マンション管理費を滞納した区分所有者の氏名を公表することの可否

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

マンション管理組合の運営上、区分所有者に管理滞納等の問題行動があった場合に、マンション管理組合が、その区分所有者の氏名の公表を検討する場合があります。

今回は、このような場合に、マンション管理組合が区分所有者の氏名を公表しても問題ないか、説明していきます。

1 区分所有者氏名の公表は慎重に検討する必要があります。

マンション管理組合が区分所有者に関する情報(特定の区分所有者が管理費を滞納していることなど)を公表することが、当該区分所有者に対する名誉棄損・プライバシー侵害に該当する可能性があります。

名誉棄損等に当たる場合は、当該区分所有者からマンション管理組合に対する損害賠償請求が行われる可能性があるため、氏名等の公表を行う場合は、その当否を慎重に検討する必要があります。

2 マンション管理組合が検討すべき内容

(1)公表すべきレベルの問題行動であるか

区分所有者の問題行動も様々であり、その問題行動を公表すべきか否かは、マンション管理組合全体で情報を共有の上、検討する必要があるかどうかによります。

例えば、マンション管理費の滞納問題で言えば、滞納期間が1か月である場合と10年である場合とでは問題レベルが異なります。

1か月の滞納である場合は、入金忘れなどの単なる不注意である可能性もあり、まずは穏当に入金を促すべきでしょう。また滞納期間が数か月程度となっている場合でも、滞納の原因について、管理会社、管理組合が当該区分所有者から直接聴取の上、問題解決の話し合いを行うなど、内々の手続を検討すべき場合が多いものと思われます。

他方、管理費を10年間滞納している区分所有者がいる場合、これは管理組合の運営に直接影響する重要問題であり、全区分所有者が問題意識を共有できるよう、氏名等の公表を検討するレベルの問題と言えます。

(2)公表目的が適当か

公表を検討すべき場合でも、当該区分所有者に対する制裁目的で氏名等を公表することは原則として許されません。

他方、滞納管理費の支払いを促すことを目的とする場合や、その問題に関する総会・理事会での検討状況を全区分所有者に周知することを目的とする場合などは、目的は適正とされる場合が多いでしょう。

(3)公表手段が適当か

マンション組合が区分所有者氏名の公表を検討する場合、マンション掲示板への掲載、マンション各戸配布物への掲載、総会・理事会議事録への掲載などが考えられます。

どの方法が適当であるかはケースバイケースですが、マンション掲示板への掲載の場合、設置場所によっては区分所有者以外のマンション来訪者にも情報が伝わってしまう可能性があるため、より慎重な検討が求められます。

(4)公表内容が適当か

区分所有者との間で訴訟が係属している場合に、訴状などの訴訟書面をそのまま公表することは必要以上の情報開示と認定されてしまうおそれもあります(後記東京高等裁判所判決参照)。

また、公表目的が単にマンション全体の管理滞納状況を報告することにある場合などは、氏名の公表自体必要とされないケースが多いものと思われます。

公表目的との関係で、必要最低限の公表内容となっているか、慎重に検討することが望まれます。

3 参考裁判例

(1)東京地方裁判所平成11年12月24日判決

団地管理組合の代表者が管理費を滞納している区分所有者の氏名・滞納期間を一覧表にして、道路沿いに立看板を設置して公表したところ、当該区分所有者が同代表者に対し、公表により名誉を棄損されたとして損害賠償請求を行った事例(区分所有者の請求は棄却)

「まず、本件立看板の文言及びその記載内容は、右2(二)によれば、単に原告らが管理費を滞納している事実及びその滞納期間等を適示したもので、右2(四)のとおり、原告らには管理費の支払義務があるので、その内容は虚偽ではない。次に、A(筆者注:団地管理組合)は、右2(二)によれば、総会における会員の発議により、総会の決議に基づき役員会の決議を経た上で会則の適用を決定し、その後、滞納金額等を公表すること及び管理費納入の意思があれば公表を控える旨を原告らに通知し、本件立看板設置前に一応の手段を講じている。そして、右2(一)及び(三)によれば、原告らの〇〇会がAを批判してそのメンバーが管理費を滞納していること及び本件立看板は34か所にもわたって設置され、本件別荘地に住民以外の者も出入りできるため、住民以外の者も原告らが管理費を滞納してい知り得る状態にあったという事情はあるが、Aとしては、管理費を支払っている会員との間の公平を図るべく、原告らにつきサービスが停止されたことを関係者(来訪者など)に知らせ、ゴミステーションの利用等Aが提供するサービスを利用させないようにするために、本件立看板を、特にその大半をゴミステーション付近に設置したものであり、公表という措置そのものがもつ制裁的効果はあるとしても、ことさら不当な目的をもって設置したものとまではいえない。また、本件立看板が1年以上設置されたのは、原告らが依然として管理費を支払おうとしないためであり、Aは、管理費を一部でも支払えば氏名を削除するという対応をとっていたものである。
このように、本件立看板の設置に至るまでの経緯、その文言、内容、設置状況、設置の動機、目的、設置する際に採られた手続等に照らすと、本件立看板の設置行為は、管理費未納会員に対する措置としてやや穏当さを欠くきらいがないではないが、本件別荘地の管理のために必要な管理費の支払を長期間怠る原告らに対し、会則を適用してサービスの提供を中止する旨伝え、ひいては管理費の支払を促す正当な管理行為の範囲を著しく逸脱したものとはいえず、原告らの名誉を害する不法行為にはならないものと解するのが相当である。」

東京地方裁判所平成11年12月24日判決

(2)東京高等裁判所平成24年11月14日判決

マンション管理組合Yが、マンション掲示板に、区分所有者XがYを被告として提起した別件訴訟の訴状のコピーを掲示したところ、Xが多大な精神的苦痛を受けたとして、Yに対し、損害賠償請求を行った事例(区分所有者Xの請求を一部認容)

「(1)情報伝達の範囲
本件掲示板は、オートロックで施錠されている玄関の内扉内に存在するものの、本件マンションの区分所有者ではない単なる訪問者が玄関の内扉内を通行することもあるから、本件掲示板に本件前訴訟の訴状がXの実名及び住所等入りのまま掲示されることにより、本件前訴訟の請求の具体的内容のみならず、Xの実名及び住所等までが、本件マンションの区分所有者だけでなく、それ以外の者にも知られる可能性がある。
(2)情報伝達による不利益の程度
前記1(3)、2(1)のとおり、Xが本件前訴訟を提起したことが本件マンションの他の区分所有者等に知られることにより、Xの私生活上の平穏が害される可能性がある。他方、裁判の公開の原則に照らせば、Xは、自ら原告となって訴訟を提起したのであるから、訴訟提起の事実やその請求内容が、一定の限度で他社に知られることは、ある程度、受任すべきことであるということもできる。
(3)情報を伝達する目的及び必要性
マンションの管理組合であるYに対して訴訟が提起されたことは、それ自体、管理組合の運営上重大な問題であり、特に、本件前訴訟の請求原因事実は、Yの駐車場の管理の瑕疵により、鉄製側溝蓋が放置され、そのことにより100万円を超える被害が生じたというものであるから、訴訟の内容は、本件マンションの区分所有者の生活にとって密接な利害のある問題であるということができる。したがって、本件前訴訟の原告が本件マンションの区分所有者であること、また、請求の趣旨や請求原因事実については、本件マンションの全区分所有者に周知する必要性を肯定できないわけではない。
しかしながら、本件マンションの管理規約には、管理組合であるYに対して提起された訴訟につき、応訴すること及び弁護士に訴訟委任することは総会の議決事項(47条)とはされていないため、これらの事柄については理事会限りでの対処が可能であること、また、理事会が訴訟に対応するために全区分所有者に訴訟の原告の実名及び住所等を知らせることが要求されている事実も認められないこと、さらに、総会においては、管理組合の業務に関する重要事項が議決の対象とされることがあり(管理規約47条14号)、本件前訴訟の経緯等が同重要事項とされたとしても、同訴訟の原告の実名及び住所等をも知らせた上で決議を経るまでの必要性を認めるに足りる事情はないことなどに照らせば、本件前訴訟の原告としてのX実名及び住所等までを本件マンションの全区分所有者に周知する必要性は、これを認めることはできない。
(4)情報伝達の手段及び態様について
Yは、本件掲示行為に加え、Xの筆跡や文体が直接表現されている本件前訴訟の訴状のコピーをXの実名及び住所等入りでそのまま本件掲示板に掲示し、これを本件マンションの全67戸に配布していること、Yは、本件前訴訟の訴状のコピーが剥がされては掲示することを繰り返し、本件前訴訟の訴状のコピーの掲示は7回に及んでおり、執拗であることに照らせば、本件掲示行為及びこれに関連する情報伝達の手段及び態様は、社会通念上許容された範囲を超えるものであったというべきである。
(5)まとめ
以上の比較衡量の判断要素を総合的に考察すれば、本件前訴訟の訴状のコピーをXの実名及び住所等入りのままで本件掲示板に掲示して公表されない法的利益は、これを本件掲示行為によって公表する理由に優越するというべきであり、YがXの実名及び住所等入りのままで本件掲示行為を行ったことを正当とするまでの理由はない。」

東京高等裁判所平成24年11月14日判決

(3)東京地方裁判所平成31年3月5日判決

マンション区分所有者であるXが、管理組合Yに対し、YがXを管理費等の長期滞納者として広報誌に掲載したことなどが不法行為に該当するとして、Yに対する損害賠償請求を行った事例(Xの請求は棄却)

「前期認定事実によれば、Xは、平成12年12月以降、長年にわたって管理費等を支払わなくなり、そのため、Yは、平成16年頃にこれらの支払を求める訴訟を提起し、平成17年頃にはXに対して支払を命じる旨の判決が確定したが、依然としてXは管理費等を支払わなかったこと、平成20年8月28日にはX以外の本件居室の区分所有者が本件居室に係る管理費等の一部を供託し、平成22年5月28日までの間に、Xを含めた本件居室の区分所有者が、同日までの管理費等の元金に相当する額の供託するに至ったものの、なお、既発生の遅延損害金が支払われておらず、Yとして訴訟提起に至ったこと等の事実が認められ、これらの状況に照らすと、Yにおいて、Xが不払を続けていた管理費等の回収を目標として各種対策を講じる必要があったことは明らかであり、前記のYによって講じられた各種対策は、いずれも合理的事情に基づくものと評価することができるから、Xに対する関係で名誉棄損ないし村八分として不法行為を構成するとは認められず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。」

東京地方裁判所平成31年3月5日判決

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