管理費滞納、迷惑な区分所有者へ法的措置をとった場合に「弁護士費用」を請求できるのか?

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

マンションの区分所有者が管理費用を払わなかったりその他の迷惑行為を行ったりする場合、管理組合は弁護士に依頼して訴訟等の法的手続きをとらねばならないでしょう。

弁護士に依頼すると弁護士費用がかかりますが、その費用を迷惑な区分所有者本人へ請求できるのでしょうか?

結論的にマンション管理規約に定めがあれば、そうした請求も可能となります。

今回はマンションの迷惑な区分所有者へ法的措置をとった場合に弁護士費用を請求できるのか、請求できるとすれば全額の請求が可能なのか、解説します。マンションに管理費を滞納するなど迷惑行為を繰り返す区分所有者がいる場合、ぜひ参考にしてみてください。

目次

1.迷惑行為をする区分所有者へ法的措置をとった場合の弁護士費用とは

マンションの区分所有者は、全員がルールを守って生活するとは限りません。ときには迷惑行為を行う住人もいます。

典型的には管理費用や修繕積立金を払わない場合が考えられますが、それ以外にも自転車置場の使い方のルールを守らなかったりペット禁止なのにペットを飼ったりゴミ出しのルールを守らなかったり騒音を発生させたりなど、さまざまな迷惑行為が考えられるでしょう。

マンションの区分所有者が迷惑行為を繰り返す場合、マンション管理組合の理事長は本人へ勧告や指示、警告などを行うことが可能です(標準管理規約67条1項)。

またマンションの区分所有者が管理費用等を払わない場合、管理組合は遅延損害金や諸費用を加算して組合員への請求が可能です(標準管理規約60条2項)。

こういった措置をとるとき、管理組合が弁護士に依頼すると弁護士費用がかかります。その弁護士費用を迷惑な区分所有者本人へ請求できるのか、というのが今回とりあげる問題です。

2.契約や規約に規定がないと弁護士費用の請求は困難

まずはマンション管理規約において「弁護士費用を請求できる」と規定されていない場合、弁護士費用を請求できるのかみてみましょう。

日本では弁護士費用については「本人が負担する」のが原則です。相手が敗訴したとしても、敗訴者に弁護士費用の負担をさせられません。例外的に「不法行為にもとづく損害賠償請求」の場合に認容額の10%程度が弁護士費用として認められる運用が行われているのみです。

マンション管理費用の滞納は、通常不法行為にはならないケースが多数です。よって原則として、区分所有者がマンション管理費用を滞納した場合に規約による定めがなければ、かかった弁護士費用の請求はできないと考えましょう。

この点、滞納金について訴訟提起を余儀なくした行為が不法行為にあたるとして一部の弁護士費用を認めた裁判例もありますが、あくまで例外的なケースです(東京地裁平成4年3月16日)。管理費滞納の場合、基本的には不法行為にならないと考えるべきです。

なお区分所有者による迷惑行為が「不法行為」になる場合、10%程度の弁護士費用を請求できる可能性があります。

3.規約に定めがある場合は請求可能

一方、マンション管理規約に「管理費を滞納した場合や迷惑行為を行った場合にかかった弁護士費用は本人に請求できる」と規定していれば、マンション管理組合は法的措置をとったときの弁護士費用を区分所有者本人へ請求できます。

現在の標準管理規約では、区分所有者がマンション管理費用を滞納した場合や迷惑行為を行った場合において、かかった弁護士費用を区分所有者本人へ請求できると定められています(標準管理規約60条2項、67条2項)。

標準管理規約60条2項

組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することができる。

標準管理規約67条4項

前項の訴えを提起する場合、理事長は、請求の相手方に対し、違約金としての弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求することができる。

標準管理規約に上記のような規定がある場合、管理組合は管理費用の滞納者や迷惑な区分所有者に対し、規約を根拠に「違約金として」かかった弁護士費用を請求できます。

4.請求できる弁護士費用の金額について

マンション管理規約に弁護士費用についての規定があるとしても、いくらまでの費用を請求できるのかが問題となります。

すなわち裁判所が認める相当額となるのか、実費全額を請求できるのか、という問題です。裁判所が認める相当額となる場合、弁護士費用全額の請求はできません。

従前には裁判所の認める相当額とする裁判例(東京地裁平成19年7月31日など)と、実費相当額を認める裁判例(東京地裁平成18年5月17日など)に分かれていました。

ところがその後、東京高裁で「弁護士費用については実費相当額の支払いを認める」とする判決が出ました(東京高裁平成26年4月16日)。

これにより、今後マンション管理規約にもとづいて弁護士費用を請求する場合には、実費相当額が認められる可能性が高くなったといえるでしょう。

なおこの点を明確にして確実に弁護士費用全額を請求できるようにするには、規約の規定方法を以下のように工夫しておくことが望ましいといえます。

「マンション管理組合が負担する一切の弁護士費用を違約金として負担する」

はじめからマンション管理規約に上記のように規定しておけば、実費相当額(弁護士費用としてかかった全額)を請求できる可能性が高まるでしょう。

5.特定承継人への請求も可能

区分所有法では、マンション管理組合に対し、マンションの区分所有者からの特定承継人に対する請求権も認めています(区分所有法7条、8条)。

特定承継人とは、売買などの原因によって区分所有者から区分所有権を引き継いだ人です。たとえば区分所有者がマンション管理組合を滞納したままマンションを売却した場合、マンション管理組合は買受人に対しても滞納された管理費用を請求できます。

(特定承継人の責任)

区分所有法第8条 前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

マンション管理組合が区分所有者に対して弁護士費用の請求権を有する場合、弁護士費用は特定承継人にも引き継がれると考えられています。

たとえばマンション管理費用の滞納者が管理費用や弁護士費用を払う前にマンションを第三者に売却してしまったとき、管理組合は滞納された管理費用だけではなく弁護士費用も買受人へと請求できます。

6.規約改正前から滞納していたケース

マンション管理規約の改正が行われるタイミングにより、弁護士費用を区分所有者へ請求できるのかどうかが問題になるケースがあります。

つまりマンション管理規約において弁護士費用を請求できる旨の規定がもうけられたとき、「規約の改正前からマンション管理費用を滞納していた区分所有者」へも弁護士費用を請求できるのか、という問題です。

この点については、管理費用を滞納した時点が規約改正前であっても、弁護士費用が発生したのが規約改正後であれば遡及適用にあたらないと考えるべきとされています。

裁判例でも、規約改正前にマンション管理費を滞納した事例で区分所有者へ弁護士費用の負担を命じたものがあります(東京地裁平成19年2月23日など)。

管理費用の滞納時期が規約改正前であっても、弁護士費用が発生したのが規約改正後であれば弁護士費用を請求しましょう。もしも現在の規約において滞納区分所有者等へ弁護士費用を請求できる内容が含まれていなかったら、規約を改定してから法的手続きを行うと良いでしょう。

7.迷惑行為と弁護士費用

マンション管理組合が区分所有者へ法的措置をとるのは、管理費用を滞納された場合だけではありません。迷惑行為をされたときにも弁護士に依頼して訴訟や強制執行などを行うケースがあるものです。

管理費滞納だけではなく迷惑行為をされたときの法的措置にかかった弁護士費用についても、管理組合は区分所有者へ請求できるのでしょうか?

この点について、標準管理規約では区分所有者における弁護士費用の負担を認めています(標準管理規約67条4項)。よって、こういった規定をもうけていれば区分所有者が迷惑行為を行った際の弁護士費用も請求できると考えるべきです。

迷惑行為のうち一部が認容された場合

迷惑行為の場合、マンション管理費の滞納とは異なり明確に線引きをしにくい可能性があります。「どういった行為が迷惑行為にあたるのか」を個別に判断しなければならず、一義的には明らかにならないためです。

裁判を起こしても、迷惑行為のうち一部のみが認容される可能性があります。その場合でも、全額の弁護士費用が認められるのでしょうか?

この点については、かかった弁護士費用の全額ではなく裁判所の合理的な判断によって一部の弁護士費用が認められる可能性が高いと考えられます。

たとえば訴訟で区分所有者のAという迷惑行為とBという迷惑行為について責任追及が行われ、裁判所がAの行為のみ認容したとしましょう。かかった弁護士費用は100万円とします。この場合、弁護士費用は100万円全額ではなく50万円などの相当額とされる可能性が高くなります。

8.区分所有法にもとづく訴訟の場合

マンション管理組合が区分所有者へ法的措置をとるのは、管理規約違反のケースだけではありません。区分所有法やその他の法律にもとづき訴訟提起するケースも考えられます。

規約にもとづく請求でない場合でも、管理組合は区分所有者へ弁護士費用を請求できるのでしょうか?

この点について、標準管理規約には規定がありません。

ただ規約に法的措置をとった場合の弁護士費用の負担が認められている以上、当然にその他の法律に基づく請求の場合にも弁護士費用の請求を認めて良いとする考え方が妥当といえるでしょう。実際に、法律にもとづく請求の場合でも弁護士費用を認めた裁判例はあります(福岡地裁平成24年2月9日)。

マンション管理規約にもとづく請求以外の場合でも弁護士費用を請求できることを明示するため、標準管理規約の文言を足しておくとなお良いでしょう。

9.マンション管理規約の策定や改定はおまかせください

マンションの区分所有者が管理費用を滞納した場合や迷惑行為をした場合、かかった弁護士費用については全額を区分所有者へ請求できる可能性が高いといえます。ただしそのためには、マンション管理規約に弁護士費用についての定めを置いておかねばなりません。

標準管理規約にも定めがありますが、できれば「弁護士費用は全額を請求できること」や「マンション管理規約違反以外の法的請求の場合でも弁護士費用を請求できること」などについても書いておくと良いでしょう。

マンションを運営する際には、さまざまな法的知識が必要となります。ご自身たちだけで運営するより弁護士のアドバイスを聞きながら運営する方がリスクを抑えられて安心できるものです。

千葉県市川市の法律事務所羅針盤ではマンション管理の支援に力を入れて取り組んでいます。管理規約の策定や改定、迷惑な区分所有者への対応でお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

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