法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。
今回は、顧問契約のメリットや顧問弁護士の上手な活用方法について、解説していきます。
1 顧問弁護士とは?
弁護士との契約方法には、定額の月額顧問料をお支払いいただくことで、随時、法律相談、契約書チェック等のリーガルサービスの提供を受けることが可能となる顧問契約というサービスがあります。
この顧問契約を締結している弁護士を、「当社の顧問弁護士」などと呼ぶことがあります。
2 顧問契約のメリット
顧問弁護士がいることのメリットは数多くありますが、ここでは代表的な5つのメリットを説明します。
メリットその1 電話、メール等で随時迅速な相談が可能となる
顧問弁護士への相談は、事前の予約なしに、電話、メール等で随時相談することができます。
そのため、機動性を要することが多い企業法務の相談についても、随時迅速な対応を行うことが可能となります。
これに対し、通常の法律相談の場合は、まず予約を取らなければ法律相談を行うことはできません。弁護士のスケジュール次第では、相談できるのが1週間先となることも珍しくなく、機動的な相談は難しい場合があります。また、電話やメールでの相談には対応していない弁護士が多いため、相談のために法律事務所に行く日程を調整しなければなりません。
メリットその2 リスク管理に強くなる
会社や各種団体のリスク管理の基本は文書管理です。
対外的には契約書の作成管理が、対内的には就業規則を始めとする各種規程の整備が、それぞれリスク管理の中心となります。
中小企業の場合には、そもそも契約書を作成したこともなく、社内規則が1つもない、という会社も珍しくないのが実情です。
しかし、このような会社は法的リスクに極めて脆弱で、いざリスクが顕在化した場合には、あっという間に事業の継続すら難しくなってしまうこともあります。
顧問弁護士がいる場合は、専門家の目線で文書管理について必要な助言やサポートを行いますので、会社ごとに無理のない文書管理の体制を整えることができ、リスク管理に強い組織を作ることができます。
メリット3 クレーム対応に強くなる
顧客相手の商売、取引をしているとクレーム対応は不可避的に生じる業務です。
クレーム対応は自社の製品、サービスを見つめなおす有益な機会という側面もありますが、なかには悪質なクレームもあり、できるだけ避けたい業務だ、というのが現実なのではないでしょうか。
顧問弁護士がいる場合、悪質と思われるクレームに対しては、まず「当社の顧問弁護士にも相談の上、対応させていただきます」と堂々と回答することができます。悪意を持ったクレーマーの場合は、これだけで引き下がってもらえるケースあります。
また、クレーム内容について、顧問弁護士に相談することにより、理由のあるクレームと毅然した対応をすべきクレームを適切に切り分けて、対応を行うことも可能です。
さらに、特に注意をもって対応すべき案件については、顧問弁護士が代理人となって、直接相手方と交渉を行うことも可能となります。
メリット4 トラブルに強くなる
顧問弁護士がいることによって、各種トラブルの対応にも強い組織を作ることができます。
例えば、取引先の売掛金滞納が発生した場合でも、顧問弁護士名義で迅速に督促を行うことによって、早期解決を図ることも可能となります。
また取引先の倒産トラブルがあった場合などにも、迅速に相談、対応を行うこともできます。
メリット5 事業上必要な法律改正情報に強くなる
普段はそれほど意識しないことかもしれませんが、事業を行う上では各種法律改正情報への留意が必要となります。
例えば、2020年4月の民法改正では、いわゆる根保証について、極度額(保証人が負う責任の限度額)の定めが必要とされました。
少し聞くだけではこの改正の重要性は分かりにくいかもしれませんが、いわゆる取引基本契約書や不動産賃貸借契約書に保証人規定がある場合、これは通常根保証に該当するため、具体的な責任限度額を記載しないと保証人に関する規定が無効となってしまうというものです。
従来の取引基本契約書の書式には、保証人の極度額の定めなどない方が通常ですので、改正法に何も対応しないと大部分の保証人規定が無効となり、与信管理に大きな影響が生じてしまいかねません。
このような法改正情報について、顧問弁護士がいる場合は、顧問先ごとに必要な情報を適宜アナウンスしてもらうことができるため、重要な法改正への対応漏れを避けることが可能となります。
3 顧問弁護士の上手な利用方法は?
(1)気になったらすぐ相談
顧問先によっては、「このレベルの問題を弁護士に相談して良いものか」ということを慎重に検討し、吟味に吟味を重ねた上で、ようやく相談することを決断する、というケースがあるようです。
社内に法務部があったり、十分な法的素養のある担当者がいたりするなど、社内体制が整備されている場合はそれでも良いのですが、実際には心理的なハードルで相談をただ先延ばししてしまっているだけのケースの方が多いでしょう。
およそ法的トラブルは早期対応をすればするほど、容易安価に解決しやすいものです。
せっかく顧問弁護士がいるのですから、気になったら脊髄反射で直ちに弁護士に相談してしまって構わないのです。
日頃から鍛えられてきた経営者の直観で何か問題がありそうと感じたのであれば、それは十分顧問弁護士に相談すべき理由になります。
どんどん顧問弁護士を活用しましょう。
結果的に問題がなければそれは何よりのことですので、とにかく早め前倒しで相談するようにしましょう。
(2)担当者レベルでも相談できる体制を整える
中小企業では、顧問弁護士への相談は必ず社長が行うこととしている会社は珍しくありません。
このやり方が悪いわけではないのですが、どの企業でも社長は多忙なことが多いため、常に社長が相談対応をしていると、相談自体が遅れがちになってしまうことがあります。
顧問弁護士への相談自体は担当管理職などの担当者レベルでも行うことができるようにしておくと、トラブルへの機動的な対応が可能となります(ただし、相談申込みの社内ルールは作成し、顧問弁護士側にも周知しておきましょう)。
担当者レベルで相談することができるようにしておくと、従業員の法的センスの養成にも役立ちます。
(3)顧問弁護士がいることを上手にアピールしましょう
取引先や各種関係者によっては、顧問弁護士がいること自体が信用の増加に繋がったり、トラブルを回避の動機づけになったりします。
会社ホームページ上に顧問弁護士を表示したり、問題ある得意先には顧問弁護士名義で売掛金の督促書を出してもらったりするなど、顧問弁護士がいることを上手にアピールしましょう。
4 中小企業でも顧問契約をした方が良い?
「大きな会社だったら顧問弁護士がいた方が良いということは分かるが、うちの規模の会社で顧問弁護士は要らないでしょう」というのはよく聞く話です。
顧問弁護士の要否については会社ごとの実情によるところですが、実際のところを言えば、顧問弁護士はむしろ中小企業の方が使い勝手が良いものなのです。
理由1 中小企業の方が効果が大きい
多くの中小企業は法的リスクの管理が不十分であるのが現実です。
例えば、中小の建設会社では、請負(下請)契約書は当然のように作成しておらず、場合によっては発注書すらない、というケースがあります。
通常業務を行っているうちは問題点に気づきにくいものですが、これでは一旦トラブル発生となれば、請負契約の対象工事を特定する証拠が皆無、という事態となってしまいます。
このような法的リスクの管理ができている中小企業は決して多くないため、顧問弁護士による対策を行うだけで一気にトラブル強者となることができます。
理由2 コスト削減につながる
法的リスクの管理を本当にしっかり行うのであれば、法務部をつくり、法的素養のある人材を育成していくことが1番です。
しかし、一から法務部を築き上げていくことは時間的にも経済的にも大きなコストが掛かります。
顧問弁護士を上手に活用できれば、法務部機能を外注することと同様の効果を上げることができます。
また、顧問弁護士への相談、対応をしているうちに、社員の法的素養が養われていくという効果も期待できます。
弁護士と顧問契約を締結することは、コストを削減しながら法的リスクの管理を行っていく方法と言えます。
理由3 安心感をもってもらえる
取引先が個人でも会社でも金融機関でも、取引先から安心感をもって取引をしてもらえることは会社経営上、極めて重要なことです。
顧問弁護士がいる会社は、法令順守やリスク管理などにしっかり対応している会社という印象をもってもらいやすい傾向があり、上手にアピールすることで会社の安心感を醸成することができます。