法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。
マンションの区分所有者が破産してしまった場合、滞納管理費はどのようにして回収すれば良いのでしょうか?
結論からいうと、破産手続きそのものから弁済を受けることは極めて難しくなります。「特定承継人」に請求するのがもっとも現実的でしょう。
この記事ではマンション管理費等を滞納している区分所有者が破産した場合に、マンション管理組合が滞納管理費等を回収する方法についてお伝えします。管理費を払わないまま区分所有者に破産されてしまったマンション管理組合の方はぜひ参考にしてみてください。
1.破産とは
管理費用を滞納されたまま破産された場合、マンション管理組合は破産手続きに参加することになります。
そもそも破産とはどういった制度なのか、簡単に確認しましょう。
1-1.破産手続きの概要
破産は破産者の財産を換価して債権者へ配当するための手続きです。
債務者が自分で破産を申し立てるケースを「自己破産」といいますが、一般的にはこの「自己破産」という言葉がよく使われています。
破産手続きでは原則的に、破産管財人が選任されて管財人が財産を債権者に配当します。ただし「同時廃止」という手続きになると、破産管財人は選任されません。
個人が破産を申し立てる際には「免責」の決定も行われます。
免責とは「負債の支払義務をなくす決定」です。免責が降りると「破産手続開始決定時に存在していた債務」はすべて支払い不要となります。
つまりマンション管理費を滞納されていた場合でも、相手が免責を受けてしまえばもはや支払いをしてもらえなくなるのです。
以上が破産手続きの概要です。
1-2.破産手続きの流れ
次に破産手続きの流れを簡単に確認しましょう。なお以下は管財事件となった場合の流れです。
申立て
まずは破産者によって破産と免責の申立が行われます。
破産手続開始決定
裁判所によって破産手続開始決定があり、同時に破産管財人が選任されます。
債権調査
債権調査が行われます。管理組合にも管財人や裁判所から債権調査票が届くので、滞納管理費について届け出る必要があります。債権の明細を、資料をつけて管財人へ返送しましょう。
管財人による換価
並行して、破産管財人によって破産者の財産が換価されます。
債権者集会、財産状況報告集会
破産管財人が財産の換価や配当を行っている間に裁判所では月1回程度の頻度で債権者集会や財産状況報告集会が開かれます。
マンション管理組合は債権者として債権者集会や財産状況報告集会に参加できます。参加した場合には、気になることなどを質問する権利も認められます。一方、都合が悪ければ無理に出席する必要はありません。
配当と終結
換価の手続きが終了したら管財人によって配当が行われます。この時点でマンション管理組合も何がしかの配当を受けられる可能性があります。
ただし配当率は数%となってあまり高くはならないケースが多数です。全額の回収は困難と考えるのが無難でしょう。
免責の判断
裁判所によって債務者を免責するかどうかの判断が行われます。免責されると破産者は滞納管理費を含めて基本的にすべての負債を支払う義務がなくなります。
2.破産手続きから回収する方法
管理費用を滞納されたまま破産されると、マンション管理組合は相手に対して「破産債権」を持っている状態になります。
2-1.破産債権とは
破産債権とは、一般的な権利として破産手続きによって弁済を受けるべき債権です。
マンション管理組合は「滞納管理費」を区分所有者に請求する権利をもっているので、この権利が破産債権となります。
破産債権を持っている債権者は破産手続きに参加して、配当を受けられます。
ただし破産手続きによる配当率は低いので、配当から多くの支払いを受けることは期待できません。たとえば配当率が5%の場合で滞納管理費用が50万円の場合、25000円しか配当を受けられません。
全額の回収を受けるのはほぼ不可能と考えましょう。
2-2.優先的破産債権とは
マンションの滞納管理費用は、破産債権の中でも「優先的破産債権」となります。
優先的破産債権とは、破産債権の中でも優先して支払いを受けられる債権です。
配当原資となるお金が貯まったとき、まずは優先的破産債権から配当が行われ、次に一般の破産債権、最後に劣後的破産債権へ配当が行われます。
ただ、いずれにしても配当原資自体がさほど高額にならないので、たとえ優先的破産債権になるとはいってもさほど大きな金額を回収できないケースが多数です。
2-3.財団債権とは
破産手続きに関連する債権として「財団債権」もあります。
財団債権とは、破産手続きによらずにいつでも全額回収できる債権です。
財団債権を有していれば、破産手続き中でも破産者へ支払いを請求して回収できる可能性があります。例をあげると、破産者が滞納している税金や保険料などは財団債権となります。
ただ破産手続前に発生している滞納管理費用は財団債権ではありません。管理費用を滞納されている場合には、破産債権者として破産手続きから弁済を受けるしかないといえます。
3.特定承継人から回収する方法
以上のように、破産手続きから滞納管理費の全額の支払いを受けるのは困難です。
マンション管理組合としては、「特定承継人」へ請求するのが現実的です。
「特定承継人」とはどのような人なのか、みてみましょう。
3-1.特定承継人とは
特定承継人とは、マンションの区分所有権を引き継いだ人です。
区分所有法では、第7条、8条で管理規約や総会決議にもとづいて発生した債権などについて、区分所有者の「特定承継人」にも承継されると規定されています(区分所有法7条、8条)。
第7条 区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
第8条 前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。
これらの規定にもとづき、滞納された管理費用は区分所有者本人だけでなく「特定承継人」にも請求できるのです。
その場合、区分所有者と特定承継人の関係は「連帯債務」となります。
3-2.特定承継人の範囲
滞納管理費の支払義務を引き継ぐ特定承継人としては、売買や贈与によってマンションの所有権を取得した人、強制執行や担保権の実行(競売)によってマンションの所有権を取得した人などが該当します。
一方、相続人は特定承継人に入らないと考えられています。
つまり区分所有者が破産しても、マンションが売却されて他人のものになれば、特定承継人として滞納管理費を請求できる可能性があります。
3-3.特定承継人の債務は免責されない
「区分所有者が破産して滞納管理費の支払義務が免責されるなら、特定承継人の負債も免責されるのでは?」
と心配になる方もいるでしょう。
その心配は不要です。区分所有者が破産しても、特定承継人の負債は免責されません。
特定承継人は特定承継人自身の支払義務を負っていると考えるべきだからです。
破産者と特定承継人の負債は異なる負債(連帯債務であってもそれぞれが債務を負っている状態)なので、区分所有者が破産しても特定承継人へは請求が可能です。
以上、特定承継人の負債は免責されず全額の請求ができるので、滞納管理費の支払いを受けたいなら特定承継人へ請求する方法が有効です。
3-4.特定承継人が現れるケース
破産手続きにおいて特定承継人が現れるのは、以下のようなケースです。
管財人が任意売却する
破産管財人が選任されると、管財人はマンションの売却手続きを進めます。
破産者が所有するマンションにはローンが残っているケースが多いのですが、ローンつき物件の売却を「任意売却」といいます。
任意売却によって買い手が見つかったら、その買い手が「特定承継人」となります。
よって管理組合は、任意売却でマンションを買い取った人(特定承継人)へ滞納管理費を全額請求できます。
競売によって落札者が現れる
任意売却できない場合には、マンションが競売にかかります。
競売にかけると、入札者があらわれてマンションが落札されます。
競売手続きにおける落札者も特定承継人の範囲に入ります。
よって管理組合は、競売によって現れた落札者にも滞納管理費を全額請求できます。
3-5.特定承継人が出現しないケース
破産手続きの中でも特定承継人が出現しないケースがあります。
それは以下のような場合です。
異時廃止となった場合
いったんは管財人が選任されても、換価するような財産がみあたらない場合には破産手続きが終了してしまいます。これを「異時廃止」といいます。
異時廃止となった場合、配当は行われませんしマンションの売却も行われません。
特定承継人は現れないので、管理組合としては特定承継人に請求できない結果となってしまいます。
管財人によって放棄された場合
マンションがオーバーローンで売却しても配当原資を得られない場合や任意売却が困難な場合などには、管財人がマンションを破産財団から放棄してしまう可能性があります。
放棄された財産は破産手続きで「無視」されるので、次の所有者が現れることもありません。特定承継人は現れないので、管理組合は特定承継人へ請求ができません。
同時廃止となった場合
マンションが明らかにオーバーローンで破産者に他に目立った財産がない場合には、破産管財人が選任されない「同時廃止」という手続きが採用されます。
同時廃止になった場合にもマンションは破産手続きに関与してこないので、任意売却なども行われません。特定承継人が現れることはないのです。また同時廃止の場合、配当もありません。
手続きが同時廃止になったかどうかは裁判所から届く「破産手続開始決定」をみればわかります。同時廃止が選択されている場合、破産手続きが進んでも特定承継人は現れず滞納管理費の請求は難しいと考えましょう。
競売手続きによって回収できる場合もある
破産手続きにおいて特定承継人が現れないケースであっても、その後に競売が行われて特定承継人が現れる可能性があります。
破産者がマンションを所有している場合には、たいてい明らかなオーバーローンです。その場合、金融機関が担保権にもとづいて物件の競売を申し立てることができます。ローン滞納期間が概ね半年程度になると、保証会社が代位弁済を行って競売が申し立てられます。
競売が行われた場合、数か月が経過して手続きが終了すると落札者が現れるので、その落札者が特定承継人となります。
よってマンション管理組合は特定承継人である落札者へ滞納管理費を全額請求できるのです。
4.破産前なら差し押さえや競売が可能
以上のように、マンション管理費を滞納されたまま破産されると、破産者からの回収は難しくなってしまいます。
ただ破産前であれば、破産者の財産を差し押さえたり、マンション管理組合が自らマンションを競売にかけて特定承継人を出現させたりすることも可能です。
区分所有者に借金などがあって破産しそうな様子を見せていたら、早めに競売申立などの準備に入るのが良いでしょう。困ったときには弁護士までご相談ください。
まとめ
滞納管理費を回収するには早期の対応が何より重要です。当事務所ではマンション管理組合が直面することの多い法律問題を多数取り扱っています。区分所有者がマンション管理費を払わずお困りのマンション管理組合様は、お早めにご相談ください。