マンション総会決議が無効になるケースと無効にしないための注意点について

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

マンション総会ではさまざまな決議が行われますが、一定の場合には「無効」になってしまう可能性があります。

管理組合の立場として、どういったケースであれば無効になるのか、無効にしないためにどのような点に注意すれば良いのか確認しましょう。

今回は、マンション総会決議が無効になる要件や無効の主張方法、管理組合にならないためにどういった対応をとるべきかなど、組合運営に必要な知識を不動産関係に積極的に取り組んでいる弁護士が解説します。

目次

1.マンション総会が無効になることがある

マンション総会は、マンション管理組合にとって非常に重要な意思決定機関です。

マンション管理規約の内容や管理者の選任、共有部分の管理に関する事項など、重要事項の取り決めを行います。

ただし総会で取り決めたからといって、すべての事項が有効となるとは限りません。一定のケースでは、マンション総会が無効になってしまう可能性があります。

マンション総会が無効になると、その総会で取り決めた事項はすべて意味がなくなります。

区分所有者が総会へ出席した意味もなくなり「決議が有効に行われた」と信じた住人の信頼も失い、再決議が必要になるなどして混乱が生じるでしょう。マンション総会の無効は可能な限り避けなければなりません。

法律は、一定のケースにおいてマンション総会が無効になると規定しています。管理組合を運営するなら、まずは「マンション総会が無効になるケースがある」ことを把握しておきましょう。

「無効」と「不存在」の違い

マンション総会で決議された内容の効力が認められないパターンとしては「無効」だけでなく「不存在」もあります。

無効と不存在の違いも確認しましょう。

無効とは

総会決議の無効とは、決議があったけれども効力が認められないケースをいいます。

不存在とは

総会決議の不存在とは、総会決議があったとすら評価できない場合です。瑕疵(問題)の程度が著しく大きいために総会決議自体がなかったとされるのが不存在です。

たとえば総会決議が行われていないのに、総会が行われたかのような議事録のみ作成されたときには「無効」ではなく「不存在」となります。

両者の違いは基本的に瑕疵の程度であり、問題が一定以上大きくなると「不存在」と評価されると考えましょう。

ただ裁判実務では「無効」と「不存在」がさほど厳密に区別されていません。

要件的にも大きな違いはないので、マンション総会決議に問題があれば、瑕疵の程度に応じて無効や不存在を主張すると良いでしょう。

2.マンション総会の決議が無効になる2つのパターン

マンション総会は以下の2つのケースにおいて無効になります。

2-1.手続きに瑕疵がある場合

1つ目は、総会の手続きに瑕疵がある場合です。

瑕疵とは、法令違反や規約違反をいいます。

マンション決議が行われる過程において、手続き的な問題があれば無効になると規定されています。

2-2.内容に瑕疵がある場合

2つ目は、総会の決議内容に瑕疵がある場合です。

マンション総会では必ずしも適正な内容が取り上げられるとは限りません。内容的に瑕疵がある場合にも総会決議が無効になってしまいます。

以下ではマンション総会の手続き的瑕疵と内容的瑕疵について、より詳しくご説明します。

3.手続きに瑕疵がある場合

まずは手続き的な瑕疵がある場合をみてみましょう。

手続き的瑕疵とは、マンション総会決議に至るまでの手続きに法令違反や管理規約違反があった場合です。

たとえば裁判例では、以下のような場合に手続き的瑕疵があると争われました。

  • 管理者ではないものが招集通知を行った(大分地裁平成22年6月30日)
  • 一部の区分所有者に対する招集通知に問題があった(東京地裁昭和63年11月28日)
  • 特定の区分所有者について委任状を不受理扱いにした(東京地裁平成19年9月25日)
  • 代理人と称する人が総会に出席してさまざまな異議を述べ、総会を紛糾させた(東京地裁平成13年2月20日)

3-1.瑕疵が軽微な場合には無効にならない

マンション総会の手続きに瑕疵があったとしても、必ずすべての事案で無効になるわけではありません。法律上「瑕疵が軽微で、その瑕疵によって決議の結果に影響を及ぼさないことが明らか」である場合には、決議は無効にならないとされているからです。

つまり瑕疵が軽微な場合、手続き的な問題があってもマンション総会が有効となります。

マンション総会の有効性が争われた裁判例でも、手続き的瑕疵はあっても決議は有効と判断するものがいくつも存在します。

3-2.区分所有者も軽微な瑕疵にもとづく無効を主張できない

手続き上の瑕疵が軽微な場合、区分所有者による無効の主張にも制限がかかります。

まず手続き上の軽微な瑕疵を知りながら決議に参加した区分所有者は、マンション総会の無効を主張できません。

瑕疵を知らなかった区分所有者も、瑕疵が手続き上の軽微なものにとどまる場合には決議後一定期間が経過すると無効を主張できなくなります。

3-3.無効になるかどうかの判断基準

マンション総会決議に手続き的瑕疵があった場合、以下のような点を基準にして無効となるかどうかが判断されます。

  • 瑕疵の具体的な内容や重大性

具体的にどういった瑕疵があったのかが問題となります。

瑕疵の内容瑕疵が重大であれば無効となる可能性が高くなり、軽微であれば有効となる可能性が高まります。

  • 瑕疵がなければ勝敗が転換していた可能性の大きさ

たとえば賛成票と反対票が拮抗しており、瑕疵がなければ結論が転換していた可能性が高い場合などには、決議が無効となる可能性が高くなるでしょう。

マンション決議の無効が争われるケースで実際に無効とすべきかどうかについては、法律の専門的な判断能力が必要です。迷われたときにはマンション管理に詳しい弁護士へご相談ください。

4.内容に瑕疵がある場合

次に、マンション総会で決議内容に瑕疵がある場合についてみてみましょう。

決議内容に瑕疵がある場合とは、決議された内容そのものに違法性や管理規約違反が認められるケースです。法令や管理規約違反については、区分所有法や民法だけではなくあらゆる強行法規に違反する場合が含まれます。

内容的瑕疵については手続き的瑕疵とは異なり「軽微な場合には無効にならない」といった例外もありません。法律違反などがあれば、すべてのケースで決議が無効になると考えましょう。

4-1.「特別の影響を受ける区分所有者」に要注意

実務上、頻繁に問題となるのは「特別の影響を受ける区分所有者の承諾」に関する規定です。

マンション総会で一定の決議を行う際、決議によって特別の影響を受ける区分所有者の承諾を得なければなりません。

それにもかかわらず承諾を得なければ、法令違反となってマンション総会決議が無効となってしまいます。

法令上、特別の影響を受けるので区分所有者の承諾を必要とするのは以下のような場合です。

  • 共用部分の変更により、特定の区分所有者の専有部分の使用に特別の影響がおよぶ
  • 共有部分の管理に関する決議が特定の区分所有者の専有部分の使用に特別の影響を及ぼす
  • マンションの敷地や共用部分以外の附属施設で区分所有者の共有となるものの変更、管理に関する決議が専有部分の使用に特別の影響を及ぼす
  • 規約の設定、変更、廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼす

上記の1つにでも該当する場合、対象の区分所有者の承諾を得ていなければマンション総会決議が違法・無効となります。

4-2.特別の影響があるかどうかの判断基準

区分所有者に「特別の影響」があるかどうかは抽象的です。どのように判断されるのでしょうか?

最高裁では、以下のような判断基準が示されています。

「規約の設定、変更等の必要性及び合理性と、これによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係に照らしてその不利益が区分所有者の受任すべき限度を超えると認められる場合をいう」(最高裁平成10年10月30日)

つまり①規約内容の設定や変更の必要性が高く合理性があれば特別の影響は認められにくくなります。一方で②一部の区分所有者が受ける不利益が大きければ特別の影響が認められやすくなります。

結論的には、①と②の要素を比較して、区分所有者が我慢すべき限度を超えると認められる場合に特別の利益となると理解されています。

5.マンション総会決議の無効主張方法

マンション総会決議が無効と考えられるとき、各区分所有者はどのようにして無効を主張すればよいのでしょうか?

5-1.決議の無効を主張する

まずは管理組合などに伝えて任意で総会を無効としてもらうのが簡便です。

マンション管理組合へ総会の無効理由を伝え、状況に応じて再度決議をやり直すよう求めましょう。

話し合いで解決できれば、トラブルを大きくせずに済みます。

5-2.訴訟を起こす

話し合いでは解決できない場合、マンション総会の無効確認訴訟を提起する必要があります。

一定以上の程度の手続き的瑕疵や内容の瑕疵があれば、裁判所が決議無効を判決で決定してくれます。これにより総会決議は効力を失うので、決議された事項も意味がなくなります。

6.マンション総会決議を無効にしないための対応ポイント

マンション管理組合の立場からすると、できる限り決議を無効にしないことが重要です。

いったん取り決めた事項が無効になると、混乱が生じて大きなトラブルが発生してしまうためです。

総会決議が無効にならないためには、以下の点に注意しましょう。

6-1.無効になるケースを知る

まずは、どういったケースで総会決議が無効になるのか知っておくべきです。

法律的な要件を知ることはもちろん、具体的な事例についても勉強しておくとよいでしょう。本記事の内容も参考にしていただけましたら幸いです。

6-2.招集手続きを慎重に行う

マンション総会の手続き的瑕疵としては、招集手続きに関するものが多数となっています。

一部の区分所有者へ招集通知が送られなかった、権利のないものが招集通知を送った、委任状を受け付けなかったなどの問題があると、無効を主張される可能性が高いと考えましょう。

このような問題を起こさないように招集手続きを慎重に行えば、手続き的瑕疵を主張されるリスクが大きく低減されます。

6-3.強行法規に違反しない

マンション総会決議の内容に法令違反があると、決議が無効になってしまいます。これを避けるには、各種法令を知っておかねばなりません。区分所有法や民法その他の法律について、違反しないように事前にしっかり確認しましょう。

自分たちで調査や対応に限界を感じるなら、弁護士に相談すべきです。

6-4.特別の影響を受ける区分所有者から承諾を得る

実務上、とくに問題になりやすいのが「特別の影響を受ける区分所有者」に関する規定です。

該当する人がいる場合には、承諾をとらないと決議が無効になってしまいます。

とはいえ特別の影響を受けるかどうか自分たちで正確に判断するのは難しいでしょう。

該当するかどうかわからない場合、念のために承諾書をとっておくようおすすめします。

そうすれば、後に特別の影響を受けると主張されて無効といわれるリスクを大きく低減できるでしょう。

マンション総会を安全かつスムーズに運営するには、法律の専門知識が必要です。千葉県市川市の法律事務所羅針盤ではマンション管理組合へのアドバイスや法務サポートに力を入れていますので、お気軽にご相談ください。

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