駐車場専用使用権の変更(廃止・有料化・使用料値上げ)の可否や方法について

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

マンションでは一部の区分所有者が駐車場を利用しているケースが多くあります。

そのような場合に管理組合が駐車場の料金を値上げしたり有償化したり、あるいは使用権を廃止したりできるのでしょうか?

駐車場の使用権を「駐車場専用使用権」といいますが、この権利をどのように解釈するか、またどのような方法で変更を加えられるかについては個別具体的な判断が必要です。

この記事では駐車場料金の値上げや有料化、駐車場専用使用権の廃止が可能か、解説します。

マンション管理を担当している方はぜひ参考にしてみてください。

目次

1.駐車場の専用使用権とは

マンションでは一部の区分所有者が駐車場を利用しているケースが多いでしょう。そのような場合の駐車場を利用する権利を「駐車場専用使用権」といいます。

ただ駐車場専用使用権について、法律上の明確な規定や定義はありません。

具体的には、内容や規約の定めなどによって個別的に検討する必要があります。

たとえば裁判例でも以下のように説明するものがあります。

  • 賃借権の一種として説明する
  • 共有物についての共有者間の合意として説明する

統一的な説明はなく、駐車場専用使用権については各事案によって見解が分かれている状況といえます。

駐車場専用使用権の値上げや有料化、廃止の可否を検討する際にも、基本的には個別具体的な判断が必要となります。

2.駐車場専用使用権の変更とは

マンションでは、さまざまな事情によって駐車場専用使用権に変更を加えるケースがあります。以下でどういったパターンがあるのか、みてみましょう。

2-1.駐車場専用使用権の値上げ

まず駐車場専用使用権が値上げされるケースがあります。もともと有料だった駐車料金が、マンション管理組合などによって増額されるパターンです。

2-2.駐車場専用使用権の有料化

駐車場専用使用権の有料化とは、もともと無料だった駐車料金がマンション管理組合などによって有料化される場合です。

2-3.駐車場専用使用権の廃止

駐車上専用使用権の廃止とは、これまで区分所有者が駐車場を利用できていた場合に専用使用権を廃止して、利用できなくする場合です。

いずれのケースにおいても駐車場の利用者には大きな影響を与える結果となります。

マンション管理組合が駐車場専用使用権に変更を加える場合にどういった手続きが必要になるのか、みていきましょう。

3.駐車場専用使用権の類型

駐車場専用使用権を細かくみていくと、以下の2つの類型に分けることが可能です。

どれに該当するかによって変更を加える際の方法が変わってくる可能性があります。

3-1.契約型

1つは「契約型」とよべる形態です。契約型とは、マンション管理組合が区分所有者に対し、契約によって駐車場を利用させる方法です。

標準管理規約では、この契約型の駐車場専用使用権が定められています。

「管理組合は、別添の図に示す駐車場において、特定の区分所有者に駐車場使用契約により使用させることができる」(標準管理規約15条1項)

契約型の場合、駐車場使用方法などについて別途細則が定められているケースが多数です。

3-2.分譲型・留保型

駐車場専用使用権には「分譲型」「留保型」とよぶべき形態もあります。

分譲型とは、マンションを分譲する過程において、駐車場を利用する権利を一般の区分所有権とは分離し、別途対価を徴収して設定する方法です。

マンションの区分所有権と別に分譲するので「分譲型」とよばれます。

分譲型の駐車場専用使用権設定方法は、行政通達によって「好ましくない」と指摘されています。ただ特に古いマンションにおいてはこういった形態が残っているケースも少なくありません。

なお分譲型自身が公序良俗に違反するのではないかが争われた裁判がありますが、裁判所は分譲型そのものが公序良俗に反するわけではない、と判断しています(最高裁昭和56年1月30日)。

また、元地権者などの特定の区分所有者に駐車場を使用する権利が留保されているケースもあります。こうした形態を「留保型」とよぶことにしましょう。分譲型と留保型については、契約型と区別して検討する必要があります。

なお分譲型や留保型であっても、分譲後に駐車場使用契約書が作成されて一見契約型のようにみえる場合があります。ただしその場合でも実態が分譲型・留保型である以上、契約型というよりも分譲型・留保型のパターンとして判断されるケースが多くなると考えられます。

4.契約型の場合の駐車場使用権変更方法

まずは契約型における駐車場の使用権変更方法をみてみましょう。

契約型の場合、多くのケースで使用細則により以下のような内容が決められています。

  • 駐車場を使用できるものの範囲を選定
  • 使用申し込みの手順
  • 空待ちの順序など契約締結についての定め
  • 契約期間についての定め
  • 区画の割当の定め
  • 契約解除など契約終了についての定め
  • 更新についての定め

契約型では、上記のような内容を定めた細則をもとにしてマンション管理組合と区分所有者が契約を締結しています。そこでマンション管理規約の内容や細則の内容が、マンション管理組合と区分所有者との間の駐車場専用使用権を定める契約に反映されることになります。

4-1.契約型の場合の条件変更方法

契約型の場合、駐車場利用券の廃止や値上げなどについては細則で定められているケースが多いと考えられます。

たとえば契約書に以下のような規定がある場合があるとしましょう。

「契約の解約、解除、駐車場使用料の納入その他契約書に定めのない事項については、規約または細則の定めるところによる

この場合、駐車場専用使用権の条件変更についても規約や使用細則、総会決議になどによって可能となると考えられます。

4-2.特別の影響を及ぼすかどうか

ただし駐車場専用使用権に条件変更を加える場合、一部の区分所有者に対する「特別の影響」が及ぶのではないかが問題となります。

特別の影響とは、一部の区分所有者がマンション総会決議によって受忍すべき限度を超える程度の不利益を受けると認められる場合の影響です。

マンション管理規約の変更によって区分所有者の中でも一部の所有者のみが受任限度を超えて不利益を受ける場合などには、対象となる区分所有者による承諾を得なければなりません。

(規約の設定、変更及び廃止)

区分所有法31条 規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によつてする。この場合において、規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

影響を受ける区分所有者の承諾なしにマンション管理規約が一部の区分所有者に不利益に変更された場合、その変更は無効になってしまいます。

4-3.特別の影響の判断基準

契約型の場合に特別の影響があるかどうかについては、個別具体的な判断が必要です。

たとえば改正によって駐車場を利用できなくなる場合(権利が廃止される場合)、そもそも駐車場利用契約自体が期間のあるもので、制限が更新に対する期待が失われた程度であれば、特別の影響があるとまではいえないでしょう。

値上げについては値上げ幅による影響が大きいと考えられます。社会通念上相当な範囲の値上げであれば特別の影響にあたらない可能性もありますが、著しい値上げであれば特別の影響に該当するでしょう。

値上げ幅が社会通念上相当かどうかについては、以下のような要素を考慮して判断します。

  • 敷地価格
  • 公租公課の上昇の程度
  • 駐車場の維持管理費用の増加の程度

5.分譲型・留保型の場合の駐車場専用使用権変更方法

次に分譲型や留保型の場合の駐車場使用権の変更についてみてみましょう。

分譲型や留保型で駐車場専用使用権の内容に変更を加える場合には、変更によって対象の区分所有者へ「特別の影響」を及ぼすかどうかが問題となります。

特別の影響をおよぼす場合には、権利の廃止や値上げを定める場合に本人の承諾がないと無効になってしまいます。

一方、特別の影響を及ぼさないのであれば、権利を廃止したり値上げしたりしても、承諾は不要です。

以下では分譲型や留保型のケースで「特別の影響」が認められるかが争われた判例をみてみましょう。

5-1.分譲型で駐車場専用使用権が値上げされたケース(最高裁平成10年10月30日)

本件は一部の区分所有者らがマンション分譲業者から、マンションの区分所有権と敷地の共有持分とともに駐車場の専用使用権についての分譲を受けて、マンション管理組合へ駐車場使用料を支払って使用してきたケースです。

マンション総会の決議によって規約が改正され、駐車場使用料が増額されて区分所有者らへ増額後の使用料の支払いを求められました。しかし区分所有者らは値上げされた駐車場料金の支払いを拒否したので、マンション管理組合により駐車場使用契約が解除されました。

そこで区分所有者らがマンション管理組合を相手に「駐車場専用使用権を有することの確認」を求めたのが本件裁判の概要です。

裁判所の判断

裁判所は以下のように述べて、本件では「特別の影響があるとはいえない」として区分所有者による主張を排斥しました。

  • 「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該区分所有関係の実態に照らして、その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいうものと解される
  • 使用料の増額についていえば、使用料の増額は一般的に専用使用権者に不利益を及ぼすものであるが、増額の必要性及び合理性が認められ、かつ、増額された使用料が当該区分所有関係において社会通念上相当な額であると認められる場合には、専用使用権者は使用料の増額を受忍すべきであり、使用料の増額に関する規約の設定、変更等は専用使用権者の権利に「特別の影響」を及ぼすものではないというべきである
  • 増額された使用料が社会通念上相当なものか否かは、当該区分所有関係における諸事情、例えば、(1)当初の専用使用権分譲における対価の額、その額とマンション本体の価格との関係、(2)分譲当時の近隣における類似の駐車場の使用料、その現在までの推移、(3)この間のマンション駐車場の敷地の価格及び公租公課の変動、(4)専用使用権者がマンション駐車場を使用してきた期間、(5)マンション駐車場の維持・管理に要する費用等を総合的に考慮して判断すべきである

つまり値上げによって「特別の影響」を及ぼすかどうかについては「社会通念上相当かどうか」が問題となり、社会通念上相当であれば特別の影響にあたりません。反対に社会通念上不相当なほどの値上げであれば特別の影響に該当することになります。

上記の判例の事案では「社会通念上相当」とされたので、結論的に区分所有者の主張が排斥されました。ただケースによっては社会通念上不相当として特別の影響に該当すると判断される可能性もあるといえるでしょう。

駐車場専用使用権の消滅や有償化決議に関する判例

留保型の事案において、1回がサウナなどの店舗のマンションにおいて駐車場の権利を消滅(廃止)させる決議が「特別の影響を及ぼす」として無効と判断されたケースがあります。

またそれまで駐車場使用料金が無料だったケースにおいて有償化された場合に「社会通念上相当かどうか」によって判断すべきとされた判例があります(最高裁平成10年11月20日)。

以上をまとめると、分譲型や留保型の場合、駐車場使用権を廃止すると多くの場合に「特別の影響あり」と判断されるものと考えられます。一方、有償化や値上げの決議については程度次第で社会通念上相当かどうかにより個別具体的に判断される必要があるといえるでしょう。

マンション管理についてはお気軽にご相談ください

以上のように、マンション管理組合が駐車場専用使用権に変更を加える際にはさまざまな問題が発生します。個別具体的な判断が必要となるため、法的な知識がないと対応が困難となるでしょう。

法律事務所羅針盤ではマンション管理組合への支援に力を入れて取り組んでいます。

管理組合を運営していて駐車場専用使用権の変更方法を始めとする問題に悩まれた場合には、お気軽にご相談ください。

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