「管理費の滞納が続いているが、話し合いに応じてもらえない」
このような場合、管理組合はどのような手順で回収を進めるべきなのでしょうか。
法的な回収手続きに「裏技」はありません。法律と管理規約に基づき、決められたステップを一つずつ確実に踏んでいくことが、滞納管理費回収の近道であり確実な方法です。
当事務所が実際に担当した案件(※プライバシー保護のため加工済)の資料を見ながら、その標準的なプロセスを解説します。
最後通告(内容証明郵便)
まず最初に行うのは、「内容証明郵便(配達証明付)」の送付です。これは単なるお手紙や請求書ではありません。
実際の通知書面


【内容証明の目的】
滞納管理費回収において内容証明の目的は、「裁判で勝つための証拠作り」です。 電話や普通の郵便では、いざ裁判になった時に「そんな請求書は見ていない」「届いていない」と主張される可能性が残ります。
内容証明郵便を使うと、郵便局が以下の事項を公的に証明してくれます。
- 「誰が誰に」送ったか
- 「いつ」送ったか
- 「どんな内容(請求金額・根拠)」が書かれていたか
- 「いつ相手が受け取ったか」(配達証明)
これが裁判において、「管理組合は然るべき手続きを踏んで、確実に請求を行いました」という決定的な証拠になります。 また、本件では規約に基づき「弁護士費用」も相手方に請求しており 、組合側の金銭的負担を減らす措置も講じています。具体的な金額は伏せておりますが、この時点で滞納金額は数十万円となっています。
弁護士費用の請求に関しては管理規約に記載があるかどうかで、請求できるかどうかが変わってきます。
まずは、自分たちの管理規約を、弁護士など専門家と一緒に確認しましょう。
判決(裁判所の命令)
通知を無視された場合、裁判所に訴えを起こします。この場合は、滞納の事実が明らかであったため、裁判所は管理組合の言い分を認める「判決」を出しました。
実際の判決文

訴訟の目的は、相手の財産を強制的に回収(差押え)するための「許可証」を得るためです。
日本では、たとえ相手が悪くても、自力で無理やり財布を取り上げたり、勝手に銀行から引き出したりすることは法律で禁じられています(自力救済の禁止)。
強制的に回収するには、裁判所が発行する「債務名義」が必要です。この判決文がその代表です。
特に重要なのが、赤線の「仮執行宣言(仮に執行することができる)」 です。これは、「裁判が完全に確定するのを待たずに(相手が控訴できる期間中であっても)、すぐに差押えの手続きに入って良い」という許可です。
これにより、迅速な回収が可能になります。
差押命令(強制執行の準備)
判決が出ても相手がお金を振り込まない場合、いよいよ「強制執行(差押)」 に移ります。今回は、相手が銀行に持っている「預金」が差押の対象になりました。
実際の差押命令書

この差押命令書は、滞納者だけでなく、銀行(第三債務者)にも送られます。
裁判所からこれを受け取った銀行は、その瞬間から口座を凍結します。
具体的には、「その口座にある預金を、本人に払い戻してはいけない」という命令です 。
これにより、滞納者が慌てて銀行窓口に行ってもお金を引き出せなくなります。
この時点で、預金は事実上、管理組合のために確保された状態となります。
差押債権目録(回収の網)
「口座を差し押さえる」場合、「どの預金を、どういう順番で回収するか」を細かく指定する必要があります。
実際の目録(リスト)

差押債権目録は、回収漏れを防ぐための優先順位リストです。 単に「預金」と書くだけでは不十分です。もし「普通預金」しか指定していなければ、相手が「定期預金」にお金を持っていた場合に回収できません。
そのため、資料のように、 「まずは定期預金から回収する 」 「足りなければ、次は普通預金から 」 「それでも足りなければ貯蓄預金から 」 というように、あらゆる種類の口座に網をかける記載を行います。これにより、取りはぐれのリスクを極限まで減らします。
管理組合の手間はどのくらいかかる?
弁護士ご相談〜回収完了までの標準スケジュール
滞納回収を弁護士にご依頼いただいた場合、解決(回収完了)までの期間についてもよくご質問を受けます。
状況によって実際にかかる期間は様々ですが、内容証明を送付後、滞納者と連絡が取れ交渉で解決できた場合は、3〜4ヶ月程度で回収が完了します。
滞納者に支払いの意思が見られず、裁判・差押えが必要になった場合は、半年〜1年程度の期間が必要な場合もあります。
どうしても、法的手続きはある程度時間がかかりますが、その間、理事の皆様に動いていただく場面は実はほとんどありません。
滞納管理費回収のまでの全体の流れと理事会の負担(典型的なケース)
| ステップ | 期間の目安 |
| ① ご相談・着手 | 1〜2週間 |
| ② 内容証明の送付 | 2週間 |
| ③ 裁判(訴訟提起) | 3〜6ヶ月 |
| ④ 差押え(強制執行)・回収 | 2〜3ヶ月 |
各ステップの詳細解説
1. ご相談・着手
最初の面談で、今後の進め方を決めます。
弁護士の動き
資料を精査し、「規約に基づいて弁護士費用も請求できるか」「遅延損害金はいくらか」を計算します。
理事会(依頼者)の手間
「管理規約」「総会議事録」「滞納者の支払い状況がわかる台帳」などの資料集めがメインです。弁護士への委任を決めた場合は、理事会の決議を取っていただきます。
2. 【通知】内容証明を送る(〜1ヶ月)
弁護士名で「内容証明郵便」を送ります。
弁護士の動き
相手にある程度プレッシャーを与える文面を作成し、郵便局から内容証明郵便を発送します。
理事会(依頼者)の手間
作成された文面(金額など)に間違いがないか、ご確認いただきます。
※この段階で相手が支払いの意思を見せたり、交渉に応じた場合、解決となります。
3. 【裁判】判決を取る(4〜8ヶ月)
通知に応じない場合、訴訟を起こします。
弁護士の動き
訴状の作成、裁判所への出頭、証拠の提出など、すべての法廷活動を行います。
理事会(依頼者)の手間
基本的にありません。 裁判は平日の日中に行われますが、弁護士が代理人としてすべて対応するため、理事の方が直接対応することはありません。
4. 【執行】口座から回収する(2〜4ヶ月)
判決が出ても支払いが行われない場合、銀行口座など相手の資産を差し押さえにむけ動きます。
弁護士の動き
裁判所に「差押命令」を申立て、銀行とやり取りをして、凍結された預金を回収(取立)します。
理事会(依頼者)の手間
もし「あそこの銀行を使っているらしい」という情報があれば教えてください。特になければ、弁護士が調査または一般的な銀行を対象に手続きを進めます。
まとめ
このように、滞納回収の手続きは、書類や法令に基づいて進んでいきます。
- 規約に基づいて正しく請求する(内容証明)
- 裁判所で権利を確定させる(判決)
- 銀行口座等の財産を確保する(差押え)
この手順を確実に行うことが、マンションの住民や管理組合の資産を守ることにつながります。
マンションの管理費滞納でお困りのことがありましたら、早めに弁護士などの専門家に相談をしてください。

