共同住宅であるマンションでは、ライフスタイルの違いから、住民同士のトラブルが起こることは残念ながら避けられません。
役員の皆様には、こうしたデリケートな問題に対し、どちらか一方の味方をするのではなく、マンション全体の「ルール」に基づいて、中立的かつ公平に対応する役割が求められます。
このページでは、「騒音」「ペット」「駐車場」といった、よくある住民間トラブルへの具体的な対応方法をQ&A形式で解説します。
マンション居住者トラブル対応の基本姿勢
Q. 住民からクレームが来たら、まず何をすべきですか?
A. 最も重要なのは、冷静に、中立的な立場で話を聞くことです。その場で安易に「対応します」「相手に注意します」と約束せず、まずは以下のステップを踏んでください。
- 話を傾聴し、記録する
クレームの内容(いつ、どこで、誰が、何をしたか)を具体的に、感情的にならずに聞き取り、記録します。可能であれば、書面で苦情を提出してもらうのが望ましいです。 - 管理規約・使用細則を確認する
申し立てのあった行為が、マンションのどのルールに違反する可能性があるのかを確認します。管理組合が介入できるのは、あくまで「ルール違反」に対してです。 - 理事会で共有し、対応を協議する
決して一人で判断せず、理事会で情報を共有し、管理組合としての方針を決定します。
個人的な不満や感情的な対立に深入りせず、「ルール」という客観的な基準に沿って対応することが、役員の皆様自身を守ることにも繋がります。
Q. どんな些細な苦情でも、管理組合が介入すべきですか?
A. いいえ、そうとは限りません。「お互い様」で解決できるレベルの問題もあります。 例えば、「一時的な来客の話し声が気になった」といった単発的な出来事については、まずは当事者同士での穏やかなコミュニケーションで解決できないか、様子を見ることも一つの方法です。
管理組合が本格的に介入を検討すべきなのは、
- 明確なルール違反がある場合
- 迷惑行為が繰り返し行われ、常態化している場合
- 複数の住民から同様の苦情が寄せられている場合 など、共同生活の秩序を乱す可能性が高いケースです。
ケース別住民間トラブルへの対応
Q. 「上の階の足音がうるさい」という騒音の苦情が来ました。どう対応すればよいですか?
A. 騒音は最も多く、かつ解決が難しい問題です。以下の段階的な対応が基本となります。
- 全戸への注意喚起
個人を特定せず、「生活音への配慮のお願い」といったお知らせを掲示板やエレベーターに貼り出します。多くの場合、無自覚な騒音はこの段階で改善されます。 - 事実確認と書面での通知
改善されない場合、苦情を申し立てた方に、騒音の日時や内容を記録してもらいます(騒音日記)。ある程度の記録が集まったら、相手方のポストに「〇月〇日頃、お部屋からの音に関するご連絡がございました。共同生活へのご配慮をお願いいたします」といった、あくまで中立的な文面の書面を投函します。 - 是正勧告
それでも改善が見られない悪質なケースでは、理事会の決議に基づき、理事長名で具体的な改善を求める「勧告書」を送付します。この段階では、管理規約のどの条項に違反するのかを明記する必要があります。
Q. ペットの鳴き声や糞尿の不始末に関する苦情はどうすれば?
A. まずはマンションの「ペット飼育細則」が対応の基準となります。
糞尿の不始末など、ルール違反が明らかな場合は、目撃情報などを基に該当者に直接注意を促します。 鳴き声については、騒音問題と同様に、まずは全戸向けの注意喚起から始め、改善されない場合は個別に通知を行います。その際、「しつけ教室に通う」「防音対策を施す」といった具体的な改善策を提案することも有効です。 度重なる違反に対しては、細則に基づき、罰金の適用や、最悪の場合は飼育禁止を求める法的措置も視野に入ってきます。
Q. 無断で共用廊下に私物を置いている人がいます。
A. 廊下や階段、バルコニーの隔て板の周りなどは、火災や地震の際の避難経路となるため、私物を置くことは多くのマンションで禁止されています。これは「個人のマナー」の問題ではなく、「全員の安全」に関わる重要なルールです。
まずは、消防法などにも触れる危険な行為であることを、掲示物で全体に周知します。それでも改善されない場合は、個別に是正を求める通知書を投函し、期限を区切って撤去を求めます。期限内に撤去されない場合は、管理組合で処分する可能性があることも警告します。(※実際に処分する際は、法的な手続きが必要になる場合があります)
弁護士など専門家への相談の目安
Q. 警告してもルール違反が改善されません。次の手はありますか?
A. 理事会からの度重なる勧告にも従わず、迷惑行為が続く場合は、管理組合として法的措置を検討する段階に入ります。具体的には、迷惑行為の差し止めを求める調停や訴訟などが考えられます。 このような手続きは、法律の専門知識が不可欠です。
Q. 弁護士への相談は、どのような場合に検討すればよいですか?
A. 役員の皆様だけで解決が難しいと感じたら、専門家の助言を求めるのが賢明です。特に、以下のような状況では、弁護士への相談を理事会で検討することをお勧めします。
- 理事会として「勧告書」や「警告書」といった強い内容の文書を作成・送付する時点
- 相手方が威圧的で、直接の話し合いが困難な場合
- 迷惑行為によって、他の居住者の健康や安全が脅かされる恐れがある場合
- 調停や訴訟などの法的手続きを具体的に検討し始めた時点
弁護士は、法的に正しい手順をアドバイスし、理事会の代理人として相手方と交渉することも可能です。
専門家を交えることで、問題が感情的にこじれるのを防ぎ、公平かつ迅速な解決が期待できます。