて相続開始時に遡って遺産の再分割の効力が発生する
  • このようなことを繰り返すと、何度も相続開始時に遡って効力が発生する遺産分割のやり直しとなり、いつまで経っても遺産分割の内容が確定せず安定しない

つまり遺産分割協議の解除を認めると遺産分割の内容が確定せず不安定な状況が続いてしまうので、解除は認めない、という意味です。

結論的に、遺産分割協議の内容を守らない相続人がいても、遺産分割協議そのものの解除は認められません。

3.遺産分割協議をやり直せるケース

例外的に遺産分割協議をやり直せるケースもあります。

3-1.相続人全員が納得した上で再協議した

相続人同士が話し合って再協議を行い、遺産分割の方法を決め直した場合です。

全員が納得して再協議するなら遺産分割のやり直しが可能です。

3-2.詐欺や強迫、錯誤があった

詐欺や強迫が行われた場合、遺産分割の重大な内容について勘違いをしていた場合には遺産分割協議の「取り消し」ができます。

他の相続人からだまされた場合(詐欺)、脅されたり暴行を振るわれたりして無理やり遺産分割協議に署名押印させられた場合などです。

取り消しをすると遺産分割協議の効果が失われるので、やり直しが可能となります。

3-3.公序良俗に違反する

遺産分割協議の内容が公序良俗に反する場合には、遺産分割協議そのものが無効になります。遺産分割協議の内容が公序良俗に反するのは、たとえば違法行為を前提として相続を認める場合などです。

過去には不倫関係の愛人への相続などが、公序良俗に違反するとみなされた判例もあります。(状況によっては認められる場合もあります)

この場合、解除や取り消しを行うまでもなく、遺産分割協議をやり直す必要があります。

3-4.資格のない人が遺産分割協議に参加した

遺産分割協議には参加できない人がいます。

たとえば、親権者と子ども(未成年者)の両方が相続人になる場合です。

父と母と小学生の息子3人家族で、もし父が死亡してしまった場合、母と小学生の息子が父親の財産を相続することになります。このときに、相続の判断などまだできない小学生の代理として、自分も相続人である母親が息子の相続についても決めてしまうと、自分にだけ有利なように相続の内容を決めてしまう可能性があります。

そのため、親権者は未成年者の代理人として遺産分割協議に参加できません。未成年者と親権者の利害が対立するためです。遺産分割協議を行うため、家庭裁判所で「特別代理人」を選任しなければなりません。

他には、認知症の進行した相続人がいる場合も同様です。

本人に意思能力が失われていたら本人が遺産分割協議に参加できません。家庭裁判所で「成年後見人」を選任する必要があります。

「特別代理人」を選任せずに親権者が遺産分割協議に参加した場合や、「成年後見人」を選任せずに進行した認知症の相続人が遺産分割協議に参加した場合、その遺産分割協議は無効になります。

こういったケースでも解除や取り消しをするまでもなく、遺産分割協議をやり直さねばなりません。

4.遺産分割協議の内容を守らない人がいる場合の対応

遺産分割協議の内容を守らない相続人がいる場合には、以下のように対応しましょう。

4-1.まずは、約束を実行するよう(履行を)求める

まずは約束を守らない相続人に対し、決めた内容をきちんと行動に移す(履行するよう)求めましょう。

たとえば代償金を払わないなら払うように請求します。

不動産の引き渡しをしない相手であれば、引き渡しや明け渡しを請求しましょう。

もし任意に支払いや明け渡しをしないのであれば、調停や訴訟を申し立てるしかないことを告げると相手にプレッシャーを掛けることができる場合があります。

場合によっては弁護士に依頼して、弁護士から相手に連絡してもらうのも効果的な対処方法となるでしょう。

4-2.約束を守れる状況に無いなら再協議を行う

相手が約束を果たさない、あるいは果たせない状況であれば、再度相続人全員で話し合って遺産分割方法を決め直すことも考えられます。

たとえば相手に預貯金など財産がなくて、どうしても代償金を払えないのであれば、支払い方法を含めて検討し直す必要があるでしょう。

ただし再協議には相続人全員の合意が必要です。1人でも納得しない相続人がいたら、再協議はできません。

再協議によって遺産分割方法を決め直したい場合は、他の相続人全員を説得する必要があります。

4-3.遺産分割後の紛争調整調停を申し立てる

約束を守らない相手に任意での履行を求めても無視される場合や再協議もできない場合には、家庭裁判所で「遺産分割後の紛争調整調停」を申し立てましょう。

遺産分割後の紛争調整調停とは、裁判所の調停委員会に間に入ってもらって遺産分割後に相続人間で生じたトラブルを解決するための手続きです。

当事者間のやり取りを調停委員が伝えるので、お互いにもめている相手と顔を合わせて直接話す必要がありません。調停委員会から解決案を提示してもらえるケースもあります。

相手と話すと感情的になってしまって協議が進まない場合などに役立ちます。

申立の手続きや調停中の話し合いなどは、自分で全て行うということも可能ではあります。

ただ、相続に関する法律知識や、状況を論理的に説明することなど一定のスキルが必要なため現実的には弁護士など専門家に依頼をするケースも多くみられます。

4-4.訴訟を提起する

調停は、あくまで話し合いによる解決を目指す手続きなので、当事者が納得しなければ合意に至らず解決できません。

また、相手方が調停の出席を拒否することも考えられます。

そのような場合は、調停が不成立となって終了してしまうため、訴訟を提起する必要があります。

この場合の訴訟の種類は、相手が守らない約束の内容によって異なります。

・代償金を払わないなら代償金支払い請求訴訟

相手が約束とおりに代償金を払わない場合には、代償金の支払い請求訴訟を提起します。

遺産分割協議が成立したにもかかわらず支払いが行われない場合、裁判所が支払い命令を出してくれます。

不動産を引き渡さない、明け渡さないなら明渡し請求訴訟

相手が不動産に居座って明け渡さない場合などには、所有権にもとづく不動産の明渡し請求訴訟を提起する必要があります。

親の介護を強制させることは難しい

なお相手が老親の介護をする約束をしたにもかかわらず介護をしない場合に強制的に介護をさせるための訴訟手続はありません。

この場合は、下記に説明する「扶養料」を請求して、親の生活にかかる金銭を支払ってもらう手立てが考えられますが、実際の介護を誰が行うかについては、相続人同士での話し合いを進めていく必要があります。

4-5.扶養料請求調停を申し立てる

老親の介護を約束したにもかかわらず約束が果たされない場合には、扶養料請求調停を申し立てる方法が考えられます。

扶養料とは、親族が互いに負担すべき扶養のためのお金です。

相手には親族として親の扶養料を負担すべき義務があるので、親から相手に扶養料を請求できるのです。

ただし扶養料を請求できるのはあくまで「親本人」であり、子どもなどの他の相続人ではありません。

また扶養料が認められたとしても、お金の支払を受けられるだけで「現実の介護」をさせることはできません。

親の介護を誰がどのように行うかについては、あらためて協議して決める必要があるでしょう。

5.遺産分割協議の内容を守らせるための工夫

ここからは、「相続した遺産が振り込まれない」「自分のものになったはずの不動産がもらえない」などのトラブルを防止するための方法を紹介していきます。

5-1.代償金の支払いを確実にさせる方法

代償金を確実に支払わせるためには、以下のような方法が考えられます。

できるだけ、一括で支払ってもらう

代償金はなるべく一括で払わせるべきです。分割払いにすると途中で支払われなくなるトラブルが起こることが考えられます。

分割払いを認めるとしても、なるべく短い期間で払い切る内容にすることがトラブルの防止につながります。

遺産分割協議書の署名押印と代償金支払いを同時に行う

遺産分割協議が成立したとき、同時に代償金を支払ってもらう方法も有効です。

支払いと同時に遺産分割協議書に署名押印する方法であれば、遺産分割協議後の支払い遅延の問題は発生しません。

公証役場で、公正証書として遺産分割協議書を作成する

公正証書は、公証役場で公証人という専門家立ち会いのもと、作成する公文書です。

「お金を安心してやり取りしたい」という目的よく利用されます。

相手を信用できない場合や長期の分割払いにせざるをえない場合には、遺産分割協議書を公正証書にしましょう。公正証書を作成すれば、相手が約束を守らないときに、裁判の手続きをしなくても、相手の資産を差し押さえて取り立てができます。

同時に遅延損害金を定め、保証人や不動産などの担保を入れさせるとより効果的な支払い遅延対策となります。

5-2.不動産の引渡しを確実にさせる方法

引き渡しを遅延した場合の遅延損害金を設定する

相手が約束とおりに不動産を引き渡さない場合、賃料相当額の遅延損害金を支払うなどの約束を盛り込みましょう。そうすれば、相手が引き渡さない間の損害金の支払いを受けられますし、相手には「引き渡さねばならない」というプレッシャーがかかります。

5-3.遺産分割調停で合意する

どうしても相手を信用できない場合には、遺産分割調停を申し立てて調停手続内で合意しましょう。

調停で決まった内容は調停調書にまとめられます。調停調書には強制執行力があるので、相手が約束を守らない場合には強制的に引き渡しや明渡しをさせることができます。

不動産の引き渡し、明け渡しについては公正証書を作成しても強制執行ができないので、強制執行力を担保するには調停で合意する必要があります。

まとめ

遺産分割後に起こりうるトラブルやその予防について説明してきました。

遺産分割協議では、合意に至る前も合意後もさまざまなトラブルが発生する可能性があります。

相手が親族の場合、その後の関係性が気になったり、情が湧くせいで、話し合いが進まなかったり、言いたいことが言いにくかったりということがよくあります。

そんな時にお役にたてるのが、我々のような専門家です。

対応に迷われたときには信頼できる法律家のアドバイスを受けると、解決への糸口をつかみやすくなります。

千葉県市川市の法律事務所羅針盤では遺産相続案件に力を入れて取り組んでいますので、お困りの相続人さまがおられましたらお気軽にご相談ください。

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