マンション管理規約の変更に区分所有者の承諾が必要な場合~「特別の影響」に該当するケースとは?~

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

マンション管理規約を変更すると、一部の区分所有者へ影響が及ぶケースが少なくありません。たとえば管理費や修繕積立金、駐車場の使用料を増額する場合や専用庭の使用料に変更を加える場合などです。

こういった場合には一部の区分所有者に「特別の影響」が及ぶものとして、特別の影響が及ぶ区分所有者から承諾をとらねばならない可能性があります。

ただし実際に特別の影響が及ぶとして区分所有者の承諾を要するかどうかについては、個別具体的な判断が必要です。

今回はさまざまな裁判例をもとに「特別の影響」が及ぶかどうか、すなわちマンション管理規約変更や新設のために一部の区分所有者による承諾が必要となるのか解説します。

マンション運営に携わる方はぜひ参考にしてみてください。

目次

1.特別の影響とは

マンション管理規約を変更する際には、一部の区分所有者の承諾が必要となるケースがあります。それは対象となる区分所有者に「特別の影響」が及ぶ場合です。

特別の影響とは、管理規約の変更によって特定の区分所有者の利益が不合理に害される影響です。

たとえば以下のような場合に特別の影響があるかどうかが問題になります。

  • 一定の区分所有者について、管理費や修繕積立金を値上げする場合
  • 駐車場の料金を値上げする場合
  • 専用庭の使用料金を値上げする場合
  • 専有部分を住居以外の目的で使用することを禁止する場合
  • 無償の専用使用権を有償化する場合

一定の区分所有者に特別の影響が及ぶ場合、管理規約を変更するにはその区分所有者の承諾を得なければなりません(区分所有法31条1項後段)。

(規約の設定、変更及び廃止)

第31条 規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

特別の影響があるかどうかの判断基準

特別の影響があるかどうかは、どのように判断するのでしょうか?

最高裁は、特別の影響の判断基準として、以下のように述べています。

「規約の規定、変更などの必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らしてその不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合」に特別の影響があると認めるべきである

すなわち規約変更などの必要性や合理性と区分所有者が受ける不利益を比較し、区分所有者の受ける不利益が「受忍限度(受け入れるべき限度)を超える場合には特別の影響があるという基準です。

具体的な事例では個別的に判断する必要があるでしょう。

以下ではさまざまな裁判例をもとに、管理規約の変更によって特別の影響があるといえるかどうかを解説していきます。

2.特別の影響に該当し、承諾が必要と判断されたケース

まずは特別の影響に該当し、区分所有者の承諾が必要と判断された事例をご紹介します。

2-1.管理費の負担割合変更する

管理費や修繕積立金の負担割合を変更すると、区分所有者には多大な影響が及びます。

そこで基本的には特別の影響を及ぼすと考えられます。ただし手間を省略するなどの合理的な目的をもっており変更の程度も最小限であれば、特別の影響が否定されて承諾が不要となる可能性もあります。

たとえば管理規約において、管理費や修繕積立金の負担割合を専有部分の面積や共用部分の持分に関係なく区分所有者全員が同一であるとすると、一部の区分所有者に大きな負担がかかり他の区分所有者と不公平になるでしょう。このような「頭数均等方式」を新たに採用するなら、特別の影響があるとされて区分所有者の承諾が必要です。

2-2.法人と個人の費用負担に差をもうける

マンション管理費や修繕積立金の負担額について法人と個人で分けて、法人の場合には個人の1.7倍とする内容に規約を変更した場合、変更に合理性がないとして「特別の影響がある」と判断された事例があります(東京地裁平成2年7月24日)。

法人だからといって高額な負担をすべき理由が見当たらないからです。

2-3.使用頻度による費用負担の増額→承諾必要

リゾートマンションにおいて、使用頻度によって管理費や修繕積立金の負担に差をつけるよう規約が変更されたケースがあります。

すなわちリゾートマンションを「不定期に保養施設として利用する」以上の利用方法をすると、高額な管理費がかかるようになったのです。この事案で裁判所は、変更に合理性がないと判断して「特別の影響」があると判断しました。区分所有者の承諾がないと、こういった規定の変更はできません(東京高裁平成21年9月24日)。

2-4.無償の専用使用権の有償化→承諾必要

地下鉄の駅から至近距離にあった住居と店舗の併用マンションにおいて、もともと店舗部分の区分所有者が屋上や外壁の一部や敷地について無償で利用していたケースです。

この事案では、マンション管理規約によって屋上等の利用が有償化されました。

裁判所は合理性がないとして「特別の影響」があると判断し、店舗部分の区分所有者の承諾が必要と認定しました(東京高裁平成8年2月20日)。

2-5.住居専用規定の新設

もともと商業用施設としての利用も認められていたマンションにおいて、管理規約の変更により「住居としてしか利用してはならない」とされた事例があります。

この場合、商業施設として利用していた区分所有者にとっては想定外の不利益を受けるものといえます。そこで「特別の影響」を認め、それらの区分所有者の承諾がない限り規約変更を無効とすべきと考えられます。最高裁もそういった趣旨の判断をしています(最一小判平成9年3月27日)。

2-6.住居専用規定の廃止→承諾必要

すでに住居専用規定がある場合を考えてみましょう。住居専用規定とは、マンションを住居としてしか利用してはならないとする規定です。

こういった規定があるマンションにおいて、突然マンション管理規約が変更され、規定が廃止されると「住居専用マンション」として居住している区分所有者が不利益を受けてしまいます。

よってそういった区分所有者へ「特別の影響」を及ぼすといえ、承諾がなければ管理規約の変更は認められません。

2-7.シェアハウスとしての利用を禁止したケース

もともとシェアハウスとしての利用が認められていたにもかかわらず、管理規約の変更によってシェアハウスとしての利用が認められなくなった場合において、特別の影響が認められた裁判例があります(東京地裁平成25年10月24日)。

2-8.駐車場の利用料金を増額したケース

マンションの駐車場利用料金を値上げしたケースです。この事案では「1か月に6000円を超える値上げ部分は特別の影響がある」として、駐車場を利用する区分所有者の承諾がない限り無効と判断されました(東京地裁平成20年4月11日)。

このように「特別の影響」については「変更の一部のみ」が無効とされるケースもあります。

2-9.専用庭の庭園料を増額したケース

マンションの庭園庭の使用料金を増額したケースにおいても、特別の影響があるとして対象となる区分所有者の承諾が必要と判断された事例があります(東京地裁平成21年10月28日)。

3.特別の影響に該当せず、承諾が不要とされたケース

次に特別の影響には該当せず、区分所有者の承諾は不要と判断された事例をみていきましょう。

3-1.割安な管理費を合理的な内容に変更したケース

管理費や修繕積立金の金額を変更すると、特別の影響に該当する可能性が濃厚です。

ただし従前の費用設定が不合理だったために適正な内容に変更する場合にはその限りではありません。

不合理な管理費や修繕積立金の規定を適正な内容に変更する場合には特別の影響がないとして、承諾不要で手続きできると判断された裁判例があります。

この事例ではもともと、特定の区分所有者の負担する費用が特に合理的な理由もなく低額になっていました。そこで規約を変更し、増額されたのです。

裁判所は「特別の影響はない」として対象となる区分所有者の承諾がなくても決議を有効と判断しました(東京地裁平成23年6月30日)。

3-2.非居住者と居住者に費用負担の差をもうけたケース

多くのマンションでは実際に居住する区分所有者と居住しない区分所有者がいるものです。居住しない区分所有者には「住民活動協力費」として費用負担を求めるのが合理的と考えられるので、最高裁においてそういった規約変更については「特別の影響」にあたらないと判断されています(最三小判平成22年1月26日)。

3-3.駐車場利用者に高額な管理費を課したケース

立体駐車場の場合など、駐車場の管理や維持自体に高額な費用がかかる場合があります。そういったケースにおいて、駐車場を利用する区分所有者に他の区分所有者より高額な管理費の設定に変更した事案で、裁判所は「特別の影響にあたらない」と判断しました(東京高裁昭和63年3月30日)。

管理費ではなく駐車場料金自体の増額についても、最高裁判所で「特別の影響にあたらない」と判断された事例があります(最高裁平成10年10月30日)。

駐車場に関しては「特別の影響に該当する」と判断する裁判例と「該当しない」と判断する裁判例の両方があることから、個別具体的な判断が必要となるでしょう。

3-4.ペット禁止規約を確認的に創設したケース

従来はペット禁止だったマンションでペット禁止規定が新設されるケースがあります。

ある事案では、規定の新設は「特別の影響」に該当せず、区分所有者の承諾がなくても有効になると判断されました(横浜地裁平成3年12月12日)、

ただしこのケースではもともと「ペット禁止」のルールがあり、入居案内などで明示されていました。従前のルールが規約によって明文化されただけなので、合理性が認められやすかったといえるでしょう。

3-5.以前から犬の飼育をしていた区分所有者がいた場合にペット禁止規定を設けたケース

以前から犬の飼育をしていた区分所有者がいたケースにおいて、管理規約の変更によってペット禁止規定がもうけられた事案があります。

このケースで裁判所は「特別の影響にあたらない」として、犬を飼っている区分所有者の承諾を不要と判断しました(東京高裁平成6年8月4日)、。

3-6.飲食業を一律に禁止する規定

もともと1階部分と2階部分が店舗や事務所として利用できる構造になっているマンションにおいて、新たに飲食業を一律に禁止する規定をもうけたケースがあります。この事案で裁判所は区分所有者の受忍限度内の変更であるとして特別の影響を否定しました(福岡地裁小倉支部平成6年4月5日)。

3-7.入れ墨の入った人の立ち入りを禁止した規定

フィットネスクラブが入居していた事例において、入れ墨の入った人の立ち入りを禁止する旨の管理規約が新設されました。裁判所はこの規定について、合理的なものであるとして特別の影響に当たらないと判断しています(東京地脚平成23年8月23日)。

区分所有者の承諾が必要か、不安があれば弁護士へご相談ください

以上のように、特別の影響にあたるかどうかは個別の事情によって大きく変わってきます。

特別の影響に該当すると、対象となる区分所有者の承諾をとっておかないと変更や新設が無効になってしまいます。

マンション管理規約の変更によって一部の区分所有者に影響を与える可能性がある場合には、弁護士に特別の影響に該当するかどうかアドバイスを求めるのが良いでしょう。

千葉県市川市の法律事務所羅針盤ではマンション管理組合への支援に力を入れており、マンション関係の法律知識やトラブル解決実績が豊富です。千葉でマンション管理にお悩みの場合、お気軽にご相談ください。

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