マンション管理組合の総会はオンラインで開催できる?

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。
今回は、マンション管理組合の総会のオンライン開催の可否、留意点などについて説明していきます。
また国土交通省が令和3年6月22日に公表した改正マンション標準管理規約についても説明します。

目次

1 オンライン総会の必要性

2020年以降の新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、「新しい生活様式」の実践が求められる中で、マンション管理組合の総会運営についてもオンライン総会の開催が検討されるようになりました。

一般社団法人マンション管理業協会の調査結果(「ITを活用した総会に係る意向調査」)によると、約6割の管理組合が「IT総会は必要だと思う」と回答しているとのことです。

オンライン総会のメリット

オンライン総会の主なメリットは以下のとおりです。

・いわゆる「3密」を回避して、感染症対策に配慮した総会を開催できること。

・各区分所有者の利便性向上、出席機会の拡大を図ることができること。

・会場費や当日運営等のコストを削減することができ、管理組合の負担の軽減も図ることができること。

オンライン総会のデメリット

他方、オンライン総会には以下のデメリットもあるとされています。

・第三者が区分所有者になりすまして総会に出席するリスクがあること。

・サイバー攻撃や大規模障害等による通信手段の不具合が発生した場合の総会運営が困難となるおそれがあること。

・区分所有者間のIT格差が懸念されること(高齢者はITの利活用に慣れていないなど)

2 オンライン総会の類型

(1)オンライン総会の類型

オンライン総会はWEB会議システム等を用いて開催することが想定されていますが、「ITを活用した総会の在り方検討会」(事務局 一般社団法人マンション管理業協会)の整理によると、以下の類型に分類されます。

リアル総会

物理的に存在する会場において、区分所有者等が一堂に会する総会形態(オンライン傍聴の組み合わせを含む)

リアル+オンライン併用型総会

リアル総会を開催する一方で、リアル総会の場に在所しない区分所有者等についても、WEB会議システム等を用いて遠隔から出席し、議決権行使・質疑等することを許容する総会形態

オンライン総会

リアル総会を開催せず、区分所有者等がすべてWEB会議システム等を用いて出席する総会形態

(2)オンライン総会の類型の選択

オンライン総会の開催を検討する際に、どの類型の総会を検討すべきであるかは、各マンションの実情によります。

リゾート型マンションや投資型マンションなど区分所有者の大半が外部居住であるマンションの場合は「オンライン総会」が望ましいかもしれません。

また、高齢世帯が多く、ITの利用への不安からリアル会場への出席を希望する区分所有者が多いマンションの場合は、「リアル+オンライン併用型総会」が望ましい場合があります。

なお、IT格差への配慮の観点から、物理的な会場への出席を希望する区分所有者がいる場合は、完全な「オンライン総会」は避ける必要があるとされています。

3 オンライン総会開催の可否・留意点

(1)区分所有法上の考え方

まず、区分所有法上は、オンライン総会の開催に関する規定は特にないものの(書面や電磁的方法による議決権行使に関する規定がある程度)、オンライン総会の開催を否定する趣旨ではないものと考えられています。

(2)管理規約上の考え方

現在、多くの管理組合が参考にしていると思われる平成29年8月改正以前のマンション標準管理規約においては、オンライン総会の開催を否定する規定等はなく、標準管理規約上は、オンライン総会の開催は可能と考えられています。
ただ、従来のマンション標準管理規約には、オンライン総会の開催を予定する規定等もないため、オンライン総会の類型に応じて、以下の留意点があります。

①リアル総会(オンライン傍聴可)

リアル総会を開催し、オンライン傍聴を認めることは、従来のマンション標準管理規約上、特に制約はありません。
この場合、オンライン傍聴者は、議決権を行使しないため、定足数(標準管理規約47条1項の出席者)にはカウントしません。ただし、当該傍聴者が書面または電磁的方法による議決権行使を行っていた場合には、出席者としてカウントします(標準管理規約47条6項)。

②リアル+オンライン併用型総会

出席・議決権行使の取扱い

リアル+オンライン併用型総会の開催を検討する場合、オンライン出席者について、即時性、双方向性を満たした情報伝達を行いうるWEB環境が整っていれば、当該オンライン出席者を総会出席者と認めることが可能と考えられます。
この場合、当該オンライン出席者は、電磁的方法による議決権行使ではなく、総会の場で議決権を行使したものと取り扱うことが可能です。
なお、オンライン出席者の議決権行使の確認を適正に行うため、事前に管理組合内で議決権行使方法に関するルールを設定しておくことが望ましいとされています(チャット機能や投票システムを利用するなど)。

オンライン出席者の本人確認

オンライン出席者については、第三者によるなりすましが容易であるため、出席区分所有者の本人確認方法について、十分協議を行っておくことが望まれます。
区分所有者数が比較的少数であれば、オンライン出席時に氏名及び部屋番号を申告してもらうなどの確認方法で足りると思われますが、管理組合の実情によっては、総会招集通知の提示を求めたり、総会の出席方法の案内にパスワードを設定したりするなど、適切な本人確認方法を選択、実施すべきです。

通信手段の不具合への対応

サイバー攻撃や大規模障害等による通信手段の不具合が発生した場合の対応について、管理組合内で事前に十分な協議を行っておくことが望まれます。
具体的には、管理組合において、適切な通信環境の確保とサイバーセキュリティ対策を実施しておくことを前提として、

・オンライン出席者の大半がアクセス不可となるような大規模障害が発生した場合
→総会のやり直し

・オンライン出席者の一部がアクセス不可となった場合
→当該出席者について欠席(途中切断の場合は決議の定足数にカウントしない)とし、復旧した場合は、その時点以降、出席扱いとする。

・通信障害時のオンライン出席者に対する連絡手段を確保する。

など、想定される事態に応じて対応方針を検討しておきます。

③オンライン総会

開催場所

マンション管理組合総会の招集通知には開催場所を明記することが必要とされています(標準管理規約43条1項)。
「オンライン総会」の場合にはリアル総会不開催であるため、厳密には総会の開催場所という概念がありませんが、招集通知には開催方法(WEB会議システム等にアクセスするためのURLなど)を記載することによって代えうるものと考えられます。
なお、招集通知への開催場所の明記は区分所有法上の要請ではありません(区分所有法35条1項参照)。

利害関係者の意見陳述の機会への配慮                 

占有者(区分所有者から賃借して居住している賃借人など)は当該総会の目的たる事項について利害関係がある場合は、総会に出席して意見を述べることができ(区分所有法44条1項)、このような占有者が存在する場合は、総会の日時、場所、総会の目的たる事項(議案)を建物内に掲示することが必要です(区分所有法44条2項)。
「オンライン総会」の場合、この占有者の意見陳述の機会への配慮を行うことが求められます。
具体的には、「オンライン総会」にアクセス可能なURL等をマンション掲示板等に掲示し、占有者から出席の申し出があれば、参加に必要なIDやパスワードを伝えるといった対応が考えられます。

4 マンション標準管理規約の改正

以上の説明は従来のマンション標準管理規約を前提としたものですが、令和3年6月22日、国土交通省からマンション標準管理規約の改正に関する情報が公表されました。

国土交通省 「マンション標準管理規約」の改正について~管理組合におけるITを活用した総会・理事会のルールの明確化など~

このマンション標準管理規約の改正は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大等の社会情勢の変化を踏まえ、必要な規定を整備することを目的としたものですが、オンライン総会との関係では、ITを活用した総会等の会議実施が可能なことを明確化したものです。
以下の事項が関係する改正点となります。

規約本文の改正

①「WEB会議システム等」の定義規定を導入

改正標準管理規約2条11号において、WEB会議システム等とは、「電気通信回線を介して、即時性及び双方向性を備えた映像及び音声の通信を行うことができる会議システム等をいう」と定義されました。

②会議の場所についてオンライン総会の場合は開催方法を通知することを明記

改正標準管理規約43条において、総会招集通知の記載事項につき、「会議の日時、場所(WEB会議システム等を用いて会議を開催するときは、その開催方法)」と規定されました。
また、この「開催方法」については、「当該WEB会議システム等にアクセスするためのURLが考えられ、これに合わせて、なりすまし防止のため、WEB会議システム等を用いて出席を予定する組合員に対しては個別にID及びパスワードを送付することが考えられる」(第43条関係 第1項関係コメント)とされました。

コメントの改正

①理事長の事務報告について

マンション標準管理規約38条3項の理事長の事務報告について、WEB会議システム等を用いて開催する総会において、理事長が当該WEB会議システム等を用いて出席し報告を行うことも可能と記載されました(第38条関係コメント②)。
なお、WEB会議システム等を用いない場合と同様に、各組合員からの質疑への応答等について適切に対応する必要があることに留意すべきであるとされています。

②議決権行使について

「WEB会議システム等を用いて総会に出席している組合員が議決権を行使する場合の取扱いは、WEB会議システム等を用いずに総会に出席している組合員が議決権を行使する場合と同様であり、区分所有法39条3項に規定する規約の定めや集会の決議は不要である」と記載されました(第46条関係コメント⑧)。

③定足数について

WEB会議システム等を用いて出席した者の取扱いについて、「議決権を行使することができる組合員がWEB会議システム等を用いて出席した場合については、定足数の算出において出席組合員に含まれると考えられる」と記載されました(第47条関係コメント①)。
なお、議決権を行使することができない傍聴人として議事を傍聴する組合員は出席組合員に含まれないとされています。

なお、今回のマンション標準管理規約の改正は、あくまでITを活用した総会等の実施が可能であることを明確化したものに過ぎず、従来のマンション標準管理規約においてもITを活用した総会等の開催は可能であるとされています。

5 オンライン総会を導入する際の検討事項

マンション管理組合がオンライン総会を導入する際は少なくとも以下の事項を検討する必要があります。

(1)管理規約は従来型でも対応可

上記のとおり、オンライン総会の導入は従来のマンション標準管理規約上でも可能であり、必ずしも令和3年6月公表のマンション標準管理規約を定める必要はありません。
そのため、マンション管理規約の関係個所が従来の標準管理規約と同様であれば、オンライン総会の導入に際して管理規約の改正は必須ではありません。

(2)類型に関する議論(IT環境の調査、リアル出席の意向)

オンライン総会の導入には、どの類型を導入するかの検討が必要です。
その際、管理組合及び各区分所有者のIT環境に関する調査、リアル総会への出席の意向状況に関する調査等を行う必要があります。

(3)セキュリティへの対処

オンライン総会の導入に際しては、管理組合としてサイバーセキュリティ確保のための適切な対応が必要となります。
また、オンライン総会になりすまし等により第三者が不当に参加しないよう、開催方法の周知等を適切に行う必要があります

(4)システム障害等の場合の想定

オンライン総会の開催時にシステム障害が生じた場合のシミュレーションについて、事前に十分な検討を行っておくことが必要です。

※なお、マンション管理組合の総会開催については、オンライン総会以外にも、書面による決議の利用、書面または代理人による議決権行使の活用などの工夫が考えられます。
このような工夫については、当事務所HP「マンション法 コロナに留意しながら総会を開催する場合の工夫」をご参照ください。

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