【千葉の相続】親の認知症が進んだら。不動産の売却・管理ができなくなる前に知っておくべきこと

  • 「親が認知症になって、実家の売却ができなくなった」
  • 「介護施設の費用を捻出するために親の家を売りたいのに、契約ができないと言われた」
  • 「成年後見制度というものがあるらしいが、一度始めたらやめられないと聞いて不安」

こうした相談は、年々増えています。最高裁判所の統計によると、2024年の成年後見関係事件の申立件数は全国で約41,800件。前年より約2.2%増加しており、制度の利用は拡大傾向にあります。

千葉県は都心への通勤に便利な地域として発展してきました。そのため、子ども世代が東京方面で独立し、親世代はそのまま千葉県内のご自宅に住み続けるというご家庭も多くいらっしゃいます。こうした離れて暮らす環境下では、いざ親御様の認知症が進行した際に、「残された不動産の管理を誰がどう行うか」というお悩みを抱えるケースが増えてきています。

この記事では、親の認知症が不動産にどう影響するのか、成年後見制度とは何か、そして認知症が進む前にできる備えには何があるのかを、千葉県の窓口情報も含めてわかりやすく整理します。

目次

1. 認知症になると、不動産などの資産が取引できない

まず、「認知症になると不動産で困る」とは具体的にどういうことなのか、整理します。

売却契約ができない

不動産の売買契約は、売る側に「意思能力」(契約の内容を理解し、その結果を判断できる能力)があることが前提です。認知症が進行して意思能力が失われた状態で結んだ契約は、民法上「無効」になります。子どもが代わりに契約書にサインしても、後から無効とされるリスクがあるのです。

「親が介護施設に入るため、実家を売って費用に充てたい」というケースは多いのですが、親が認知症で意思能力を失っている場合、子どもが勝手に売却することはできません。

賃貸契約も、リフォームもできない

売却だけでなく、賃貸契約の締結や更新、建物の大規模なリフォーム工事の発注なども、本人の意思能力が必要な法律行為です。

銀行取引も制限される

金融機関が口座名義人の認知症を把握した場合、本人の資産保全のために取引を制限することがあります。介護費用や固定資産税の支払いに親の預貯金を使えなくなると、子ども世代が自分の財布から立て替えるしかなくなります。

千葉県で特に起きやすい状況

千葉県は、郊外に一戸建てを持つ高齢者世帯が多い地域です。「子どもは東京、親は千葉の実家に一人暮らし」というパターンも多く、親の認知症の進行に気づくのが遅れることもあります。「久しぶりに実家に帰ったら、親の認知症がかなり進んでいた」「介護施設に入れたいが、実家を売れない」という相談が典型的です。

また、千葉県内の大規模団地やニュータウンでは、マンションの区分所有者が認知症になるケースも増えています。この場合、管理費・修繕積立金の支払いや、総会での議決権行使にも影響が出ます。

2. 成年後見制度とは?基本の仕組み

親が認知症になって意思能力が失われた後でも、不動産の売却や財産の管理を行うための法的な仕組みが、「成年後見制度」です。家庭裁判所に申立てを行い、裁判所が選任した「後見人」が、本人に代わって財産の管理や契約行為を行います。

「後見」「保佐」「補助」の3つの類型

本人の判断能力の程度によって、3つの類型に分かれます。

「後見」は判断能力がほとんどない場合、「保佐」は判断能力が著しく不十分な場合、「補助」は判断能力が不十分な場合にそれぞれ利用されます。2024年の統計では、全体の約7割が「後見」類型で、最も重いケースでの利用が大半を占めています。

誰が後見人になるのか

かつては親族が後見人になることがほとんどでしたが、2024年の統計では親族が後見人等に選任された割合は全体の約17%まで減少しています。現在は弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職が選任されるケースが多くなっている状況です。

ただし、2019年に最高裁から「後見人には身近な親族を選任することが望ましい」という考え方が示されています。

費用の目安

申立てにかかる費用は、収入印紙代や郵便切手代、診断書作成費用などを合わせて数千円~数万円程度です。家庭裁判所が医師による鑑定が必要と判断した場合は、別途5万~10万円程度の鑑定費用がかかることがあります。

その他、後見人に専門職が選任された場合、毎月の報酬(家庭裁判所が決定)が発生します。金額は本人の財産規模によりますが、月額2万~4万円が多い水準です。

3. 家の売却には「居住用不動産の処分許可」が必要

成年後見制度を利用して親の不動産を売却する場合、もうひとつ重要な手続きがあります。

その不動産が本人の「居住用不動産」(本人が住んでいる、または住んでいた自宅)にあたる場合、後見人が売却するには家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。これは、本人の生活の基盤である自宅を守るための規定です。

「親はもう施設に入っていて、実家には住んでいない」という場合でも、「将来戻る可能性がある」と判断されれば居住用不動産に該当します。家庭裁判所は、売却の必要性、売却価格の妥当性、本人の生活への影響などを総合的に審査します。

千葉県での申立先

成年後見の申立ては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。親が住んでいる地域によって申立先が異なりますので、事前に確認が必要です。

裁判所名管轄区域
千葉家庭裁判所千葉市全区・習志野市・市原市・八千代市
千葉家庭裁判所(市川出張所)市川市・船橋市・浦安市
千葉家庭裁判所(佐倉支部)佐倉市・成田市・四街道市・八街市・印西市・白井市・富里市・印旛郡
千葉家庭裁判所(一宮支部)茂原市・勝浦市・いすみ市・長生郡・夷隅郡
千葉家庭裁判所(松戸支部)松戸市・野田市・柏市・流山市・我孫子市・鎌ケ谷市
千葉家庭裁判所(木更津支部)木更津市・君津市・富津市・袖ケ浦市
千葉家庭裁判所(館山支部)館山市・鴨川市・南房総市・鋸南町
千葉家庭裁判所(八日市場支部)銚子市・旭市(旧干潟町を除く)・匝瑳市・東金市・山武市・大網白里市・多古町・山武郡
千葉家庭裁判所(佐原支部)旭市(旧干潟町のみ)・香取市・神崎町・東庄町

申立てから後見人が選任されるまでの期間は、ケースによりますが、おおむね2ヶ月~4ヶ月程度です。居住用不動産の処分許可の審査にも別途時間がかかります。「介護施設に入るからすぐに実家を売りたい」と思っても、実際に売却できるまでには半年程度を見込んでおく必要があります。

4. 認知症が進む前にできる3つの備え

成年後見制度は、認知症が進んだ「後」に使う制度です。しかし、「前」の段階で備えておけば、より柔軟に対応できる方法があります。

備え① 任意後見契約

任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、「将来判断能力が低下したときに、誰に、何を任せるか」をあらかじめ契約しておく制度です。公正証書で作成し、実際に判断能力が低下したときに、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで効力が発生します。

法定後見との最大の違いは、「誰に任せるか」を本人が自分で選べることです。信頼できる子どもや親族、あるいは弁護士などを指定できます。

備え② 家族信託

家族信託(民事信託)は、親(委託者)が子ども(受託者)に財産の管理・処分権限を信託契約によって移す仕組みです。親が元気なうちに契約を結んでおけば、その後親が認知症になっても、子どもが不動産の売却や管理を行うことができます。

家族信託のメリットは、家庭裁判所を通さずに、子どもが柔軟に財産管理を行える点です。不動産の売却にも居住用不動産の処分許可のような手続きが不要なため、スピードが速いのが特徴です。

ただし、家族信託は万能ではありません。介護契約の締結や施設入所の手続きなど、「身上監護」に関することは家族信託ではカバーできず、成年後見制度との併用が必要になる場合があります。また、契約の設計を誤ると税務上の問題が生じる可能性があるため、専門家の助言を受けて設計することが重要です。

備え③ 元気なうちに不動産を整理する

最もシンプルな備えは、親が元気なうちに不動産の整理を進めておくことです。「使っていない土地や建物があれば、元気なうちに売却または活用する」「実家を子どもに相続させるのか、生前に売却するのかを家族で話し合っておく」といったことです。

千葉県の郊外に親が所有する不動産がある場合、その不動産が「負動産」(維持費ばかりかかって資産価値が低い不動産)になっていないかを子ども世代が確認しておくことも大切です。空き家のまま放置していると、認知症が進んでからでは売却も解体もできなくなります。

5. 制度の見直しが進んでいる——今後の改正の方向

2025年6月、法制審議会は成年後見制度の見直しに関する「中間試案のたたき台」を取りまとめました。2026年の通常国会に民法改正案として提出される見込みです。施行自体はまだ先になりますが、主な見直しの方向は次の通りです。

① 必要な範囲・期間に限った利用が可能に

たとえば「不動産の売却」という特定の目的のために制度を利用し、その目的が達成されたら制度の利用を終了できるという、いわゆる「スポット利用」が検討されています。

② 後見人の交代がしやすくなる

本人の生活への適合性や相性に応じて、後見人を交代できる柔軟な仕組みが検討されています。

③ 報酬の透明化

後見人の報酬について、業務内容に応じた報酬体系を明確化する方向が検討されています。

改正が実現すれば、制度は今よりも使いやすくなる見込みです。改正が施行されるのは、早くても2027年以降と見られます。現時点で認知症の進行が心配な場合は、改正を待たずに、今できる備えを始めることが大切です。

6. 成年後見制度に関して「弁護士に相談すべきか」の判断基準

親の認知症と不動産の問題は、状況によって最適な対応が異なります。地域包括支援センターや社会福祉協議会の窓口で対応できることもありますので、すべての場合に弁護士が必要というわけではありません。

一方で、以下のような状況に当てはまる場合は、法的な判断や手続きが必要な場面です。

□ 親の不動産を売却したいが、親の判断能力に不安がある

□ 成年後見制度の申立てを検討しており、手続きの進め方がわからない

□ 任意後見契約や家族信託の利用を検討したいが、どちらが適しているか判断できない

□ 親の不動産が共有名義になっており、他の共有者との調整が必要

□ 相続人間で親の財産の管理方針について意見が分かれている

□ 親の不動産に担保権が設定されている、または権利関係が複雑

□ 親の財産管理に関して、特定の親族による不透明な取り扱いが疑われる

逆に、「親はまだ元気で判断能力に問題ない」「不動産は自宅の1件だけで、相続人も子ども一人だけ」といったシンプルなケースであれば、まずは地域包括支援センターに相談してみるのもよいでしょう。千葉県内の各市町村に地域包括支援センターが設置されており、成年後見制度についての相談も受け付けています。

認知症は進行性の病気であり、気づいたときにはもう契約ができない状態になっていたというケースも珍しくありません。親が元気なうちに、家族で将来のことを話し合っておくことが、最も効果的な備えです。

当事務所では、千葉県内に限らず、不動産に関する成年後見の申立て支援、任意後見契約や家族信託の設計、親の不動産の整理に関するご相談をお受けしています。

よくあるご質問

Q. 親が認知症でも、子どもが代わりに不動産を売ることはできませんか?

A. 原則として、子どもが勝手に親の不動産を売却することはできません。親に意思能力がない場合、家庭裁判所に成年後見の申立てを行い、選任された後見人が売却手続きを行う必要があります。居住用不動産の場合は、さらに家庭裁判所の処分許可が必要です。

Q. 成年後見制度を利用すると、途中でやめることはできませんか?

A. 現行制度では、原則として本人の判断能力が回復しない限り、制度の利用は終了できません。

Q. 千葉県で成年後見の申立てをする場合、どこに相談すればよいですか?

A. 本人の住所地を管轄する家庭裁判所が申立先です。千葉県内では、千葉家庭裁判所本庁、松戸支部、木更津支部、佐倉支部、八日市場支部、館山支部、市川出張所が窓口となります。また、各市町村の地域包括支援センターでも制度についての相談が可能です。申立書の作成や手続きの代理は弁護士に依頼できます。

まとめ

親の認知症が進行すると、不動産の売却や管理ができなくなり、財産が「凍結」します。

成年後見制度を使えば不動産の売却は可能ですが、申立てから売却までには半年以上かかることもあり、一度始めたら原則として終了できないという課題もあります。だからこそ、親が元気なうちに、任意後見契約や家族信託などの「事前の備え」を検討することが重要です。

気になったときが、動き始めるベストのタイミングです。不安な点があれば、我々専門家にご相談ください。

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【主な参照資料】

・最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況―令和6年1月~12月―」

・法制審議会「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案のたたき台」(2025年6月)

・千葉県「成年後見制度について」

・千葉家庭裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)」

・千葉市「千葉市認知症ナビ」

・厚生労働省「成年後見制度利用促進に関する現状」

※本記事は2026年2月時点の情報に基づいて作成しています。最新の法令・制度の詳細については、専門家にご確認ください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言を構成するものではありません。

この記事を書いた人

千葉県の市川市の法律事務所 羅針盤の弁護士。「お客様の根本問題を解決する」がモットー。複雑な法律の知識についてわかりやすく解説します。

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