居住していない区分所有者に協力金(負担金)を課すことはできる?方法や判例を弁護士が解説

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

マンションには居住している区分所有者と居住していない区分所有者がいるものです。

居住してない区分所有者の場合、理事会の役員の負担を免れるケースが多いでしょう。日常的な組合活動にも協力できないのが一般的です。そこで居住する区分所有者との不公平感を解消するため、非居住の区分所有者には「負担金」が要求されるケースがみられます。

このように居住していない区分所有者に協力金(負担金)を課するマンション管理規約は有効なのでしょうか?

この記事では居住していない区分所有者のみに負担金を課したり、年に数回行われる掃除に欠席した場合に罰金(違約金)を科したりすることが法律上、認められるのか解説します。

最高裁判所の判例もあるので、合わせてお伝えします。

マンション管理組合関係者の方はぜひ参考にしてみてください。

目次

1.マンション管理費などの定めは合理的でなければならない

そもそも管理規約で管理費や負担金を定める場合、どのようなルールが適用されるかご存知でしょうか?

区分所有法では、マンション管理費などの定めは共用部分の共有持分に応じて定められるべき、と規定されています(区分所有法19条、14条)。

第19条 各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。

第14条 各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による。

管理費の負担額に差が設けられたり一部の区分所有者に負担金を課したりする場合には、合理的な範囲でなければなりません。合理的な根拠がないのに一部の区分所有者に高額な負担金や罰金を課すと、違法になってしまいます。

合理的な範囲であれば負担金や罰金が有効になる可能性はありますが、合理的な範囲でなければ違法・無効になってしまうことに注意が必要です。

2.不在者負担金についての最高裁判所判例

非居住の区分所有者(不在者)にのみ負担金を課するマンション管理規約は合理的なものとして有効なのでしょうか?

ここで最高裁判所が判断した判例があるのでみてみましょう。

2-1.事案の概要

このケースでは、不在の区分所有者(非居住の区分所有者)のみから月額2500円の負担金を徴収する旨のマンション管理規約が規定されました。マンションは昭和40年頃に分譲された大規模マンションで、戸数は全体で868戸もありました。しかしながら区分所有権があってもマンションに居住しない非居住の所有者が増加して、居住している区分所有者との関係で不公平となり、居住している区分所有者から不満が出るようになったのです。このマンションでは、全住戸が868戸であったところ、170~180戸が非居住になっていました。そこで平成16年3月、総会で管理規約を変更して不在の組合員だけに「住民活動協力金」として負担を課することを決めました。

マンション管理にかかる基本的な経費は月額1万7,500円(一般管理費8,500円、修繕積立金9,000円)が基本でしたが、非居住の区分所有者には住民活動協力金によって月額2,500円が上乗せされました。

非居住の組合員の一部が、こういった規約の変更は一部の区分所有者の権利に「特別の影響」を及ぼすものであるとして、不在組合員全員の承諾がなければ無効として住民活動協力金を定める規約の無効を主張したのです。

最高裁は次のような理由により、このマンションで定められた住民活動協力金は特定の区分所有者に対する「特別の影響」にあたらず、無効にはならないと判断しました(最高裁平成22年1月26日判決)。

2-2.裁判所の判断内容

裁判所はまず、マンション管理に必要な金銭は「組合員全員が平等に負担すべき」であることを前提に判断しています。そのうえで非居住の組合員はマンション管理規約によって役員になることができず、日常の管理業務に協力できないことに言及しました。そして、居住している組合員は役員になったり日常の管理業務に参加したりする負担も生じるなどの貢献をしているのだから、非居住の区分所有者のみに負担金を課することは必要性も認められ、合理的であると判断しました。

さらに以下の事情により、月額2500円という価格は合理的で一部の区分所有者へ「特別の影響」を及ぼす場合でもないとして、規約の有効性を認めています。

  • 2500円は全区分所有者が負担する金額の15%増しにすぎない
  • 反対者はわずか5名であった

2-3.判例の基本的な考え方

判例は、以下のような状況を個別具体的に考慮して非居住者への負担金を定める規約の有効性を判断する立場といえます。

  • 非居住者の住戸の割合
  • 管理組合の活動内容
  • 非居住者が役員になれるかどうか
  • 負担金の金額や割合
  • 支払拒絶者の人数や割合

なお原審の高等裁判所では「月額2500円という金額には合理性がなく認められない」という立場でしたが、最高裁によって判断が変更されていることにも留意しましょう。

3.非居住の区分所有者へどこまでの負担金が認められるのか

最高裁の判決内容からすると、非居住の区分所有者に一定の負担金を課しても合理的な範囲であれば違法にはならないと考えられます。ただし無制限に負担金を課しても良いわけではありません。

上記判例では月額2,500円の負担金が認められましたが、あまりに高額になると合理性が認められず、無効になってしまうでしょう。

たとえば年額2万円程度であれば合理的とされても、年額10万円となれば合理的とはいえないと判断されやすいと考えられます。

また戸数や管理組合の活動内容などによっても規約の有効性が変わる可能性があります。たとえば戸数が少ないマンションで管理組合自身があまり積極的に活動していないケースでは、年額2万円や月額2,500円であっても高額すぎると判断される可能性があるでしょう(判例のケースでは戸数が868戸もあり、組合が活動を積極的に行っていました)。

金額だけでは負担金を定める規約の有効性を定めることはできないので、注意しなければなりません。

4.掃除に不参加の場合に罰金を定める規約について

次に、年に数回、マンションで区分所有者が全員参加する掃除が行われており、それに欠席すると罰金が科される規約の有効性について、考えてみましょう。罰金の金額は1回の欠席で1,000円とします。

この場合、罰金を定める管理規約は有効になるのでしょうか?

掃除欠席者に対する罰金を定める規約の有効性については、その規約に合理性があるかどうかと金額が合理的な範囲かという2つの観点から判断しなければなりません。

4-1.金額が合理的かどうかについて

1回欠席したら1,000円という罰金の金額に合理性は認められるのでしょうか?

この点、掃除に参加する実費や労力を考えると、1,000円は比較的低い金額と考えられます。よって1,000円という罰金の金額自体には合理性があるといえるでしょう。^

1,000円が高すぎるという理由でこの規約が無効になる可能性は低いと考えられます。

4-2.規約に合理性があるかどうか

次に、掃除に欠席した区分所有者に負担金を科するという規約の定め方自体に必要性や合理性があるかが問題になります。

掃除に欠席した場合の罰金は、非居住者のみに課される負担金と同じように考えることはできません。たとえば掃除を行う日時は理事会が定めるものと考えられますが、区分所有者がその日を空けられるかどうかは定かでないからです。

区分所有者にもそれぞれの都合があるので、理事会が一律に定めた日程で掃除に参加するのが難しい人もいるでしょう。それにもかかわらず、欠席したからといって一律に罰金を科すのは不合理です。

また区分所有者にもいろいろな人がいます。各自の勤務先の休日もさまざまですし、夜勤者もいるでしょう。高齢者、障がい者、子育て世帯などの個別事情もあります。そういった事情を無視して一律に「掃除に欠席したから」といって負担金を課すのはやはり不合理であると考えられます。

さらに区分所有者の側からしても「1,000円さえ払えば掃除に出席しなくて良い」と考えるきっかけになってしまい、「掃除に出席させるために罰金を徴収する」目的が達成されず、本末転倒になってしまうおそれがあります。

以上のような事情から、掃除に欠席した人に一律に1,000円の罰金を科す規約には、有効性が認められにくいと考えるべきでしょう。

5.総会決議で負担金を定めた場合

判例のケースでは、非居住者への負担金の定めをマンション管理規約によって行っています。もしも規約に定めず総会決議のみによって負担金を課した場合、その決議は有効になるのでしょうか?

まず、マンション管理規約によって規制するか総会決議によって規制するかについては、管理組合が状況に応じて判断できると考えられています(東京高裁平成15年12月4日)。

このことからすると、総解決議で負担金について定めても有効になりやすいと考えられるでしょう。

ただし先にご紹介した裁判例が及ぶのは「マンション管理規約によって協力金が定められたケース」であり、「総会決議で協力金が定められた場合」には及ばないとも考えられます。そうなると、同じ事案でも総会決議で定められた場合には、負担金を定める決定の有効性が認められない可能性も出てきます。

また非居住者のみに負担金を課すという事項はマンション管理に関する基本的な事項ですし、負担金は違約金の一種とも考えられます。最高裁の事案では、反対者が少数であったことも考慮要素とされています。

そうだとすると、総会決議で定めるよりきちんとマンション管理規約で定めておいた方が適切であると考えやすいでしょう。

今後、非居住者のみに別途負担金を課す決定を行うなら、総会決議ではなくマンション管理規約で定めるようおすすめします。

ただしマンション管理規約で基本事項を定めて、個別的な詳細事項は総会決議に委ねる方法をとっても問題はないと考えられます。すべての些末な事項を管理規約で定められない場合には、こちらの方法をとりましょう。

6.負担金や協力金を定めるなら弁護士に相談を

非居住者にのみ負担金を課すこと自体には必要性や合理性が認められる可能性があります。

ただし実際の場面で必要性や合理性が認められるかどうかについては、以下のような事情をもとに個別具体的に判断されなければなりません。

  • 非居住者の住戸の割合
  • 管理組合の活動内容
  • 非居住者が役員になれるかどうか
  • 負担金の金額や割合
  • 支払拒絶者の人数や割合

また非居住者のみに負担金を定める場合と掃除の欠席者などに負担金を求める場合とでは、判断が変わってくる可能性があります。管理規約で基本事項を定めて詳細は総会決議に委ねる場合でも、どこまでが管理規約で定めるべき事項でありどこからを総会決議に委ねられるのか、判断がつきかねるケースも多いと考えられます。

このような専門的な事項については、法律の専門知識がないと対応しにくいでしょう。自己判断すると間違った対応をしてしまい、決議が無効になってしまうおそれがあります。

非居住者などに負担金を定める場合には、専門家である弁護士に相談してアドバイスを求めましょう。弁護士に管理規約の案を作成してもらうことも可能です。

法律事務所羅針盤では、マンション管理組合のサポートに積極的に取り組んでいます。非居住の区分所有者などに別異の取り扱いをして負担金・協力金を求めたいと考えている管理組合の方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。

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