相続対策としての生前贈与 メリット・注意点・手続の方法

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。
今回は、相続対策としての生前贈与のメリット・注意点・手続の方法などを解説します。

次世代に財産を引き継ぐことを考え始めた方は、相続対策としての生前贈与のご検討をお勧めいたします。
お元気なうちに生前贈与を行うことで、財産の有効活用や遺産分割トラブルの防止など、さまざまなメリットを享受することができます。

目次

1. 相続対策として生前贈与を行うメリット

生前贈与を行うことには多くのメリットがあり、相続に向けた生前対策として、大いに検討する価値があります。
相続対策として生前贈与を行うことの主なメリットは、以下のとおりです。

1-1. 財産の承継先をご自身で決められる

生前対策を行わないままに相続が発生すると、財産を誰が承継するかは、遺産分割協議によって決定されます。
これに対して、生前贈与を行う場合、贈与者が財産を誰に譲り渡すかを自由に決められます。
ご自身の意思に従って次世代に財産を承継できる点は、生前贈与の大きなメリットの一つです。

1-2. 早い段階から財産を活用してもらえる

相続を待って遺産を譲り渡すよりも、生前贈与を行う方が、受贈者にとっては早い段階から財産を活用できます。
特に若い世代の場合は、資産や収入が十分でないケースも多いため、早い段階で生前贈与を受けられれば、大きな生活の助けとなるでしょう。
贈与者の側から見ても、ご自身にとっては必要性の低い財産を、子どもや孫などに財産を有効活用してもらうことは、本望にかなうのではないでしょうか。

1-3. 遺産分割トラブルのリスクが減る

生前贈与した財産は、遺産分割協議の対象から外されます。
相続人の視点から見れば、遺産分割協議の中で分け方を話し合わなければならない財産が減り、揉め事の火種が一つ解消されることを意味します。
このように生前贈与は、相続人間の遺産分割トラブルのリスクを抑制する効果があるのです。
残されるご親族に揉めてほしくないと考える方は、生前贈与を行うメリットが大きいといえるでしょう。

1-4. 相続税対策にもなり得る

贈与税の基礎控除(毎年110万円)を利用した「暦年贈与」、または教育資金や結婚・子育て資金の贈与の非課税特例などを活用すると、無税または軽い税負担で生前贈与を行うことができます。

参考:贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

参考:直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税|国税庁

参考:直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税|国税庁

一方、生前贈与から3年が経過すると、生前贈与が相続税の課税対象から外れます。
すると、本来かかるはずだった相続税が課されなくなり、贈与税は無税または軽く済むという形で、結果的に生前贈与が節税に繋がるケースがあるのです。

2. 相続対策として生前贈与を行う際の注意点

上記のとおり、相続対策としての生前贈与には多くのメリットがありますが、一方で注意すべき点も存在します。
特に、生前贈与によって節税を目指す場合や、多額の生前贈与を行う場合には、以下の点に注意が必要です。

2-1. 節税を目指す際にはきちんとシミュレーションを行うべき

生前贈与は節税に繋がる場合があることを解説しましたが、常に生前贈与によって税負担が軽くなるわけではありません。
実は、生前贈与によって財産を承継した場合には、相続によって財産を承継する場合よりも、以下の点で課税上不利になる可能性があるのです。

①一括で多額の財産を贈与する場合は、税率が高くなりやすい

生前贈与の場合、基礎控除額が年間110万円と限られており、かつ贈与税率も高めに設定されています(例:課税価格3000万円超から最高税率の55%)。

これに対して相続の場合、相続財産全体に対する基礎控除が「3000万円+600万円×法定相続人の数」とある程度余裕があり、かつ相続税率も比較的低めです(例:法定相続分に応ずる取得金額1億円~2億円の部分でも、相続税率は30%)。

参考:贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

参考:相続税の税率|国税庁

基礎控除枠(年間110万円)を大きく超えない範囲で生前贈与を行う場合はともかく、一括で多額の財産を生前贈与する場合には、かえって重い税金が課されることにならないかを確認する必要があります。

②不動産の登録免許税・不動産取得税が高額

相続によって不動産を取得する場合、登録免許税は不動産価額の0.4%、不動産取得税は原則としてかかりません。

これに対して、生前贈与によって不動産を取得する場合、登録免許税は不動産価額の2%、不動産取得税は不動産価額の3~4%です(宅地等については、課税標準額が2分の1となる軽減措置あり)。
つまり、相続よりも生前贈与の方が、不動産の取得時にかかる登録免許税や不動産取得税の負担が重くなります。
このように、生前贈与には税務上のメリットばかりではなく、デメリットもあります。

そのため、生前贈与をすれば本当に税務上得になるのかどうか、専門家に相談して具体的なシミュレーションを行うことをお勧めいたします。

2-2. 遺留分の侵害に注意

生前贈与についても、以下に該当するものは「遺留分侵害額請求」の対象となる点に注意が必要です。

①法定相続人に対する贈与の場合

相続開始前の1年間になされた贈与

②法定相続人以外に対する贈与の場合

相続開始前の10年間になされた贈与(婚姻・養子縁組のためまたは生計の資本としてなされた贈与に限る)

兄弟姉妹以外の相続人には、法定相続分に対して2分の1(直系尊属のみが相続人の場合は3分の1)の「遺留分」が保障されています(民法1042条1項)。

遺留分未満の財産しか受け取れなかった相続人は、財産を多く受け取った者に対して「遺留分侵害額請求」を行い、金銭の支払いを求める権利があるのです(民法1046条1項)。

つまり、生前贈与によって一部の相続人や親族などを優遇してしまうと、親族間で「遺留分侵害額請求」を巡る紛争が発生するおそれがあります。

このような事態を避けるためには、各法定相続人の有する遺留分に配慮する形で、生前贈与の金額を調整すべきでしょう。

3. 生前贈与の手続

生前贈与を行う際には、贈与者と受贈者の間で「贈与契約書」を締結するのが一般的です。

贈与自体は口頭でも成立しますが、合意内容を明確化しておくため、贈与契約書を作成・締結することをお勧めいたします。

その後、贈与契約書の内容に従って、対象財産の名義を変更します。

最後に、贈与税等の課税が発生する場合には、必要な税務申告を行い、生前贈与の手続きは完了です。

4. 相続対策としての生前贈与は弁護士に相談を

生前贈与に関する一連の手続きは、弁護士にご依頼いただくのがスムーズです。

生前贈与に関するシミュレーションに始まり、贈与契約書の作成・締結、さらに財産の名義変更に至るまで、首尾一貫したサポートをお受けいただけます。

また、必要に応じて税理士や司法書士のご紹介も可能ですので、窓口一つであらゆるサービスにアクセスでき、ご相談者様にとってはたいへん便利です。

相続を見据えた場合、早い段階で生前贈与を行うことは、ご本人やご親族にとって大きなプラスに働く可能性があります。

弁護士にご相談いただければ、家族信託・認知症対策などの他の生前対策手法と併せて、ご状況に合わせた適切な生前対策をご提案いたします。

相続に向けた生前対策にご関心をお持ちの方は、一度弁護士へご相談ください。

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