遺言執行者とは?指定するメリットや選任方法、権限を弁護士が解説

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。

遺言書を作成するなら「遺言執行者」を指定するようおすすめします。

遺言執行者がいると遺言内容がスムーズに実現されやすくなり、相続人にかかる負担も小さくなるためです。

ただ「遺言執行者」といわれても、具体的にどういった業務を行うのか、選任方法や選任するメリットがわからない方も多いでしょう。

今回は遺言執行者とは何か、指定するメリットや選任方法、権限などの知識を弁護士が解説します。

これから遺言書を作成する方は是非参考にしてみてください。

目次

1.    遺言執行者とは

遺言執行者とは遺言書で指定された内容を実現する権限を持ち、義務を負う人です。

遺言書を作成する際に遺言執行者を選任しておくと、相続開始後に遺言執行者が各種の相続手続きや遺贈などを行うので、相続人が自分たちで不動産の登記や預貯金の払い戻しなどを行う必要がありません。

遺言執行者がいると、スムーズに遺言書に記載した内容が実現されやすいので、ぜひとも選任しておきましょう。

2.遺言執行者の権限

遺言執行者の立場や権限、義務については、民法により以下のように定められています。

(遺言執行者の権利義務)
第1012条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

遺言執行者は相続人の代理人としてではなく、独立した立場から遺言内容の実現に必要なすべての行為を行う権限が与えられます。

たとえば以下のようなことができます。

  • 相続財産の管理
  • 不動産の相続登記申請
  • 預貯金の払い戻し
  • 車の名義変更
  • 株式の名義変更
  • 相続財産の寄付
  • 子どもの認知
  • 相続人の廃除や取消の申し立て
  • 保険金受取人の変更
  • 遺言執行者がいる場合、遺贈は遺言執行者にしかできない(相続人にはできません)

2-1.法改正による影響

遺言執行者の立場について、改正前の民法では「相続人の代理人」と定められていました。

ただ遺言執行者はすべての相続人に有利な行為をするわけではありません。

自分に不利な遺言執行を行われる相続人から「代理人ならなぜ不利益なことをするのか」と責められるトラブルが発生していたのです。

そこで改正民法では、遺言執行者に独立した立場から遺言執行を行う権限が認められるよう変更されました。

また相続人は遺言執行者の業務を妨害してはなりません(民法1013条)。妨害行為は基本的に無効になります。

2-2.遺言執行者にしか認められない権限

遺言執行者にしかできない事項もあります。

  • 子どもの認知
  • 相続人の廃除や取消
  • 遺言執行者が選任されていると遺贈は遺言執行者にしかできない

遺言で子どもの認知をしたい方もよくおられますが、遺言執行者が必要です。

遺言執行者にしかできない事項を盛り込む場合、遺言書で適当な人を指定しておきましょう。

3.遺言執行者の義務

遺言執行者には義務もあります。

選任されるとどういった業務を行わねばならないのか、相続開始後の流れをみていきましょう。

  • 相続開始
  • 遺言執行者を引き受けるかどうかの回答
  • 承諾をした場合には相続人全員に通知
  • 戸籍謄本などの証明書を集めて相続人調査
  • 相続財産の調査
  • 相続や遺贈の手続き

・法務局へ登記申請手続き

・金融機関で預金の解約と払い戻し

・株式の名義変更

・相続財産の現金化

  • 相続人全員へ遺言執行を完了した旨報告

遺言執行者に選任されたら上記のような業務を行わねばなりません。

相続人などの素人の方を選ぶと、負担が重くなってしまう可能性があります。

4.遺言執行者を選任するメリット

遺言執行者を選任すると、以下のようなメリットを得られます。

4-1.遺言内容が実現されやすくなる

せっかく遺言書を作成しても、実現されなければ意味がありません。相続人が指示内容に対応しなければ放置されてしまうリスクも発生します。

遺言執行者を指定しておくと、相続開始後に速やかに遺言執行者が相続人や相続財産を調査して遺言内容を実行していくので、希望とおりに遺言内容が実現されやすくなるのがメリットです。

4-2.トラブルを避けやすくなる

遺言書を遺すと、一部の相続人が不満を懐いてトラブルにつながってしまうケースもみられます。

遺言執行者を指定しておくと、遺言執行者が率先して遺言内容を実現していくので相続人としても「遺言が無効」などと言い出しにくくなる効果を期待できます。

特に弁護士などの専門職を遺言執行者に指定すれば、相続人も納得しやすくなるでしょう。

遺言執行者を選任すると、相続トラブルを防止しやすくなるメリットもあります。

4-3.相続人へ負担がかからない

遺言執行者がいない場合、基本的には相続人が自分たちで遺言内容に従った相続手続きを行わねばなりません。

負担が大きくなってしまい、スムーズに進まないケースもよくあります。

遺言執行者を指定すれば遺言執行者が単独で相続や遺贈の手続きを行えるので、相続人や受遺者に負担がかかりません。

子どもたちなどの相続人へなるべく迷惑をかけたくない方はぜひ、遺言執行者を選任しておきましょう。

4-4.遺言執行者にしかできないことを実現できる

遺言書で指定できる事項の中には遺言執行者にしかできないことがあります。

たとえば子どもの認知や相続人の廃除、取消などです。

  • 子どもの認知…父親が婚外子を自分の子どもと認める手続き
  • 相続人の廃除…非行のある相続人から遺産相続権を奪う手続き

上記のような事項を遺言書で指定したいなら、必ず遺言執行者が必要となります。

遺言者が指定していなければ相続人が家庭裁判所へ申立をして遺言執行者を選任しなければなりません。相続人に負担をかけるだけではなく、場合によっては放置されるリスクも懸念されるでしょう。

遺言執行者を指定しておけば遺言執行者にしかできないこともスムーズに実現できるメリットがあります。

5.遺言執行者を選任する方法

遺言執行者を選任する方法は、民法によって以下の3つが定められています。

5-1.遺言書で特定の人を指定する

遺言者が遺言書において特定の人を直接遺言執行者として、指定する方法です。

5-2.遺言書で「遺言執行者を指定する人」を指定する

遺言書作成時には誰が遺言執行者として適切か決めにくい場合、遺言書で「遺言執行者を指定すべき人」を定めることも可能です。

たとえば相続が遠い将来で現時点では誰が適任か判断しにくい場合などに利用するとよいでしょう。

5-3.家庭裁判所で選任してもらう

遺言執行者が必要であるにもかかわらず遺言書で遺言執行者や選任すべき人が定められていない場合、相続人や利害関係人は家庭裁判所で遺言執行者の選任申立ができます。

その場合、家庭裁判所が遺言執行者として適当な人を選任します。

6.遺言執行者になれる人は?

遺言執行者は以下に該当しない人から選任できます。

  • 未成年者
  • 被後見人
  • 破産者

たとえば相続人や受遺者の中から遺言執行者を選んでもかまいませんし、相続人以外の親族から選んでもかまいません。

相続人から遺言執行者を選ぶデメリット

相続人や受遺者から選ぶと、さまざまなデメリットがあるので注意しましょう。

まず、他の相続人が不満を抱いてトラブルになってしまう可能性があります。せっかく遺言執行者を選任しても遺言内容が実現されにくくなってしまうでしょう。

また遺言執行者に就任すると、さまざまな義務を果たさねばなりません。法律知識のない素人の方には荷が重い作業です。相続人を指定すると、その相続人に過大な負担がかかってしまうでしょう。

さらに遺言執行者と指定されても、承諾すべき義務はありません。断られる可能性もあります。相続人に告げずに遺言執行者として指定すると、死後に遺言執行者としての義務を果たしてもらえないリスクも発生します。

上記のような問題があるので、相続人から遺言執行者を選任するのはあまりおすすめできません。

7.弁護士を遺言執行者として選任するメリット

遺言執行者を選ぶなら、専門知識をもった弁護士から選ぶのが得策です。以下では弁護士を遺言執行者として選任するメリットをお伝えします。

7-1.就任を拒否されるリスクがない

相続人を遺言執行者として指定しても、死後に就任を拒否される可能性があります。

そうなれば、遺言執行者がいない状態になり、子どもの認知などを行うためには相続人らが家庭裁判所へ申し立てて遺言執行者を選任しなければなりません。

一方で、弁護士に依頼しておけば拒否されるリスクはほぼありません。

確実に遺言執行者になってもらえるメリットがあります。

7-2.スムーズに遺言内容を実現できる

遺言執行の際には不動産の相続登記や株式の名義変更、車の名義変更などやらなければならないことが多数あります。日常的な業務ではないので、素人の方が遺言執行しようとしても戸惑ってしまうでしょう。

弁護士であれば専門的な手続きに慣れているので、スムーズに相続手続きに対応できます。

7-3.相続人に負担をかけずに済む

遺言執行者を定めなかった場合には、基本的に相続人が相続手続きや遺贈、寄付などの行為を行わねばなりません。日頃忙しくしている相続人に負担をかけたくない方も多いでしょう。

弁護士を選任しておくと、相続人らは自分たちで相続手続きを進める必要がありません。子どもたちや配偶者などへ負担をかけずに済むメリットもあります。

7-3.相続人が納得しやすい

相続人の中から遺言執行者が選ばれると、どうしても他の相続人が疑念や不満を懐いてトラブルにつながりやすくなるものです。

そもそも遺言執行者とはなにか、知らない方も多いでしょう。

弁護士であれば法律の専門家としての立場から遺言執行者の意味や権利義務の内容など、わかりやすく伝えられます。相続人としても疑心暗鬼にならずに納得しやすくなるメリットがあります。

8.千葉県の遺産相続は法律事務所羅針盤へご相談ください

千葉県市川市の法律事務所羅針盤では遺産相続、遺言書作成のサポートに力を入れて取り組んでおり、遺言執行者への就任も承ります。遺言執行者の選任申立のお手伝いも対応可能ですし、その際に弁護士が遺言執行者の候補となることもできます。

これから遺言書を作成する方だけではなく、すでに遺言書を作成済みの場合でも遺言執行者を選任できます。

関心のある方がおられましたら、お気軽にご相談ください。

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