法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。
マンション管理組合が法人の場合、区分所有者の名簿を作成して備え置かねばなりません。法人でなくても規約によって区分所有者名簿を作成するのが一般的です。
またマンション管理組合は「個人情報取扱事業者」になるため、名簿に記載された個人情報を適切に管理すべき義務も負います。
この記事ではマンション管理組合の名簿作成義務や個人情報保護法にもとづく適正な情報管理方法について、弁護士がご説明します。
1.区分所有者名簿の作成義務
マンション管理組合が法人化していると、区分所有法により「区分所有者名簿」を作成すべき義務を負います(区分所有法48条の2)。
区分所有法
第48条の2 管理組合法人は、設立の時及び毎年一月から三月までの間に財産目録を作成し、常にこれをその主たる事務所に備え置かなければならない。ただし、特に事業年度を設けるものは、設立の時及び毎事業年度の終了の時に財産目録を作成しなければならない。
2 管理組合法人は、区分所有者名簿を備え置き、区分所有者の変更があるごとに必要な変更を加えなければならない。
管理組合が法人でない場合でも、管理規約により名簿の作成が義務付けられているマンションが多数です。
標準管理規約第64条 理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類を作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。
よって、ほとんどのマンション管理組合では、区分所有者名簿を作成しなければなりません。
名簿にどういった事項を記載すべきかは法律上定められていませんが、住所や氏名などの区分所有者を特定できる事項を記入する必要があり、それで十分でしょう。
1-1.利害関係人からの閲覧請求への対応
区分所有者名簿については、各区分所有者や利害関係人からの閲覧請求権が認められます(標準管理規約64条)。
ただし名簿は高度なプライバシー情報に該当するので、「利害関係人」は法的に利害関係のある人に限られるべきです。請求理由も「正当な権利行使に必要」な場合に限定すべきでしょう。
なお規約に閲覧請求権の規定がない場合には理事長の裁量によって閲覧を認めるかどうか決定しますが、その場合でも個人情報、プライバシー保護の観点から上記と同様の基準で慎重に対応すべきです。
1-2.管理会社が名簿を作成している場合
管理会社が区分所有者名簿を作成・管理している場合でも、開示請求を受けたら管理会社は理事長の指示を受けてプライバシーを侵害しないように慎重に対応しなければなりません。
具体的な開示方法については、管理委託契約の内容によって変わってくる可能性があります。プライバシー権侵害とならないよう、適正に管理委託契約の条項を定めましょう。
2.居住者名簿について
マンションによっては区分所有者名簿の他、居住者名簿を作成しているケースがあります。
居住者名簿とは、賃借人や家族などの同居人も含めたマンションの居住者についての名簿です。
区分所有法や標準管理規約においては、居住者名簿の作成や備置は義務とはされていません。
ただ高齢者世帯が増加する現代社会において、孤独死を防いだり災害時に適正な対応をとったりするため、居住者名簿の必要性は高まっているといえるでしょう。
2-1.居住者名簿はプライバシー情報
氏名や住所は高度なプライバシー情報なので、居住者名簿の作成の際には管理規約などにより根拠を明確にして、適正な取り扱い方法を定める必要があります。
居住者名簿の場合、氏名や住所などの最低限の情報だけではなく緊急連絡先や勤務先などの情報も記載してもらうことが多いため、区分所有者名簿以上にプライバシー保護の観点が重要となります。
きちんと管理できていなければ個人情報保護法違反となる可能性もありますし、住民からの情報提供に関する協力も得られないでしょう。
2-2.区分所有者名簿と居住者名簿を一体にしてもかまわない
区分所有者名簿と居住者名簿を一体のものとして作成してもかまいません。その方が事務管理は簡易になるでしょう。現実にそういった扱いにしているマンションも多数あります。
2-3.災害時の要支援者名簿について
災害発生時に備えて、マンション管理組合が高齢者などの「避難行動要支援者名簿」を作成するケースもあります。こちらの名簿にも高度なプライバシー情報が含まれるため、管理規約などによって取り扱い方法を厳格に定めておきましょう。
2-4.名簿作成の目的の定め方
マンション管理組合が名簿を作成する際には、情報取得の目的を明確に定めて区分所有者や居住者の理解を得なければなりません。
またいったん名簿を作成すると、居住者によって規約違反行為が行われたときに、管理組合が名簿の情報を利用して注意や妨害排除などの行為を実施する可能性もあります。
そこで名簿作成の目的について、基本的には「管理組合の事務のために使用する」と定めるのがよいでしょう。
3.マンション管理組合と個人情報保護法
マンション管理組合には個人情報保護法が適用されます。
小規模な管理組合であっても法人化していてもしていなくても、1件でも個人情報を取得管理していれば個人情報取り扱い事業者となるためです。営利目的をもっていなくても個人情報保護法の適用対象となります。
マンション管理組合が個人情報を取得したら、個人情報保護法に従った管理方法をとらねばなりません。違反すると行政から指導勧告を受けたり、場合によっては罰則が適用されたりする可能性もあるので、慎重に対応しましょう。
たとえば個人情報を取得する際には本人へ目的を開示する必要があり、取得後の管理についても安全管理措置をとらねばなりません。
第三者へ情報提供する場合には、本人の同意が必要です。ただし法令に基づく場合や人の生命や身体、財産に危険が及んでいて本人の同意をとるのが難しい場合には例外が認められています。
情報は正しく維持する必要があり、本人からの開示請求や訂正、削除請求などにも応じなければなりません。苦情処理にも対応する必要があります。
個人情報保護法の規定内容を正しく理解して、法律違反にならないように注意深く個人情報を取り扱いましょう。
4.具体的な個人情報の取り扱い方法
マンション管理組合が名簿を作成する際の、具体的な個人情報取り扱い方法をお伝えします。
4-1.個人情報の取得方法や使用目的を整備する
まずは個人情報を取得する方法や使用目的をルール化して整備しましょう。
細則をもうけて詳しい規定を設けるようおすすめします。具体的な規定方法がわからない場合には弁護士までご相談ください。
4-2.情報管理の責任者を定める
次に個人情報を取り扱うための責任者を設けましょう。個人情報取扱いに関する担当理事をおいてもよいでしょう。
責任者は定期的に個人情報の取り扱い状況について点検を行うべきです。何か問題があれば、すぐに対処しなければなりません。放置していると個人情報保護法違反となったり漏洩が発生したりして、大きなトラブルにつながる可能性があります。
また個人情報が漏洩した場合には、責任者へすぐに報告が届く体制を整備すべきです。
漏洩発生時の対処方法についても、あらかじめマニュアルを作成して即時対応できるように準備しておきましょう。
4-3.研修を実施する
個人情報の取り扱いに関して定期的な研修を開き、理事会やマンションの区分所有者間で個人情報保護法についての理解を深めましょう。
管理組合や管理会社が実施する研修やセミナーにも積極的に参加して、正しい取り扱い方法を共有する方法も有効です。
4-4.アクセス制限する
取得した個人情報については、アクセス制限をして漏洩を避けましょう。
紙で情報管理する場合
紙で個人情報を管理する場合には、一定の人しか入れない場所に鍵のついた棚や机を置いて、その中で名簿等の情報を管理するようおすすめします。担当者以外はその棚や机にアクセスできないようにしてください。
データで情報管理する場合
パソコンやクラウド上などのデータで情報を管理する場合には、アクセスできる人や方法を制限しましょう。
たとえば以下のような方法が考えられます。
- ウェブ上で管理せずに一定の人しかアクセスできないハードディスク上で管理する
- パスワードを設定して責任者や担当者しかアクセスできないようにする
- パソコンやハードディスク自体を持ち去られないように固定する
- 情報を保管しているパソコンやハードディスクを置く部屋やスペースに鍵をかけて、限られた担当者しか入れないようにする
個人情報保護法により、個人情報取集事業者には安全管理措置を要求されます。
個人情報を適当に管理していると指導勧告を受ける可能性がありますし、漏洩が発生したときに管理組合が責任を問われるリスクが高くなるので、くれぐれも慎重に取り扱いましょう。
5.区分所有者からの開示請求権について
区分所有者には、区分所有者名簿の閲覧請求権が認められます。
5-1.区分所有者名簿と居住者名簿が一体のケースでの注意点
特に区分所有者名簿と居住者名簿を一体化している場合、開示の際にプライバシー権が問題になりやすいので注意しなければなりません。
たとえばマンション総会に備えて他の区分所有者の委任状を集めるのに居住者情報は不要です。委任状集めのために情報提供を求められているのに、同居者や賃借人の情報、勤務先や電話番号などを開示すると、管理組合に不法行為が成立してしまう可能性もあります。
区分所有者が情報開示請求してきたときには、目的に応じた対応をとらねばなりません。多くのケースでは、区分所有者の氏名と住所を開示すれば十分でしょう。
居住者名簿と一体になっていて詳細情報が記載されている場合、不要な部分は黒塗りにして開示すべきです。
5-2.管理組合による開示を規約に定める
場合によっては、区分所有者同士で対立が起こっていて、他の区分所有者に対する開示を拒否しているケースも考えられます。そういった事例では、管理組合の勝手な判断で開示すると苦情を申し立てられる可能性もあるので注意深く対応しなければなりません。
トラブルを避けるため、管理規約において「管理組合は区分所有者による名簿の閲覧を認めることができる」と明確に規定しておきましょう。管理規約に基づいた開示であれば、管理組合が開示を行っても法的な問題は基本的に生じません。
5-3.開示請求の理由が違法な目的の場合
開示請求の理由が「ストーカー」などの違法なケースも考えられます。この場合には、管理規約があるからといって開示すると、管理組合に過失が認められてしまう可能性があります。
個別対応が必要なケースも考えられるので、管理規約上に規定があるからといって一律に開示すればよいというものでもありません。
迷われた際には弁護士へご相談ください。
法律事務所羅針盤では、マンション管理組合への法的支援に力を入れて取り組んでいます。顧問弁護士をお探しの方、管理組合の運営方法について相談したい方はお気軽にご相談ください。