相続分譲渡とは?手順や必要書類、相続放棄との違いを弁護士が解説!

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

相続人の立場になっても遺産相続したくない場合、自分の相続分を他の人へ譲渡できます。

「面倒な相続会議に巻き込まれたくない」
「介護を頑張った姉に自分の相続分はあげたい」
「不動産はいらないから多少安くなっても現金だけもらいたい」

など、様々な状況で利用される制度です。

相続分を全部譲渡すれば、遺産分割協議に参加する必要が無くなります。

ただし税金や相続する財産に借金が含まれる場合などは、相続分譲渡が危険な場合もあります。

この記事では弁護士が、相続分譲渡の手順、方法や必要書類、リスクや注意点を解説しながら、相続放棄との違いついても説明します。

遺産相続された方は参考にしてみてください。

目次

1.相続分譲渡とは

相続分の譲渡とは、相続人が自分の相続分を他の人へ譲り渡すことをいいます。

手続きも比較的簡単なので、遺産分割協議に参加したくない方、相続トラブルに巻き込まれたくない方などには有効な手段です。

相続分を全部譲渡した場合、譲渡人である相続人は遺産を相続しません。

ただし遺産に負債が含まれている場合、相続分の譲渡をしても法定相続分に応じた負債の支払義務は残ります。

負債も含めて完全に相続に関わりたくない場合は、後に解説する、「相続放棄」の手続きを行う必要がありますので注意が必要です。

1-1.相続分譲渡の効果と借金の支払い義務が残る危険性

相続分譲渡をすると、財産をもらう方(譲受人)が、元々の相続人(譲渡人)の遺産に対する権利・義務を受け継ぎます。

財産をもらった方は、元々相続人でなかったとしても遺産分割協議に参加しなければなりません。

また譲り受けるのは、プラスの財産だけでなく、マイナスの債務も承継します。

ただし、もともとの相続人(譲渡人)にも負債の支払い義務は残るので、債権者は「譲渡人」と「譲受人」の両方へ負債の支払いを請求できる状態になります。

そのため、譲渡の際は誰が残りの負債を払うのかについて、話し合いを済ませておかないとトラブルになる可能性があるので注意してください。

また、相続分の全部が譲渡されると、譲渡人には相続権がなくなります。

そうすると、後から「あの不動産も実は相続の対象になるのではないか?」というような物件が出てきた場合でも、遺産確認の訴えを提起することができなくなります(最判平成26年2月14日)。

※遺産確認の訴えとは、ある財産が遺産の範囲に含まれるかどうかを確定するための裁判です。

1-2.相続分譲渡の相手は親族でなくても誰でもOK

相続分譲渡の相手方(譲受人)は、もともとの相続人である身内(共同相続人)の誰かでも、全く関係のない第三者でもかまいません。

身内の中で相続分を譲渡するケースとしては、例えば、子ども3人が相続人になる場合、三男が家や事業を継ぐことが決まっている長男に相続分を譲渡することなどがあります。

他方、この場合に、三男が友人や知人などの親族以外の人(第三者)へ相続分を譲渡しても問題ありません。

第三者に譲渡するケースは稀ですが例えば、不動産を早期に現金化するために買い取ってくれる人を探し、その人に譲渡してしまうことなどがあります。

ただし、譲渡された第三者は遺産分割協議に参加する必要があるので、トラブルの引き金になることもあります。そのため、第三者への譲渡は特に慎重に行うようにしてください。

1-3.一部でも全部でも譲渡できる

譲渡される相続分は、相続分の一部でも全部でもかまいません。

全部譲渡した場合、譲渡人は相続権を完全に失って遺産分割にも参加できなくなります。

一部譲渡の場合、譲渡人にも権利が残るので譲渡人と譲受人の両方が遺産分割に参加しなければなりません。

1-4.相続分譲渡の具体例

相続分譲渡が行われる具体例を示します。

親が亡くなって長男、次男、三男の3名が遺産を相続したケース

具体例1(共同相続人への全部譲渡)

三男が長男へ相続分を全部譲渡したら、長男の相続分が3分の2、次男の相続分が3分の1となって、長男と次男の2人が遺産分割協議を進めることとなります。

具体例2(共同相続人への一部譲渡)

三男が長男へ自分の相続分を2分の1(全体の6分の1)譲渡すると、長男の相続分が2分の1、次男の相続分が3分の1,三男の相続分が6分の1となって3人で遺産分割協議を進めていくことになります。

具体例3(第三者への全部譲渡)

三男が友人へ相続分を全部譲渡すると、長男の相続分が3分の1、次男の相続分が3分の1、友人の相続分が3分の1となり、3人で遺産分割協議を進める必要があります。

2.相続分を譲渡するメリット

相続分の譲渡には以下のようなメリットがあります。

2-1.遺産相続トラブルに巻き込まれずに済む

遺産を受け取る手続きが手間になる、国外居住で国内資産に関心がない、トラブルに巻き込まれたくないなどの事情があって遺産分割にかかわりたくないなら、相続分の譲渡が効果的です。

自分の相続分を全部譲渡したら遺産分割協議に参加する必要もありません。

トラブルになっても裁判所から調停に呼び出される可能性もなくなりますし、親族間の関係悪化も避けられます。

2-2.妻や子供など相続の権利が無い人へ引き継がせられる

自分の妻や子どもなど、相続権のない人へ遺産を引き継がせたい場合にも相続分の譲渡が有効です。

ただし譲受人が遺産分割協議に参加しなければならないので、トラブルに巻き込んでしまうリスクがあります。

2-3.相続人が減るので話し合いがしやすくなる

相続人が多数だと遺産分割協議に参加すべき人も多く、話がまとまりにくくなるでしょう。

共同相続人へ相続分を全部譲渡すれば相続人の数を減らせて話し合いが進めやすくなります。

2-4.早期に現金を入手できる

相続分の譲渡は、有償にて行われるケースもよくあります。例えば、不動産の権利を譲渡する代わりに現金をもらうことなどがあります。譲渡しなければ遺産を受け取れるのは遺産分割協議が終わってからですが、先に相続分を譲渡すれば早めに現金を入手できるメリットもあります。

3.相続分譲渡の必要書類とひな形書式

相続分譲渡の必要書類をみてみましょう。ひな形となる書式も紹介しますので参考にしてください。

3-1.相続分譲渡の契約書

相続分譲渡に関する契約書を作成しましょう。契約書がないと、相続分譲渡が行われた事実や条件などが明確になりません。誰が遺産分割協議に参加すべきかわからないので混乱が生じるリスクも発生します。

相続分譲との契約書には、誰の相続分をどの程度譲渡するのか、譲渡割合などをはっきり記載しましょう。譲渡人と譲受人の双方が署名押印する必要もあります。

契約内容は、状況によって大きく異なるため書類のひな形はありません。トラブルを防ぐためには、信頼できる専門家に契約書の作成を依頼するようにしてください。

3-2.相続分譲渡証明書とひな形書式

相続分譲渡を行った事実を証明するため、相続分譲渡証明書も作成しましょう。

相続分譲渡証明書とは、相続分の譲渡人が「相続分を譲渡しました」と証明するための書類です。作成者は譲渡人となります。

相続登記や預金払い戻しの際などに必要となるので、必ず作成して実印で押印してください。

下記は、一般的な書式の例です。

相続分譲渡証明書ひな形書式

相続分譲渡証明書

最後の本籍 〇〇県〇〇市〇〇〇丁目○番地〇
被相続人  山田 太郎
生年月日  昭和〇年〇月〇日
死亡日   令和〇年〇月〇日

私は、上記被相続人の相続に関して、私の相続分の全部を、山田 花子(住所 〇〇県〇〇市〇〇〇丁目○番地〇)に譲渡しました。

令和〇年〇月〇日

住所  〇〇県〇〇市〇〇〇丁目○番地〇

相続人 山田 太郎(実印)

3-3.印鑑登録証明書

相続分譲渡証明書は、通常その後の相続手続(登記手続、預金等解約手続、裁判手続など)で使用するため、実印で押印してもらうことが必須です。合わせて実印の印鑑登録証明書を添付してもらうことを忘れないようにしましょう。

3-4.相続分譲渡通知書

相続分譲渡を行ったら、譲渡人は他の相続人へ「相続分譲渡通知書」を送付することが基本的に必要です。相続分譲渡通知書とは、「私の相続分を譲渡しました」と他者へ通知するための書面をいいます。

相続分譲渡通知書の目的は、他の相続人に相続分譲渡が行われたことを知ってもらい、誰が遺産分割協議に参加すべきか判断するためのものになります。

また、相続人ではない第三者へ相続分譲渡された場合、他の相続人は相続分の取り戻しができます。ただ取り戻しは相続分譲渡後1か月以内に行使しなければならないこともあり、他の相続人の権利保護のためにも相続分譲渡を通知する必要があります。

ただし、相続分譲渡通知書は、誰がどのような形で送付するかを検討しないと、送付したことで逆にトラブルに繋がるケースもあります。譲渡の目的によって適切な送付のタイミングや大きく変わりますので相続に詳しい専門家に相談することがおすすめです。

4.相続分譲渡の手順

相続分譲渡の手順をお伝えします。

STEP1 合意する
まずは譲渡人と譲受人が話し合い、相続分譲渡の条件を定めて合意しましょう。
STEP2 契約書などの必要書類を作成、準備する
相続分譲渡の契約書や相続分譲渡証明書、相続分譲渡通知書などの書類を作成し、必要書類を添付します。
STEP3 相続分譲渡通知書を送る
相続分譲渡の契約が完了したら、譲渡人が他の相続人宛に相続分譲渡通知書を送ります。タイミングや、だれがどのような形で通知すべきかは譲渡の目的によって変わるので注意してください。

5.相続分譲渡と相続放棄との違い

相続分譲渡と相続放棄が混同されるケースも多いので、両者の違いをご説明します。

5-1.相続放棄とは

相続放棄とは、相続人がその地位を捨てて一切の遺産相続をしないことです。

相続放棄すると、放棄者ははじめから相続人でなかった扱いとなり、資産も負債も一切相続しません。一部の相続放棄はできませんし、誰かに相続分を譲るわけでもありません。

5-2.負債の支払義務について

相続放棄をすると、相続債務の支払義務はなくなります。

一方、相続分の譲渡の場合には、原則として相続債務の支払義務が残ります。

5-3.譲渡先を選べるかどうか

相続分譲渡の場合、譲渡人(もともとの相続人)は譲渡先を自由に選べます。

一方、相続放棄の場合、譲渡するわけではないので誰に相続分を移転させるか選べません。

5-4.契約か単独行為か

相続分の譲渡は譲渡人と譲受人との契約行為です。

相続放棄は放棄者による一方的な単独行為である違いがあります。

5-5.期限

相続放棄には「自分のために相続があったことを知ったときから3か月」という期間期限があります。

期限を過ぎると原則として相続放棄は受理されません。

相続分の譲渡にはこういった期間制限はありません。ただし遺産分割が終わるまでに行う必要があります。

Point

・相続放棄は負債の支払い義務もなくなるが、譲渡先は選べない。相続分譲渡は譲渡先は選べるが、負債の支払い義務は残るので注意。

・相続放棄は、相続開始を知ってから3ヶ月以内に申請が必要。相続分譲渡は、遺産分割が完了するまでなら可能。

6.相続分の譲渡の注意点やデメリット

相続分譲渡にはデメリットもあるので確かめておきましょう。

6-1.債務の支払い義務が残る

相続分を全部譲渡すると相続権を失うので、不動産などの資産に対する権利はなくなり、家賃収入はもちろん入ってきませんし、売却等に関わることもできません。

一方で負債の支払い義務はなくならないので、不動産のローンなど残っている場合には、債権者からの請求には対応する必要があります。すでに何度かお伝えしているように、負債を相続したくないなら相続放棄しましょう。

6-2.相続分の取戻しに注意

相続人以外の人へ相続分譲渡を行った場合、他の相続人は譲受人へ相続分の取戻し請求ができます。遺産分割協議に親族ではない人が参加すると混乱を生じるので、価格弁償を行えば、相続分を取り戻せるのです。譲渡された方は、取り戻しに対して拒否することは基本的にできません。

1か月の期限つきではありますが、相続分を取り戻される可能性があることは意識しておくべきでしょう。

第三者への相続分譲渡は他の相続人に事前に承諾を得てから納得の上で行うようにすることが望ましいです。

6-3.税金がかかる可能性がある

相続分を有償で譲渡すると、譲渡人には「譲渡所得税」がかかる可能性があります。

また相続人ではない第三者へ相続分を無償で譲渡すると、譲受人は相続分を「もらった」ことになるので「贈与税」がかかります。

相続分譲渡には税金発生のリスクもあるので、慎重に対応しましょう。

7.遺産分割調停中の相続分譲渡

遺産分割調停中に相続分譲渡が行われるとどういった効果が発生するのか、押さえておきましょう。

7-1.排除決定

遺産分割調停中に相続分が全部譲渡されると、譲渡人は遺産相続権を失うのでそれ以上調停に参加できなくなります。

そこで家庭裁判所は譲渡人(相続人)を調停手続きから排除します。

具体的には排除決定が行われ、譲渡人は相続人の地位を失います。

7-2.相続人が1人になった場合

例外的に、遺産分割調停中に他の相続人全員が相続分の全部譲渡をして申立人だけが相続人になると、裁判所は譲渡人を排除しません。

この場合、譲渡人も遺産分割調停の当事者として残し、「申立人が遺産をすべて取得する」という「調停に代わる審判」を行います。

8.預金の引き出す(払戻し・解約)する手続きはしっかり書類を準備

相続分の譲渡が行われた結果、遺産の譲受人が、譲り受けた預金を引き出すため、解約や払い戻しを請求しなければならないケースがあります。

ただし、金融機関は、正しく譲渡が行われたかをきちんと確認しないと後からトラブルになるため、譲受人の預金の払い戻しには慎重になります。

その場合、以下のような書類を揃えて金融機関へ提出しなければなりません。

  • 被相続人の出生から死亡までの除籍謄本、改製原戸籍、戸籍謄本
  • 相続人全員分の戸籍謄本
  • 譲渡人が作成した相続分譲渡証明書(作成時の日付の印鑑証明書の添付が必要)
  • 他の相続人よる遺産分割協議書や印鑑証明書

9.不動産の登記手続きは誰に譲渡したかで手順が変わる

相続分の譲渡により譲受人が不動産を取得したら、相続登記しなければなりません。

共同相続人への相続分譲渡の場合には、被相続人から相続人の名義へ直接名義変更ができます。

共同相続人以外の第三者への相続分譲渡の場合、まずは「共同相続人への名義変更登記」を行った上で「相続分の譲渡による持分の移転登記」を申請しなければなりません。

まとめ

相続分の譲渡を行う場合、必要書類や税金関係などさまざまな点に配慮しなければなりません。譲渡後も遺産分割協議、相続登記や預貯金払い戻しに対応する必要があります。

自分たちだけでは適切な対応方法がわからない場合、お気軽に千葉県市川市、法律事務所羅針盤の弁護士までご相談ください。

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