故人の想いが詰まった遺言書だけど…
ご家族が遺された遺言書。
しかし、その内容を目にして、
- 「本当にこれで良かったのだろうか…」
- 「どうしても納得できない部分がある…」
- 「自分の気持ちはどうすればいいのだろう…」
- 「この遺言書の内容は本当なの?」
そんなふうに、複雑なお気持ちを抱え、お一人で悩んでらっしゃるかもしれません。
故人さまの意思は尊重したいけれど、ご自身の生活のこと、他のご家族との公平性を考えると、どうしても受け入れがたい…。といようなご事情もあるかと思います。
このページでは、遺言書の内容に関して様々なお悩みを持つ方のために、
- 遺言書の基本的な知識
- 遺言書の内容でよくあるお悩みやトラブル
- 遺言書が法的に有効なのかどうかについて
- 内容に納得できない場合の対処法
- 遺言書を見つけたときの注意点
などについて、できる限り分かりやすく、そして優しくご説明していきます。
この情報が、あなたの心の中にある不安や疑問を少しでも和らげ、問題を整理して次の一歩を踏み出すためのお手伝いができればと思います。
「遺言書(ゆいごんしょ、いごんしょ)」って何だろう?
まず、基本となる「遺言書」について、簡単に説明します。
遺言書とは?
遺言書とは、亡くなられた方(法律では「被相続人(ひそうぞくにん)」といいます)が、ご自身の財産を誰に、どのように分けるか、あるいはその他の希望(例えば、地元への寄付や、お世話になった方への感謝の気持ちなど)について、生前に書き残した「最後の意思表示」のことです。
なぜ遺言書が大切なの?
遺言書がある場合、原則として、その内容に従って相続の手続きが進められます。これにより、相続人同士の無用な争いを未然に防いだり、故人さまの特別な想いを実現したりすることができます。ご家族にとっては、故人さまからの大切なメッセージとも言えるでしょう。
遺言書には、いくつか種類があります(代表的なものをご紹介します)
- 自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん): ご本人が、遺言の全文、日付、そしてお名前をご自身の手で書き、印鑑を押すことで作成する遺言書です。手軽に作成できる反面、法律で定められた形式を守らないと無効になってしまったり、亡くなられた後に発見されなかったり、内容を書き換えられてしまうといった心配もあります。(法務局で自筆証書遺言を保管してくれる制度もあります。)
- 公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん): 公証人(こうしょうにん)という法律の専門家が、ご本人の意思を確認しながら作成し、公証役場というところで厳重に保管される遺言書です。作成には手間と費用がかかりますが、形式の不備で無効になる心配がほとんどなく、最も確実性が高い方法と言われています。
- 秘密証書遺言(ひみつしょうしょいごん): 遺言の内容は秘密にしたまま、遺言書の存在だけを公証人に証明してもらう方式です。利用されることは少なめです。
どの種類の遺言書であっても、法律で定められた形式をきちんと守って作成されていることが、その遺言書が有効であるための大前提となります。
遺言書の内容に関するお悩み
遺言書に関するお悩みは、ご家庭の事情によって本当に様々です。
例えば、このようなお悩みをお持ちの方がいらっしゃいます。
- 「特定の相続人(例えば、長男だけ)に、ほとんどの財産が相続される内容になっているけれど、他の兄弟姉妹の生活はどうなるのだろう…」
- 「相続人ではない特定の人(長年お世話になったご友人や、特定の団体など)に、多くの財産が遺贈(いぞう:遺言によって財産を贈ること)されることになっているが、家族としては納得がいかない…」
- 「自分の相続分が、法律で保障されているはずの最低限の取り分(「遺留分(いりゅうぶん)」といいます)よりも少ない、あるいは全くないように書かれている…」
- 「遺言書に書かれている内容が、故人さまの生前の言動や考えと、あまりにもかけ離れていて、本当に故人さまの意思なのか疑問に思う…」
- 「遺言書が何通か見つかったけれど、日付も内容も違っていて、どれが本当に有効なものなのか分からない…」
- 「遺言書が作成された当時、故人さまは認知症などで判断能力が十分でなかったのではないかと、どうしても疑ってしまう…」
- 「遺言書の内容が曖昧な表現で書かれていて、具体的にどう解釈すれば良いのか、相続人間で意見が分かれてしまっている…」
こうしたお悩みは、誰にでも起こりうることです。まずは、ご自身が何に納得がいかず、どのようなお気持ちでいらっしゃるのかを、ゆっくりと整理してみることが大切です。
その遺言書、本当に「有効」なのでしょうか? ~遺言書の効力~
遺言書に書かれているからといって、その内容が必ずしも法的に有効とは限りません。
遺言書が法的に有効であるためには、いくつかの条件があります。
【有効な遺言書の基本的な条件】
- 法律で定められた形式を守っていること: 例えば、自筆証書遺言であれば、基本的には、全文が自筆で書かれ、日付とお名前が書かれ、印鑑が押されている、といった形式的な要件をきちんと満たしている必要があります。公正証書遺言であれば、証人2人以上の立会いのもと、公証人が作成するなどの手続きが必要です。
- 遺言者に「遺言能力」があったこと: 遺言書を作成した時に、遺言者が、ご自身が何をしているのか(遺言の内容)を理解し、その結果どうなるのかを判断できる能力(これを「遺言能力(いごんのうりょく)」といいます)を持っていたことが必要です。
【遺言書が無効になる可能性がある主なケース】
- 形式の不備: 日付が書かれていない、押印がない、パソコンで作成されている(自筆証書遺言の場合)、証人になれない人が証人になっている(公正証書遺言の場合)など、法律で決められた形式が守られていない遺言は、無効となることがあります。
- 遺言能力の欠如: 遺言書を作成した当時、遺言者が重度の認知症などで、遺言の内容やその法的な結果を理解する能力がなかったと認められる場合、その遺言は無効となることがあります。
- 内容が公序良俗に反する場合: 遺言書の内容が、社会の一般的な道徳観念や秩序に著しく反するような場合(例えば、犯罪をそそのかすような内容など)は、その部分または遺言全体が無効となることがあります。
- 詐欺や強迫によって書かされた遺言: 誰かに騙されたり、脅されたりして、本心ではない内容の遺言を書かされた場合は、その遺言を取り消すことができます(実質的に無効と同じような効果があります)。
- 複数の遺言書が見つかった場合: 原則として、日付の新しい遺言書が有効となり、それより日付の古い遺言書の内容と新しい遺言書の内容が矛盾する部分については、古い遺言書のその部分が撤回されたものとみなされます。
遺言書が無効かどうかを個人で判断するのは非常に難しいです。 遺言書の有効性に疑問を感じた場合は、必ず専門家である弁護士にご相談ください。
遺言書の内容に納得できない… どうすればいいの?
遺言書の内容に納得がいかない場合でも、感情的になって他の相続人の方と対立してしまうのではなく、まずは法的にどのような対応が考えられるのかを知っておきましょう。
ここでは、いくつかの対処法をご紹介します。
対処法1:ご自身の「遺留分」を主張する(遺留分侵害額請求)
たとえ法的に有効な遺言書があったとしても、一定の範囲の相続人(配偶者、お子さま、お子様の代襲相続人であるお孫さま、ご両親など)には、法律で最低限保障された相続分である「遺留分」という権利があります。もし、遺言書の内容によって、この遺留分が侵害されている(遺留分よりも少ない財産しか受け取れない状態になっている)場合、財産を多く受け取った他の相続人や受遺者(遺言によって財産をもらった人)に対して、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを請求することができます。
これを「遺留分侵害額請求(いりゅうぶんしんがいがくせいきゅう)」といいます。
この請求には、大切な「期限」があります(相続の開始と遺留分侵害を知った時から1年など)。
期限を過ぎると請求できなくなってしまうため、早めの対応が非常に重要です。
対処法2:遺言の「無効」を主張する(遺言無効確認調停・訴訟)
もし、遺言書の形式に不備がある、作成当時に遺言者に遺言能力がなかった、などの理由で遺言が無効だと考えられる場合、家庭裁判所に「遺言無効確認調停」を申し立てたり、地方裁判所に「遺言無効確認訴訟」を起こしたりして、遺言が無効であることを法的に確定させることを目指します。
遺言の無効を主張するためには、それを裏付ける客観的な証拠(例えば、医師の診断書、介護の記録、当時の状況を知る人の証言など)が非常に重要になります。
対処法3:相続人全員で話し合って、遺産分割協議
もし、遺言書の内容とは異なる分け方をしたいと相続人全員が心から合意できるのであれば、遺言書の内容にかかわらず、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)によって財産を分けることも可能です。ただし、遺言書で「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」が指定されている場合や、遺言によって財産をもらうことになっている人(受遺者)がいる場合は、その方々の同意や協力も必要になるなど、注意すべき点があります。
対処法4:遺言書の一部分だけを争う
遺言書全体が無効でなくても、特定の部分だけが公序良俗に反するなどの理由で無効となる場合もあります。
どの方法を選ぶべきかは、遺言書の内容、お手元にある証拠、他の相続人の方々との関係など、ご自身の状況によって大きく異なります。 ご自身だけで判断が難しい場合は、専門家である弁護士にご相談いただくことも選択肢としてもっておいてください。
「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」って誰のこと? その役割は?
遺言書の中に、「遺言執行者」という言葉が出てくることがあります。
遺言執行者とは?
遺言執行者とは、遺言書に書かれている内容を具体的に実現するために必要な手続きを行う人のことです。遺言書で指定されることもあれば、相続人の方が家庭裁判所に選任を申し立てることもあります。
役割は、相続に伴う様々な事務作業です。
相続財産の目録を作成して相続人の皆さんに示したり、預貯金の解約や不動産の名義変更手続きをしたり、遺言の内容に従って財産を相続人や受遺者に引き渡したりするなど、遺言の内容を実現するための様々な事務を行います。
遺言執行者がいる場合、相続人であっても勝手に遺産を処分したりすることはできません。基本的には、遺言執行者を通じて手続きを進めていくことになります。
もし、遺言執行者の行動に疑問がある場合や、不適切な対応があると感じる場合には、家庭裁判所に解任を求めるなどの法的な手段も考えられます。
遺言書を見つけたら、まず何をすればいいの? ~「検認(けんにん)」という大切な手続き~
もし、ご自宅などで故人さまの遺言書(特に、ご自身で書かれた自筆証書遺言など)を見つけた場合、いくつか注意していただきたいことがあります。
公正証書遺言「以外」の遺言書の場合
公正証書遺言以外の遺言書(自筆証書遺言や秘密証書遺言など)を発見した場合、または法務局の遺言書保管制度を利用していない自筆証書遺言をご自身が保管していた場合は、その遺言書を勝手に開封してはいけません。(封印されている場合)
家庭裁判所での「検認(けんにん)」という手続きが必要です
まず、亡くなられた方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、その遺言書を提出して「検認」という手続きを申し立てる必要があります。
検認とは?
検認は、相続人の皆さんに対して遺言の存在とその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、日付、署名、訂正の状態など、遺言書そのものの状態を調査・確認し、後になって偽造されたり、内容を書き換えられたりすることを防ぐための大切な保全手続きです。
重要なのは、検認は遺言書の「有効」か「無効」かを判断する手続きではない、ということです。
検認の手続きを経ずに遺言を執行したり、封印のある遺言書を勝手に開封したりすると、過料(かりょう:罰金のようなもの)の対象となることがありますので、十分にご注意ください。
(なお、法務局の遺言書保管制度を利用して保管されていた自筆証書遺言については、この検認の手続きは不要です。)
「どうしよう…」と一人で悩みすぎないでください
ここまで、遺言書に関する様々な情報をお伝えしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
遺言書の問題は、法律的な知識が深く関わるだけでなく、ご家族間の感情も複雑に絡み合い、非常にデリケートで難しいことが多いのが実情です。
もし、
「自分の場合はどうなんだろう…」
「どの方法が一番いいのか、自分だけでは判断できない…」
「他の相続人にどう話せばいいのか分からない…」
そんなふうに、お一人で悩んでいらっしゃるのであれば、どうぞ無理をなさらず、相続問題や遺言に詳しい弁護士に相談してみることを、考えてみてください。
弁護士は、
- あなたが抱えているお悩みが、法的に見てどのような問題なのかを的確に整理してくれます。
- その遺言書が有効なのか、無効の可能性があるのか、専門的な視点からアドバイスをしてくれます。
- もし遺留分を請求できるのであれば、その具体的な手続きや大切な期限について教えてくれます。
- 他の相続人の方との話し合い(交渉)や、調停・訴訟といった法的な手続きが必要になった場合も、あなたの心強い代理人として、しっかりとサポートしてくれます。
- そして何よりも、お一人で抱え込んでいる不安や疑問に対し、親身になって相談に乗り、あなたにとって一番良い解決策を、一緒に真剣に考えてくれます。
弁護士に相談することは、特別なことではありません。
問題をこじらせてしまう前に、早い段階で専門家のアドバイスを受けることが、より良い解決への近道となることが多いのです。
多くの弁護士事務所では、最初の相談を無料で行っています。
まずは、あなたの今の状況や、お困りのことを、勇気を出してお話ししてみてはいかがでしょうか。
きっと、心が少し楽になり、次に何をすべきか、具体的な道筋が見えてくるはずです。
おわりに
遺言書は、故人さまが遺した、とても大切なメッセージです。その想いをできる限り尊重しつつも、残されたご家族の皆さまが納得し、穏やかなお気持ちで新たな生活をスタートできることが、何よりも大切だと、私たちは考えています。
このページでお伝えしたことが、今、遺言書のことでお悩みの方にとって、ほんの少しでもお役に立ち、ご自身の権利について考え、より良い未来へと踏み出すための一助となれたなら、これほど嬉しいことはありません。
どうか、一人で悩まず、希望を持って解決の道を探してくださいね。
あなたの心が少しでも軽くなる日が来ることを、心から願っています。