特別縁故者による財産分与請求とは?要件、裁判例など。

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。
今回は、特別縁故者による財産分与請求について、要件、裁判例などの説明をしていきます。

目次

1 特別縁故者とは?

相続人が不存在の場合、相続財産は最終的には、国庫に帰属します(民法959条)。

しかし、被相続人と特別の縁故があった者(特別縁故者)から財産分与請求があった場合、家庭裁判所は、相続財産の全部または一部を与える審判をすることができます。

2 財産分与請求の要件

特別縁故者への財産分与が認められるためには、①申立人に特別縁故者該当性が認められること、②財産分与の相当性が認められることが必要です。

特別縁故者該当性について、民法は、「被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者」との要件を定めています(民法958条の3第1項)。

3 特別縁故者の典型例

「被相続人と生計を同じくしていた者」の典型例は、内縁の配偶者や事実上の養子です。これらの者については、通常は特別縁故者該当性が認められます。

「被相続人の療養看護に努めた者」の典型例は、被相続人の介護を行っていた親族ですが、親族関係は必須ではなく、被相続人の身の回りの世話をしてきた元看護師が特別縁故者と認められた事例もあります(高松高裁昭和48年12月18日決定)。

4 「その他被相続人と特別の縁故があった者」

被相続人と生計が同じではなく、療養看護に努めたわけでもない場合は、「その他被相続人と特別の縁故があった者」に該当するかどうかが問題となります。

この点について、大阪高裁昭和46年5月18日決定は、「同法条(民法958条の3)にいう被相続人と特別の縁故があった者とはいかなる者を指すかは具体的に例を挙げることは困難であるけれども、同法条の文言の趣旨からみて同法条に例示する2つの場合に該当する者に準ずる程度に被相続人との間に具体的且つ現実的な精神的・物質的に密接な交渉のあった者で、相続財産をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に特別の関係にあった者をいうものと解するのが相当」としています。

現在の実務は、概ねこの大阪高裁が示した基準に従って判断しているものと言われています。

5 特別縁故者の肯定審判例

上記大阪高裁の示した基準は、決して緩い基準ではなく、一見する限り、むしろ相当厳格な基準のように読めます。

しかし、公表されている審判例を見る限り、特別縁故者該当性のハードルはそれほど高いものとはされていません。

主な肯定審判例

①被相続人の世話をしていた民生委員を特別縁故者と認めた事例(前橋家裁昭和39年10月29日決定)

②被相続人の墓地を管理してきた住職を特別縁故者と認めた事例(長崎家裁昭和40年4月30日決定)

③被相続人が生前経営していた料理店の料理人を特別縁故者と認めた事例(神戸家裁昭和40年8月9日決定)

④被相続人の職場の元同僚(学校警備員)を特別縁故者と認めた事例(東京家裁昭和46年11月24日決定)。

⑤被相続人の生前は縁故がなかった6親等の親族について、被相続人の祭祀や遺産の管理を行っていることから死後縁故を認め、特別縁故者と認めた事例(熊本家裁昭和47年10月27日決定)

⑥地方公共団体を特別縁故者と認めた事例(名古屋家裁昭和48年2月24日決定、大阪家裁昭和51年12月4日決定、福島家裁昭和55年2月21日決定、浦和家裁秩父支部平成2年6月15日決定)

⑦被相続人が理事を務めていた特別養護老人ホームを特別縁故者と認めた事例(東京家裁昭和48年9月14日決定)

⑧被相続人と直接の縁故関係が認められない被相続人の従弟について、その父母が被相続人一家を物心両面にわたり献身的に援助、協力していたことなどを勘案し、特別縁故者と認めた事例(東京家裁昭和51年2月28日決定)

⑨被相続人が刑務所出所後に援護、補導助言を受けていた公益法人を特別縁故者と認めた事例(大津家裁昭和52年9月10日決定)

⑩被相続人が生前入所していた老人ホームを特別縁故者と認めた事例(那覇家裁石垣支部平成2年5月30日決定)

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