【管理組合・管理会社向け】マンション管理費滞納への対応Q&A

「うちのマンション、管理費をずっと払っていない人がいるみたい…」

管理費や修繕積立金の滞納は、多くのマンションが直面する、深刻な問題です。

これを放置すると、財政的な影響に加えて、他の真面目に支払っている住民との間に不公平感を生んでしまいます。

役員としてこの問題を担当するのは、精神的にも負担が大きいかもしれません。しかし、正しい手順に沿って、毅然と、そして冷静に対応すれば、解決への道筋は見えてきます。

このページでは、滞納が発生した際の初期対応から、最終的な法的措置までを、具体的なステップに分けて解説します。


目次

マンション管理費滞納問題の基本。

Q. 督促を始める前に、何か確認すべきことはありますか?

A. はい、感情的に動く前に、まずは以下の3点を冷静に確認・準備しましょう。

  1. 管理規約の確認
    • 遅延損害金の利率は何%か?
    • 督促にかかった費用(内容証明郵便代など)を滞納者に請求できるか?
    • 法的措置をとるための手続き(理事会決議だけでよいか、総会決議が必要か) といったルールが記載されています。
  2. 滞納状況の正確な把握
    滞納している部屋番号、氏名、滞納額の合計、いつから滞納が始まっているのかを、管理会社の会計報告書などで正確に確認します。
  3. これまでの経緯の整理
    過去に督促をしたことがあるか、滞納者から何か連絡はあったかなど、これまでの経緯を時系列でまとめておくと、今後の対応がスムーズになります。

滞納管理費督促の具体的なステップ

Q. 滞納が発生したら、まず何から始めればいいですか?

A. まずは「単なる支払い忘れ」の可能性も考慮し、丁寧なアプローチから始めます。これをステップ1:初期督促とします。

  1. 書面による通知(1回目): 管理会社名または理事長名で、「〇月分の管理費等のお支払いが確認できておりません。ご確認の上、お支払いをお願いいたします」といった、柔らかい文面の通知書をポストに投函します。
  2. 電話または訪問による連絡: 書面で反応がない場合、電話で状況を伺うか、インターホン越しに声をかけます。感情的にならず、事務的に「お支払いの確認が取れていないのですが、何かご事情がありましたか?」と尋ねるのがポイントです。

Q. 電話や手紙で支払ってくれません。次の手は?

A. 支払い意思が見られない場合、対応を一段階進めます。これがステップ2:内容証明郵便による最終勧告です。

内容証明郵便とは、「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を郵便局が公的に証明してくれるサービスです。これにより、管理組合として「正式に支払いを請求した」という強力な証拠が残ります。

この文書には、以下の内容を明記します。

  • 請求する金額(滞納額+遅延損害金)
  • 支払い期限
  • 「本状到着後、〇日以内にお支払いいただけない場合、法的措置へ移行する可能性があります」という一文

理事長名で送付しますが、弁護士に依頼し、その代理人として文書を送付してもらう方法もあります。専門家からの正式な通知となるため、問題解決が早まるケースも少なくありません。


マンション管理費滞納に対する法的措置とその知識

Q. 内容証明郵便を無視されました。いよいよ法的措置を検討すべきですか?

A. はい、その段階に至ったと考えられます。内容証明を送っても支払いがない、あるいは連絡すらない場合は、理事会や総会で決議した上で、裁判所を通じた法的な手続きに進みます。これは組合としての正式な手続きであり、決して個人的な攻撃ではありません。

Q. 管理費の請求に「時効」はありますか?

A. はい、あります。現在の法律では、管理費の請求権は5年で時効にかかり、請求できなくなってしまいます。 ただし、時効が迫っていても、内容証明郵便を送る(6ヶ月間時効の完成を猶予)、支払督促や訴訟を提起する、あるいは滞納者自身に債務を認めさせる(一筆書いてもらうなど)ことで、時効の進行をストップさせたり、リセットしたり(時効の更新)することが可能です。滞納が長期化している場合は、時効を常に意識しておく必要があります。

Q. 滞納者が部屋を売却したり、競売にかけられたりした場合は、滞納管理費は回収できますか?

A. はい、回収できる可能性は高いです。法律(区分所有法)では、管理組合の権利を守るために、非常に強力なルールが定められています。

  • 特定承継人への請求権(区分所有法第8条)
    部屋を新たに購入した人(中古で買った人、競売で落札した人)に対して、前の所有者が滞納していた管理費等を請求することができます。
  • 先取特権(区分所有法第7条)
    管理組合は、滞納管理費について、他の債権者(銀行の住宅ローンなど)よりも優先的に支払いを受けられる「先取特権」という権利を持っています。部屋が競売にかけられた場合、その売却代金から優先的に滞納管理費を回収できる可能性があります。

これらの権利を行使するには専門的な法知識と手続きが不可欠です。このような状況では、管理組合として取りうる最善の対応を検討するため、速やかに弁護士へ相談されることをお勧めします。

Q. 弁護士への相談は、どのような場合に検討すればよいですか?

A. 弁護士への相談は、問題が複雑化する前であればいつでも有効ですが、特に以下のような状況では、専門家の助言を得ることが円滑な解決につながります。

  • 内容証明郵便の送付を検討している時点
  • 滞納額が高額(例: 50万円以上)、または滞納期間が長期(例: 1年以上)になった時点
  • 滞納者との直接交渉が困難な場合(威圧的な態度を取る、連絡が一切つかないなど)
  • 支払督促や訴訟などの法的手続きを具体的に検討し始めた時点

滞納問題は、対応が遅れるほど解決が難しくなる傾向があります。

役員だけで抱え込まず、管理会社と密に連携し、法的な手続きが視野に入る段階では、管理組合の顧問弁護士や法律の専門家に相談することも、組合の財産と役員の負担を守るための重要な選択肢となります。

この記事を書いた人

千葉県の市川市の法律事務所 羅針盤の弁護士。「お客様の根本問題を解決する」がモットー。複雑な法律の知識についてわかりやすく解説します。

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