マンション管理組合の理事長、監事、理事の解任手続きをパターンごとに解説

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

マンション管理組合において、理事長や役員が暴走してしまうと運営に大きな支障が生じます。
理事長が管理組合を私物化してしまったり他のメンバーの話に聞く耳を持たなくなったりしたら、解任も検討しなければなりません。

今回はマンション管理組合の役員や理事長を解任する手続きをパターンごとに解説します。

理事長が総会招集に応じない場合の対処方法もお伝えしますので、ぜひ参考にしてみてください。

目次

1.マンション管理組合の役員の種類によって解任方法が変わる

マンション管理組合の役員の主な種類として、まず「一般の理事」と「監事」があり、更に理事の中から「理事長」(管理組合によっては副理事長や会計担当理事も)が選ばれることとされている管理組合が多いかと思います。

役員の種類により権限内容や暴走したときのリスク、解任の方法が異なるので、まずは簡単に確認しましょう。

1-1.理事長が暴走すると致命的な問題が発生することも

理事長はもっとも強い権限を持ち、マンション管理組合を代表します。理事会の招集権があり、緊急性のある修繕や事故などへの対応も理事長が行います。管理費や修繕積立費用が入金される口座の銀行印なども理事長が保管するケースが多数です。管理組合が裁判の当事者になったときには理事長が代表として対応します。

理事長が暴走すると管理組合の運営に著しい支障が生じ、致命的な問題が生じる可能性もあります。解任の必要性は非常に高いといえるでしょう。

暴走する理事長の特徴

以下のような問題が生じたら、理事長の解任を検討すべき状況です。

  • 自分の意見を押し付けてくる
  • 理事長が事前に決めた「結論ありき」となっており、決定のプロセスである議論に耳を傾けようとしない
  • 一般の理事や管理会社の意見を聞かない
  • マンション管理規約について、自分の都合の良いように勝手な解釈をする
  • 理事会で議題に上がっていないことまで、理事長の独断で勝手に決められてしまう
  • 工事や保険などの費用が生じることについて、理事長のプライベートな知り合いや関係者に任せる

1-2.理事

理事は業務執行を行う役割を担っており、理事会に参加して意見を述べたり議決を行ったりします。会計担当理事や議事録を作成するための書記官の役割を果たすケースもあります。

1-3.監事はマンションの重要な会計を担当する

監事は、マンション管理組合における業務執行や会計が適正に行われているかチェックする立場です。不正があると考えられる場合、理事長へ理事会の招集を請求できて、理事長が招集に応じない場合には監事自身が理事会を招集できます。理事長に次いで重要な役割を果たす役職といえるでしょう。

監事がきちんと業務を行わない場合、適正な監査が行われないため理事や理事長が暴走しやすくなります。また管理会社の対応がずさんでも放置されたり、管理費や修繕積立金をいいように収奪されてしまったりする可能性もあります。

理事長や監事、理事が暴走するとマンションの運営や会計に大きな問題が発生するので、以下の方法で解任手続きを進めましょう。

2.理事や監事の解任は総会決議で普通決議をとる

一般の理事や監事の場合、総会の普通決議によって解任できます。

普通決議で議決するには、出席組合員の過半数の多数決があれば足ります(標準管理規約48条13号、47条2項)。

一般の理事や監事を解任する必要がある場合、マンション総会の開催を求めなければなりません。

マンション総会を開く方法

マンション総会を開く方法としては以下のようなものがあります。

理事長へ開催を求める

理事長には総会の招集権があります。ただし理事長がマンション管理組合の臨時総会を開く場合、理事会の決議を経る必要があり独断で決定できるわけではありません(標準管理規約42条4項)。

監事が開催を求める

監事には、理事が法令違反や不正行為をしている場合、不正行為をするおそれがあるときなどに必要があれば総会を開くよう求める権利が認められます(標準管理規約41条6項、7項)。不正行為の疑いがあるような問題のある理事がいる場合、監事が総会の開催を求められます。

区分所有者が開催を求める

区分所有者の5分の1以上で議決権の5分の1以上を有する人には、集会を招集する権限が認められます(区分所有法34条5項)。

ただし管理者(通常はマンションの理事長)がおかれている場合、まずは管理者等へ招集を請求しなければなりません。その場合、2週間以内に総会招集通知が発せられなければ、請求を行った区分所有者自身が総会を招集できます。

3.理事長の解任方法

次に理事長を解任する方法をみていきましょう。

3-1.総会普通決議による解任

理事長についても一般の理事や監事と同様、マンション管理組合の総会決議によって解任できます。決議の方法は「普通決議」です。

総会を開催して理事長を解任する決議を求め、出席者の議決権の過半数以上の賛成を得られれば、理事長を解任できます(標準管理規約48条13号、47条2項)。

ただし理事長自らが総会招集に協力することは考えにくいので、監事が招集を請求するか、区分所有者が請求しましょう。

3-2.理事会決議による解任

「マンション理事会」においても理事長を解任できる可能性があります。

マンション管理規約において「理事会で解任できる」と明確に定められていれば、問題なく解任できます。

一方、理事長の選出方法について「理事会で選任できる」としているものの「解任できる」とはっきり定めていないケースがあります。このように「解任権限」について規定されていない場合でも理事会で理事長を解任できるのか、争われた判例があるのでご紹介します。

最高裁平成29年12月18日判決

理事会における解任権が明確に定められていなかった事案において最高裁判所は「管理組合の規約にもとづき理事の互選により理事長を選任する、と定められている場合、理事長の職を解いて別の理事を理事長とすることも理事会に委ねる趣旨」と判示しました。つまり理事長の人選については全体的に理事会に委ねられているので、解任権がはっきりと規定されていなくても理事会決議で解任できる、という意味です。

この判例の判断内容からすると以下の要件を満たす場合には、理事会決議で理事長を解任できると考えられます。

  • マンションの理事を組合員の中から総会で選出する規約がある
  • マンション規約上、理事長は理事の互選によって選任することになっている

よって理事会の過半数決議で理事長の解任や理事の変更が決議されれば、理事長の職を解くことができます。

標準管理規約の改正

上記の判例を受けて、マンションの標準管理規約が改正されました。現行の規約においては、理事会において理事長を解任できることが明確に定められています。

標準管理規約35条3項

理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事会の決議によって、理事のうちから選任し、又は解任する。

このように管理規約を策定している場合には、問題なく理事会で理事長を解任できると考えてよいでしょう。

3-3.裁判による解任

総会でも理事会でも解任できない場合、区分所有者は最終的に裁判を起こして理事長の解任を求められます。

区分所有法は「管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各区分所有者は、その解任を裁判所に請求することができる」と定めているからです(区分所有法25条2項)。管理者は、一般的に理事長を指します。

またこの規定によると、各区分所有者が訴訟を提起できるとされているので、総会招集を求める場合のように5分の1以上などもしばりもありません。

ただし訴訟で理事長の解任を求めると、理事長側も強く争ってくると想定されます。理事長の「不正行為や職務を行うに適しない事情」を証明しなければなりません。事前に理事の不正行為に関する証拠を集めておくべきです。

マンション管理組合の運営は弁護士へご相談ください

理事長や理事、監事の暴走を放置していると、マンションの区分所有者全員に大きな不利益が及ぶ可能性があります。早期に暴走を止めるには法律の専門知識が必要です。当事務所ではマンション管理組合への支援に力を入れていますので、マンション管理でお困りの際にはぜひご相談ください。

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