区分所有者が死亡した!滞納管理費は誰に請求すればいい?

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

管理費や修繕積立金を滞納している区分所有者が死亡してしまったら、滞納された管理費などは誰に請求すれば良いのでしょうか?

基本的には「相続人」に支払義務がありますが、管理組合にとって相続人が誰かは当然にはわからないので、まずは相続人を確定しなければなりません。

相続人がいても相続放棄されると、滞納管理費を請求できなくなってしまいます。

今回は区分所有者が管理費や修繕積立金などを滞納したまま亡くなった場合の対処方法を解説します。

管理費の滞納問題でお悩み管理組合の方はぜひ参考にしてみてください。

目次

1.滞納管理費の負債は相続人に相続される

近年、日本では少子高齢化が進み、マンション内で一人暮らしをしている高齢者も増えています。孤独死するケースも少なくありません。

中には管理費用や修繕積立金を払わないまま亡くなってしまう人もいます。

そんなとき、管理組合としては誰かに滞納された管理費用などの請求をしなければなりません。

区分所有者が管理費用を請求できる相手は、基本的に「死亡した区分所有者の相続人」です。相続人は、資産だけではなく負債も相続するからです。

複数の相続人がいる場合、負債の相続割合は法定相続分通りとなります。

相続人における滞納管理費負担の具体例

たとえば滞納管理費が50万円、相続人は4人の子どもだった場合、1人1人の相続人は12万5千円ずつ(4分の1)の滞納管理費支払義務を引き継ぎます。

よって、管理組合としては相続人を確定し、それぞれの相続人に対して管理費用の支払いを請求しなければなりません。

2.相続人を確定する方法

滞納管理費を相続人に請求するためには、どのような相続人がいるのか、連絡先も含めて確認する必要があります。

管理組合が区分所有者の詳細な家族関係、相続関係を把握しているケースは少ないからです。

相続人を確認するには、亡くなった区分所有者の戸籍謄本を取得しなければなりません。生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本類を取得すれば、どのような子どもや兄弟姉妹などの親族がいるのかがわかります。

判明した結果の親族関係を法定相続人のルールにあてはめれば、どのような相続人がいるのかを明らかにできます。

2-1.民法の定める相続人

民法の定める相続人についてのルールは以下のとおりです。

配偶者は常に相続人となる

亡くなった方に配偶者がいれば常に相続人になります。たとえば別居していても籍を抜いていなければ配偶者として遺産を引き継ぎます。

ただし内縁の配偶者は相続しないので、滞納管理費を請求できません。

子どもが第1順位の相続人

配偶者以外の相続人については、子どもが第1順位としてもっとも優先されます。

死亡時の家族の子どもだけではなく、過去に婚姻していたときの子どもや認知が成立した子ども、養子なども相続人になります。

親が第2順位の相続人

第2順位の相続人は親や祖父母です。

兄弟姉妹が第3順位の相続人

親や祖父母などの直系尊属もいない場合には、第3順位である兄弟姉妹が相続します。

2-2.戸籍調査の方法

相続人を確定するには、戸籍謄本を取得しなければなりません。戸籍謄本類は「本籍地のある役所」へ申請すると取得できます。区分所有者の本籍地を調べて役所へ戸籍謄本の申請をしましょう。

窓口へ行けばその場で発行してもらえますが、遠方の場合や手間になる場合などには郵送で申請するのがおすすめです。

戸籍謄本類(除籍謄本や改製原戸籍謄本を含む)は生まれてから死亡するまでのすべての分を確認する必要があります。戸籍謄本類に抜け漏れが生じると相続人を正しく確定できない可能性があるので、慎重に進めましょう。

相続人調査は非常に面倒な手続きです。労力を節約したい場合には、弁護士に依頼することもできます。

2-3.相続人の住所を特定する

相続人の状況を確認したら、次にそれぞれの相続人の住所を調べなければなりません。戸籍謄本類には住所は記載されていないので、別途書類を取り寄せる必要があります。

現住所については「住民票」または「戸籍の附票」に記載されています。

戸籍の附票は本籍地のある役所で取得できるので、戸籍調査の際に明らかになった本籍地へ申請すると良いでしょう。

なお住民票は住所のある役所へ申請しなければならないので、相続人がどこの市区町村に居住しているかわからない段階では取得が困難です。

3.相続放棄していないか確認する

戸籍調査によって相続人が確定しても、滞納管理費を請求できるとは限りません。相続人が「相続放棄」している可能性があるからです。

相続放棄とは、資産も負債も一切引き継がない旨の申述です。相続放棄すると負債を引き継がないので、管理組合としては滞納管理費を請求できなくなってしまいます。

また限定承認された場合にも、個別の相続人には管理費用を請求できません。

限定承認とは、相続した資産の範囲内で負債を引き継ぐ方法です。相続人が限定承認を申し立てると、相続財産管理人が選任されて債権者への支払いや受遺者への遺贈などの相続手続きを進めます。

もしも管理組合宛に相続財産管理人から連絡が来たら、債権届を出して滞納管理費の支払いを求めましょう。

3-1相続放棄しているかどうか調べる方法

相続人が相続放棄しているかどうかは、家庭裁判所へ照会して調べます。

照会先は「亡くなった方の最終住所地の家庭裁判所」です。

相続人の住所地を管轄する家庭裁判所ではないので、間違えないように注意しましょう。

情報照会できる人

家庭裁判所へ相続放棄の情報照会ができるのは、相続人または利害関係人です。

管理費が滞納されている場合の管理組合は債権者なので、利害関係人として情報照会できます。

必要書類

家庭裁判所へ相続放棄について情報照会する際には、以下の書類が必要です。

  • 死亡者の住民票除票

管理費用を滞納したまま亡くなった区分所有者の住民票除票が必要です。

区分所有者の最終住所地(マンションの所在地)Iのある市区町村役場へ申請しましょう。

  • 管理組合の資格証明書(総会議事録)

管理組合の資格証明書が必要です。総会議事録などを用意しましょう。

  • 相続関係説明図

相続関係説明図とは、区分所有者の相続人の関係を一覧で示した図面です。

家系図のようにして亡くなった方と相続人などの親族を線で結び、親族関係がわかるように作成しましょう。

  • 利害関係を示す資料

利害関係を示す資料としては、管理規約や不動産登記簿謄本(全部事項証明書)、管理費などの滞納状況がわかるものが必要です。

3-2.相続放棄と相続分放棄の違い

相続放棄されるとその相続人には滞納管理費を請求できなくなりますが、相続放棄と相続分の放棄は異なります。

家庭裁判所で相続放棄の申述をして受理されたときにはじめて「相続放棄した」といえます。

これに対し、単に遺産分割協議において「私は相続しない」と宣言し、資産の相続権を放棄するのが相続分の放棄です。

相続分の放棄をした場合、その相続人は資産を相続しませんが負債は相続します。

管理組合は、相続分の放棄をした相続人に対しても対応管理費を請求できます。

相続人としては「遺産分割協議で相続分を放棄したから負債も相続しないはず」と思いこんでいるケースがあり、そういった方は「私は相続放棄したから管理費を支払わない」と言ってくる可能性があります。

その場合でも正式に家庭裁判所で相続放棄していなければ滞納管理費を請求できるので、相続人の主張を鵜呑みにせずに家庭裁判所へ照会を行いましょう。

3-3.相続放棄していない相続人がいる場合もある

複数の相続人がいる場合、相続放棄した相続人としていない相続人がいる場合もよくあります。

相続放棄はそれぞれの相続人が単独で行えるからです。

たとえば子どもが3人いる場合、次男と三男は相続放棄していても長男は相続放棄していないケースなどが考えられます。

その場合、長男には滞納管理費の請求ができるので、「特定の相続人から相続放棄されたから誰にも請求できない」と思い込まないよう注意しましょう。

3-4.後順位者へ義務が移転する場合もある

同順位の相続人が全員相続放棄したとしても、後順位の相続人へ滞納管理費を請求できる可能性があります。

先順位者が相続放棄すると、当然に後順位者へと相続権が移るからです。たとえば子どもが全員相続放棄した場合において、兄弟姉妹が相続するケースは珍しくありません。

その場合には、後順位の相続人が相続放棄しない限り、後順位者へと滞納管理費を請求できます。

4.請求できる管理費の金額と請求方法

相続人が遺産を相続する場合には、滞納管理費を相続人へ請求できます。

生前に管理費用が滞納されていた場合、相続開始後も管理費用が払われていないケースが多いでしょうから、「生前の滞納管理費」と「死後に発生した滞納管理費」の両方を請求する必要があります。

生前の滞納管理費と死後に発生した滞納管理費では、各相続人へ請求できる金額が違ってくる可能性があるので、以下でそれぞれについて分けてみてみましょう。

4-1.生前の滞納管理費は分割請求する

生前に発生した滞納管理費については、相続人に「全額の請求」ができません。

各相続人は、法定相続分に対応する分までしか責任を負わないからです。

相続人が複数いる場合には、それぞれの法定相続分に対応した負債額を計算し、個別に請求する必要があります。

たとえば30万円の滞納管理費があって子どもが3人で相続した場合、管理組合は子どもたちそれぞれに対し、10万円ずつ請求しなければなりません。

誰かにまとめて30万円請求することはできないので間違えないようにしましょう。

4-2.死後の滞納管理費は全額を請求できる

区分所有者の死後に発生した滞納管理費は、各相続人へ全額を請求できます。

なぜなら死後に発生した滞納管理費は相続財産ではなく「相続人ら自身の負債」となるからです。

区分所有者の死亡により、相続人らはマンションを相続してマンションの新たな所有者となります。この場合のマンションの所有関係は「相続人らの共有状態」です。

そして、共有者が負担する管理費などの債務は「不可分債務」といって、それぞれの相続人が全額を払わねばなりません。

よって債権者である管理組合は1人1人の相続人へ対応された管理費を全額請求できるのです。

たとえば死後に15万円の滞納管理費が発生しており子ども3人が相続人になっている場合、1人に15万円請求してもかまいません。

5.相続人がいない場合は相続財産管理人を選任する

相続人が全員相続放棄した場合や相続人となるべき親族がいない場合、相続人へ管理費を請求できません。

この場合、「相続財産管理人」へ滞納管理費を請求する必要があります。相続財産管理人とは、相続人がいない場合などに遺産を管理して換価し、債権者への配当などを行う人です。

相続財産管理人は、亡くなった方の最終住所地を管轄する家庭裁判所で選任申立をすれば選任してもらえます。

裁判所で相続財産管理人が選任されたら、滞納管理費についての債権届を出して滞納管理費の支払いを受けましょう。

6.区分所有者が亡くなったら弁護士までご相談ください

区分所有者が死亡したときの対応方法は複雑です。

戸籍調査は非常に手間がかかりますし、相続人との交渉や相続放棄の照会にも労を要するでしょう。

弁護士に任せればスムーズに相続人の確定や相続放棄の照会ができて、滞納管理費の請求手続きを進めやすくなります。

千葉県市川市の法律事務所羅針盤ではマンション管理組合のサポートに力を入れていますので、お気軽にご相談ください。

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