【契約書チェック実例】売買契約書のひな形そのままはリスクがあります

「契約書はネットで拾ったひな形を使っているから大丈夫」

「相手から送られてきた契約書だから、そのままハンコを押せばいい」

そう思っていませんか?

実は、世の中に出回っている契約書のひな形や、相手方から提示される契約書の中には、法的に意味が通らなかったり、最新の民法改正に対応していなかったりする「欠陥」が含まれていることが多々あります。

今回は、当事務所が実際にチェックを行った売買契約書(※固有名詞は加工済)を例に、「一見それっぽい条文」のどこに落とし穴があり、弁護士はどう修正するのか、その実例を文字起こしでご紹介します。

目次

今回のご依頼

今回は、取引先との契約にあたって先方が作成した契約書のレビューを依頼されました。

契約書リーガルチェック

実例1 その契約、いつ「成立」しますか?

契約書で最も重要なのは「いつ契約が成立するか(発注が確定するか)」です。ここが曖昧だと、商品を準備したのに「まだ発注してない」と言われたり、逆に在庫がないのに「発注したはずだ」と詰められたりします。

【実際の条文(原文ママ)】

第2条(発注・確定) 乙は甲に対して発注書を送付後、甲は発注確認書を乙に返送を行う。変更がある場合は24時間以内のみ受け付けることとする。(中略)24時間以内でも発注確認書に対し乙が甲に許可を出した場合は確定事項とする。

【弁護士の指摘コメント】

発注がいつ確定するのか不明瞭な規定となっています

文面を読む限り、「乙(発注者)が発注 → 甲(受注者)が確認書を返送」で確定するように見えますが、後半に「乙が許可を出した場合は確定」とあり、「じゃあ許可を出さなければ確定しないのか?」と読めてしまいます。 これでは、「発注確認書を出した段階」ではまだ契約は成立しておらず、いつまで経っても確定しない恐れがあります。

▼具体的なリスク

あなたが受注側(甲)の場合、「注文が来たから材料を仕入れたのに、相手から『最終許可は出してないからキャンセルで』と言われて在庫を抱える」というトラブルに直結します。

実例2 キャンセル料は「取る」のか「取らない」のか?

ビジネスにおいて「キャンセル規定」は金銭トラブルに直結します。しかし、この契約書では日本語の使い方が不正確で、解釈が割れるリスクがありました。

【実際の条文(原文ママ)】

第3条(キャンセル規定) 確定事項後のキャンセルはキャンセル不可もしくは全額乙が負担とする。

【弁護士の指摘コメント】

『もしくは』で繋げることができる内容ではありません

「キャンセル不可」(絶対に解約できない)のか、「全額負担」すればキャンセル可能なのか、矛盾しています。 結局のところ、キャンセルは一切認めないのか、それともお金さえ払えば認めるのか、はっきりさせる必要があります。

▼具体的なリスク

曖昧な言葉は、トラブルになった時に「自分に都合の良い解釈」に使われます。相手が強引にキャンセルしてきた際、「不可と書いてある!」と戦うには、この条文では根拠が不足します。

実例3 今は使われない用語(法改正への未対応)

法律は数年に一度、大きく変わります。特に2020年の民法改正は重要ですが、古いひな形を使い回している契約書は、ここがアップデートされていません。

【実際の条文(原文ママ)】

第8条(瑕疵担保責任) 乙が本件商品の引渡しを受けたときから賞味期限内に、引渡し時の検査において容易に発見できなかった瑕疵を発見したときは、(後略)

【弁護士の指摘コメント】

2020年4月の民法改正で『瑕疵(かし)』という用語は廃止されています。(使用不可ではありません)

現在は「契約不適合責任」という用語に変わっています。単なる言葉の違いではなく、責任の範囲や請求できる権利(修理、減額、解除など)の内容も変わっています。 改正民法に対応する観点から、条項全体を「契約不適合責任」として書き直すことを推奨します。

▼具体的なリスク

「瑕疵担保責任」という古い言葉が残っている契約書は、「昔の法律(現行法とは異なるルール)」で作られた古いひな形をコピペしている証拠です。場合によっては、他の条項でも、現在の法律では無効なルールが残っている可能性があります。

実例4 自分を守る「武器」が足りない(条項の欠落)

チェックで見つかるのは「間違い」だけではありません。「あるべきはずのものがない」という欠落も見つけます。

【弁護士の指摘コメント】

解除の一般条項がありません

相手が契約違反をした時に、こちらから契約を一方的に打ち切る(解除する)ためのルールが書かれていません。これがないと、相手が代金を支払わなくても、契約を終わらせるのが難しくなります。

いわゆる反社条項がありません

相手方が暴力団などの反社会的勢力であることが判明した場合に、即座に契約を解除できる条項がありません。コンプライアンスが重視される現代において、この条項の欠落は企業としての脇が甘いと言わざるを得ません。

具体的なリスク

契約書は「公平に仲良く取引するため」という役割ではなく、「トラブル時に自社を守るため」のものです。「解除条項」や「反社条項」は、まさにそのための武器と盾。

契約書チェックは、転ばぬ先の杖

いかがでしたでしょうか。

「契約書はテンプレで大丈夫」と考える方も多いかもしれませんが、その中にはトラブルの種が埋まっていることがあります。

相手が信頼できる取引先であったとしても、契約書が完璧とは限りません。

私たち羅針盤の契約書チェック(リーガルチェック)では、

  1. 論理的な矛盾はないか(トラブル時に解釈が割れないか)
  2. 最新の法律に適応しているか(古いひな形ではないか)
  3. 依頼者を守る条項が抜けていないか(リスク管理)

などの視点で、徹底的に条文を読み込み、修正案をご提示します。

「とりあえずサインする前」に、一度専門家の目線でのチェックを依頼してみてください。

この記事を書いた人

千葉県の市川市の法律事務所 羅針盤の弁護士。「お客様の根本問題を解決する」がモットー。複雑な法律の知識についてわかりやすく解説します。

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