借地非訟手続とは?利用できるケースや手続きの方法、流れを解説

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

借地契約によって土地を借りて利用している場合、地主の承諾が必要な場面がいくつかあります。たとえば借地権つきの建物を売却したい場合には、地主の承諾がなければ借主が勝手に売却できません。

このような場合、「借地非訟手続(しゃくちひしょうてつづき)」を利用すると裁判所に地主の承諾に代わる許可を出してもらえる可能性があります。ただ借地非訟手続は一般にはあまり知られておらず、耳慣れない方も多いでしょう。

この記事では「借地非訟手続」とは何か、どういったケースで利用できるのか解説します。

借地契約を利用している方はぜひ参考にしてみてください。

目次

1.借地非訟手続(しゃくちひしょうてつづき)とは

借地非訟手続とは、借地契約において、借地条件の変更や借地権譲渡などの問題が発生したとき、裁判所が地主の承諾に代わって許可を与えるなどの裁判手続をいいます。

わかりやすくいうと「地主の承諾の代わりに裁判所が許可を与える手続」が主な借地非訟手続です。

借地契約では、借主は自由に借地権を使ったり処分したりできるわけではありません。

たとえば「建物の増改築を勝手にしてはならない」などと規定されているケースがよくあります。借主による借地権の譲渡や転貸も自由にはできません。

こういった対応をするには、地主の承諾が必要となるのです。

地主の承諾があれば、建物の増改築禁止特約がついていても増改築ができますし、借地権の譲渡や転貸も可能となります。

2.地主が承諾しない場合の借地非訟手続

ただ土地の借主が希望しても、地主が必ず増改築や借地権の譲渡などを認めるとは限りません。断られてしまうこともよくあります。

また借主が地主へ各種の承諾を求めると、地主は承諾料を要求するのが一般的です。承諾料が高すぎると、地主と借主の話し合いでは解決が難しくなってしまうでしょう。

そこで地主が承諾しない場合や承諾条件で合意できない場合、借主は裁判所へ「地主の承諾に代わる許可」を求めることができます。そのための手続が借地非訟手続です。

3.借地非訟手続の特徴

以下では借地非訟手続の特徴や訴訟と類似する点をみてみましょう

3-1.借地非訟手続は非公開

借地非訟手続は、一般の訴訟と違って非公開です。口頭弁論が開かれることはなく「審問」という方法で手続が進められます。一般に公開されないので、訴訟より「利用のハードルが下がる」と感じる方もいるでしょう。

3-2.不動産鑑定にかかる費用負担がない

借地非訟手続では承諾料を定めるためなどに不動産鑑定が行われるケースが多いのですが、不動産鑑定にかかる費用は国が負担します。一般の訴訟事件で不動産鑑定が必要になった場合には当事者が鑑定費用を負担しなければなりません。その場合の不動産鑑定の費用は40~50万円やそれ以上かかるケースもあります。費用が無料になる点で、借地非訟手続の方が一般的な訴訟より当事者の負担が小さいといえます。

3-3.借地非訟手続と訴訟に共通する点

借地非訟手続は基本的に、当事者の合意によって解決する手続きではありません。当事者が争っている場合には、裁判所が申し立て内容(地主の承諾に代わる許可など)を認めるかどうか、認める場合の承諾料の金額などを決定します。

裁判所が結論を出すという意味では、借地非訟手続も一般の訴訟と似た性質を持ちます。

また借地非訟手続では一般的な訴訟と同様に、手続途中の和解が可能です。裁判所も積極的に和解を勧めてくるケースが多いので、一度は話し合いの席に乗ってみると良いでしょう。このように裁判上の和解が可能な点も一般の訴訟と違いはありません。

4.借地非訟手続を利用できるケース

借地非訟手続を利用できるのは、以下のようなケースです。

4-1.借地条件変更申立事件(借地借家法17条1項)

1つ目は、借地条件変更申立事件です。これは、土地の利用条件が定められている場合において、借主が地主へ借地条件の変更を求めるための借地非訟手続です。

借地条件の例

  • 居宅、共同住宅、店舗にしか利用してはならない
  • 店舗利用を禁止する
  • 建物の構造は木造でなければならない
  • 建物の規模(床面積、階数、高さ)が制限されている
  • 建物の用途は自己使用に限る、事業用は認めない
  • 借地上の建物は「非堅固建物」に限る

土地の借主が上記のような借地条件を変更し、新しく建替えを行いたい場合などには、地主の承諾が必要です。たとえば「木造建物しか建ててはならない」とされている土地において鉄筋コンクリート造の建物に建て替えたい場合、地主との間で借地条件変更の合意をしなければなりません。

ところが地主が借地条件の変更に同意しないこともよくあります。そんなときには借主は借地条件変更の申立てをして、裁判所に判断を仰ぐことができます。

裁判所が借地条件の変更を相当と認めると、借地条件変更について地主の承諾に代わる許可を裁判所から出してもらえます。

4-2.増改築許可申立事件(借地借家法17条2項)

借地契約では、借地上の建物の改築や増築、大修繕などを実施する場合、地主の承諾が必要と定められているケースが多数です。

このような場合、土地の借主が増改築やリフォームなどを行う際に地主の承諾を得なければなりません。

増改築についての承諾を得られない場合、借主は増改築許可の申立てを行って裁判所の判断を仰ぐことができます。これも借地非訟手続の一種です。

裁判所が相当と認める場合には、借主は地主の承諾に代わる裁判所の許可を受けて増改築ができます。

4-3.借地権譲渡や転貸の許可申立事件(借地借家法19条1項)

3つ目は、賃貸借契約における借地権の譲渡や転貸の許可を申し立てる事件です。

借地権者が借地上の建物の賃借権を譲渡する場合、地主の承諾が必要です。勝手に借地権を売却したり転貸したりすると契約を解除されてしまう可能性もあります。

ただ実際には、地主が譲渡や転貸を許可しないケースも少なくありません。

そのような場合、土地の借主は土地の賃借権譲渡や転貸許可を申し立てて、裁判所に許可を求めることができます。

裁判所が譲渡や転貸を相当と認めると、借主は承諾料を払って土地賃借権の譲渡や転貸ができるようになります。

4-4.競売又は公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件(借地借家法20条1項)

4つ目の類型は、借地上の建物が競売や公売にかかって買受人が現れた場合です。

競売や公売によって借地上の建物を買い取ると、買受人は土地の賃借権も一緒に譲り受ける結果となります。ところが借地権は勝手に譲渡できないので、買受人が現れた場合であっても地主の承諾が必要です。

承諾を得られないと買受人が借地上の建物を使えないので、買受人が自ら「競売又は公売に伴う土地賃借権譲受許可の申立て」を行って裁判所に許可を求めることができます。

裁判所が相当と認める場合、裁判所が地主の承諾に代わる許可を認めるので買受人は土地の利用をできるようになります。

なお買受人がこの申立を行う場合、競売や公売で建物代金を支払った後2か月以内に申立をしなければなりません。遅れないように注意しましょう。

4-5.借地権設定者による介入権の申立(借地借家法19条3項,20条2項)

土地の賃借権譲渡や転貸の許可申立事件、競売又は公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件が申し立てられた場合、裁判所が許可を出すと借地人が別の人に入れ替わってしまいます。借地人の入れ替わりをどうしても嫌う地主の場合には、自分で地の賃借権と借地上の建物を買い取る権利が認められます。これを「介入権」といいます。

つまり、譲渡や転貸、競売や公売によって借地人が入れ替わりそうな場合、地主は介入権の申立によって自分で土地を回収して建物も取得できる可能性があるのです。

介入権を行使する際には、地主から裁判所への申立が必要です。これも借地非訟事件の一種となります。

なお介入権は、裁判所の定める期間内に行使しなければなりません。また原則的に賃借権や土地上の建物を裁判所が定める価格によって買い取ることになります。

4-6.契約更新後の建物再築許可の申立て(借地借家法18条)

借地契約を更新した後に、借地権者が残存期間の長い新たな建物を建築すべきやむを得ない事情があるにもかかわらず、地主が建物建築を承諾しない場合、借主は基本的に裁判所へ地主の承諾に代わる許可を求めることができます。(ただし契約において、地主は地上権の消滅請求や土地の賃貸借の解約申入れができないと定める場合を除きます)。

これも借地非訟事件の一種です。

5.借地非訟事件の進行方向

次に借地非訟事件の進行方法をみてみましょう。

5-1.裁判所の管轄

借地非訟手続の管轄は、借地のある地域を管轄する地方裁判所です。ただし当事者の合意があれば、簡易裁判所への申立ても可能です。

5-2.申立方法

借地非訟手続を申し立てる際には、申立人が申立書を作成して裁判所へ提出します。

申立時には以下のような書類が必要です。

  • 申立書
  • 資格証明書(原本・申立人や相手方が法人である場合)
  • 土地や建物の固定資産評価証明書(原本)
  • 現場の住宅地図
  • 賃貸借契約書など

裁判所で申立が受理されると、裁判所で第1回目の審問期日が指定されます。

第1回審問期日は申立から1か月~1か月半後の日が指定されるケースが多く、その後はだいたい1か月ごとに期日が繰り返されます。

5-3.和解手続について

借地非訟手続では裁判所の勧告によって和解が行われるケースもよくあります。当事者同士で話し合って解決ができれば和解が成立し、裁判は終了します。

5-4.鑑定委員会制度

借地非訟手続には鑑定委員会制度が採用されています。

鑑定委員会制度とは、承諾料や介入権が行使された場合の買取価額を算定するために、借地権の価額などを鑑定評価する委員会です。

裁判所は借地非訟制度で判決を下す前に、鑑定委員会の意見を聞かねばなりません。

そこで借地非訟手続が進むと、当事者の意見聴取や整理が終了した時点で鑑定委員会の意見を聞く手続きが行われます。

鑑定委員会は通常、弁護士や不動産鑑定士、建築士または有識者の3名の鑑定委員から組織されます。鑑定委員会は現地を調査して「意見書」を作成して裁判所へ提出します。

申立人や相手方は鑑定委員会の作成した「意見書」に対し、書面によって意見を述べる機会が与えられます。裁判所は最終的に、鑑定委員会の提出した「意見書」と当事者の意見をもとにして最終決定をくだします。

5-5.即時抗告(不服申立て)

裁判所による決定に対し、不服がある当事者は「即時抗告」によって不服申立てができます。

ただし期間制限があり、決定書を受け取ってから2週間以内に即時抗告の申立書を提出しなければなりません。

なお決定が確定すると地主の承諾と同じ効果が発生します。借主は裁判所から命じられた承諾料を地主へ払えば建物の増改築や借地権の譲渡などができる状態になります。

まとめ

今回は借地非訟手続の基本的な知識、利用できるケースや流れなどをお伝えしました。

借地非訟手続は非常に専門的で、専門知識のない方が自力で取り組むには困難を伴います。困ったときには弁護士のサポートを利用しましょう。

千葉県市川市の法律事務所羅針盤では不動産案件に力を入れていますので、地主の承諾が必要なのに合意できない場合などにはお気軽にご相談ください。

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