法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。
2024年4月からは相続登記が義務化されます。義務化された後に相続登記をせずに放置していると、「過料」という金銭的な制裁を課される可能性もあります。くれぐれもそういったことのないように十分注意しましょう。
この記事では相続登記の義務化の制度内容や今からしておくべき対策方法をお伝えします。
土地や建物を相続した方や今後相続する予定の方はぜひ参考にしてみてください。
1.相続登記の義務化とは
相続登記の義務化とは、不動産を相続した場合の「相続登記」が法的な義務になることです。
相続登記とは、不動産の名義変更を意味します。不動産の所有者が亡くなっても自然に名義が変わるわけではありません。相続人や受遺者が自分で名義変更しなければならないのです。その手続きが相続登記です。相続登記は、相続人や受遺者が法務局へ申請して行います。
相続登記は2022年現在において、法的な義務ではありません。放置しておいても罰則はありませんし、行政機関などによって勝手に相続登記されるわけでもありません。
しかしその制度のままではさまざまな支障が生じるので法改正が行われ、2024年4月からは相続登記が法的な義務になるのです。これを「相続登記の義務化」といっています。
2.相続登記が義務化された背景
すでに相続登記は義務化されることが決まっています。
なぜ相続登記が義務化されるのか、社会的な背景をみてみましょう。
2-1.所有者不明な不動産が増えて納税されない
1つは自治体への固定資産税の納税の問題です。
土地や建物などの不動産を所有していると、毎年固定資産税がかかってきます。所有者は自治体へ固定資産税を納付しなければなりません。
しかし相続登記されずに長機関放置されると、土地や建物の所有者がわからなくなってしまいます。自治体としても誰に固定資産税の納付書を送れば良いのか判断できません。
その結果、固定資産税がきちんと払われなくなり、自治体の税収が圧迫されるリスクが発生します。
自治体が適切に税金を徴収するには相続登記を義務化して「現在の所有者」を明らかにする必要があります。
2-2.復興工事や開発が難しくなる
地震や津波などの災害が起こったら、その後に復興工事などをしなければなりません。
それ以外のケースでも都市の再開発を行ったり道路を敷いたりするケースがよくあります。
こういった措置をとるには、対象地域の土地などを収容する必要があるので、行政は土地や建物の所有者へコンタクトをとる必要があります。
ところが相続登記されずに不動産が放置されている場合、行政としても誰に声をかければ良いのか判断できません。
結果的に復興工事や再開発、必要な道路の敷設などができなくなるリスクが発生します。
こうした行政の必要な措置を円滑に行うために相続登記の義務化の必要性が重視されるようになりました。
2-3.相続が繰り返されて混乱が生じる
相続登記されないと、不動産は以前の所有者(亡くなった人)の名義のままになってしまいます。そのままさらに次の相続が起こると、不動産の所有者(共有持分権者)がどんどん細分化されて、誰が所有者か把握するのがより困難となっていきます。
結果的に所有者不明の土地が増えて活用もされずに放置されうのです。
実際に何代もの相続登記をまとめて行うのは困難なので、誰も相続登記しようとせずに放置されるケースが珍しくありません。このように、相続が繰り返されて権利関係に混乱が生じることも相続登記しないデメリットといえるでしょう。
複数世代にもわたって相続登記が無視される事態を防止するため、相続登記が義務化される必要性があると考えられました。
2-4.危険な建物が放置される
建物の名義変更をしないで放置されると、建物が老朽化したり傷んだりして周囲に危害を及ぼす可能性があります。
ときには壁や屋根が崩落する可能性がありますし、犯罪者のアジトに利用されたり害虫害獣が住みついたりもするケースがみられます。周辺環境を大きく悪化させてしまうリスクが発生するのです。
きちんと所有者を明らかにして不動産を適正な方法で管理させるためにも、相続登記を義務化する必要性がありました。
以上のようなさまざまな事情により、法改正が行われて相続登記の義務化がすでに決定しています。
3.相続登記義務化の具体的な内容
相続登記が義務化されると、具体的にどういったルールが適用されるのでしょうか?
以下で相続登記義務化制度の内容やペナルティをみてみましょう。
3-1.相続登記義務化の内容
相続登記が義務化されると、新所有者は以下の時期までに名義変更の登記をしなければなりません。
- 相続開始と不動産の所有者となったことを知ってから3年間
すなわち以下の2つの事情を知ると、3年以内に相続登記しなければならないのです。
- 被相続人が死亡した(相続開始)
- 相続や遺贈によって自分が不動産の所有者となった
たとえば遺産分割協議によって不動産を取得した場合、遺産分割協議が終わったときから3年以内に相続登記しなければなりません。
なお相続人が複数いる場合、もっとも遅くに相続の開始があったことや所有者となったことを知った相続人が、これらの事実を認知してから3年間を計算します。
また「被相続人が不動産を所有していたこと」を知らない期間は、3年のカウントに含みません。
相続人にも受遺者にも義務がある
相続登記の義務化規定は、相続人だけではなく受遺者にも適用されます。すなわち法定相続人として遺産を相続した場合などだけではなく、遺言書によって不動産を相続した場合にも相続登記しなければなりません。
3-2.相続登記しない場合のペナルティ
もしも期限までに相続登記しなかったらどういったペナルティがあるのでしょうか?
この場合、10万円以下の過料の制裁が加えられる可能性があります。
過料の制裁が加えられる可能性があるのは、「正当な理由なしに」相続開始と自分が所有者になったことを知ってから3年以内に相続登記しない場合です。
過料とは行政罰の一種で、お金を払わねばならないペナルティをいいます。罰金とは異なり前科はつきませんが、お金を払わねばなりません。不利益を受けるので、そういった事態は避けるべきといえるでしょう。
氏名や住所が変わった場合の変更登記の期限
相続登記だけの問題ではありませんが、不動産の登記に表記されている氏名や住所が変わった場合にも不動産登記が義務化されます。
この場合、2年以内に変更登記をしなければ5万円以下の罰金が課される可能性があるので、放置しないように注意しましょう。
3-3.相続登記が義務化される時期
相続登記の義務化規定が施行されるのは2024年4月からです。その後に3年以上相続登記しないで放置していたら過料の制裁を受けるリスクがあるので、早めに登記しましょう。
4.2024年4月以前に起こった相続の場合
2024年4月以降は「相続開始と自分が所有者になったことを知ってから3年以内」に相続登記しなければなりません。
では2024年4月より前に相続した人にも義務化規定が適用されるのでしょうか?
結論的に、2024年3月31日までに不動産を相続した人にも相続登記の義務化規定は適用されます。改正法の施行日前に相続した人は、以下の「いずれか遅い方の時期」までに相続登記しなければなりません。
- 相続開始と不動産の所有者となったことを知ってから3年以内
- 改正法の施行日から3年以内
多くの方が、相続開始や相続人となったことを知った後で施行日を迎えるでしょうから、ほとんどのケースでは「2024年4月1日から3年後」である「2027年4月1日」が期限となるでしょう。
いずれにせよ、法改正前の相続人や受遺者にも相続登記の義務化規定が適用されることには十分注意が必要です。放置していると、過料の制裁を加えられる可能性があるので、そういったことのないよう早めに対処しましょう。
5.相続人申告登記制度とは
相続登記の義務化規定と同時に開始する制度として「相続人申告登記制度」があります。
相続人申告登記制度とは、定められた期間内に相続登記できない場合などに、簡単な事項を登記官へ申告することによって登記簿に記載してもらうものです。相続人申告登記制度を利用しておけば、過料の制裁を加えられることはありません。
申告すべき内容
相続人申告登記制度で登記官へ申告しなければならないのは「所有名義人に相続が発生したこと」と「相続人が判明していること」の2点です。
遺産分割協議が難航して相続人が決まらない場合などには、とりあえず相続人申告登記制度を利用して相続情報を登記に付記してもらっておきましょう。
ただし相続人申告登記制度は、正式な登記ではありません。その後に遺産分割協議が成立したら、早めに相続登記をすべきです。
6.相続した土地を国庫に帰属させられる制度とは
相続登記の義務化規定に先行して「相続土地国庫帰属制度」も開始されます。
これは、相続した土地が不要な場合に国のものにするための手続きです。
適用できれば相続放棄しなくても、不要な土地のみ国に返せます。
6-1.相続土地国庫帰属制度の注意点
相続土地国庫帰属制度を適用できれば相続登記義務も課されないので、登記しなくてもペナルティはありません。
しかしどのような土地でも無条件に国へ返せるわけではないので注意が必要です。
審査の結果、土地の国庫帰属が認められない可能性があります。
また審査には手数料もかかりますし、10年分の管理コスト分を負担金として納める必要もあり、負担が0になるわけではありません。
相続土地国庫帰属制度を利用する場合「土地を国に引き取ってもらえるのか」「費用の概算」などについて事前に検討しておく必要があるでしょう。
建物は放棄できない
相続土地国庫帰属制度で所有権を放棄できるのは土地だけです。
一方相続登記の義務化については土地だけではなく建物にも適用されます。
どうしても建物を相続したくない場合、通常の「相続放棄」をする必要があるでしょう。
相続地国庫帰属制度は相続登記の義務化規定に先行し、2023年4月27日から開始される見込みです。
7.相続登記が義務化された場合の注意点
相続登記が義務化された場合、以下のような点に注意すべきです。
7-1.2024年3月31日までの相続にも適用される
相続登記の義務化規定が施行されるのは2024年4月1日からですが、それ以前に相続した人にも適用されます。
義務化規定が施行される前に相続したからといって、無関係と考えてはなりません。
土地や建物を相続したにも関わらずまだ相続登記していないなら、なるべく早めに相続登記を申請しましょう。
7-2.相続登記しないと過料以外のリスクも大きい
相続登記をしない場合、過料以外にもさまざまなデメリットやリスクがあります。
- 土地や建物を活用できない
- 不動産の売却ができない
- 抵当権の設定もできない
- 固定資産税が毎年発生する
- さらに相続が起こると所有者が細分化されて混乱する
こうしたリスクは相続登記の義務化以前にも発生するものです。土地や建物を相続したら、義務化規定が適用される前にも早めに登記すべきといえるでしょう。
8.今からできる相続登記義務化への備え
相続登記義務化へ向けて、今どのような対策をとれば良いのでしょうか?今からできる備えの方法をお伝えします。
すでに相続している物件がある場合には、一刻も早く相続登記を行うことです。登記してしまえば2024年4月1日以降にペナルティを適用される心配はありません。自分で登記するのが難しい場合には、司法書士に依頼しましょう。
将来に相続を控えている方の場合、相続登記の方法などを調べておくと役立ちます。相続登記に必要な書類や費用を把握していたら、いざというときにスムーズに相続登記ができるでしょう。
自分が相続人になるかどうかわからない場合、相続関係を調べて「将来相続登記する必要がありそうか」を確認しておくと安心です。
千葉県市川市の法律事務所羅針盤では相続対策に力を入れています。提携している司法書士もいますので、登記についても対応可能です。遺産相続について不明な点がありましたら、お気軽にご相談ください。