- 「一人暮らしの高齢の区分所有者が亡くなられたようだ」
- 「口座が凍結されて、管理費の引き落としができなくなった」
高齢化が進む現在、多くのマンション管理組合がこのような問題に直面しています。
所有者が亡くなると、単なる滞納問題とは異なり、「相続」という複雑な法律問題が絡んでくるため、対応を誤ると長期間にわたって管理費が回収不能になることがあります。
このページでは、所有者が亡くなった際に、管理組合が直面する法的な課題と、その具体的な解決策を弁護士の視点で解説します。
所有者死亡直後の対応
Q. 所有者が亡くなり、銀行口座が凍結されました。今後は誰に管理費を請求すればよいですか?
A. 原則として、「法定相続人」全員に対して請求します。
所有者が亡くなった瞬間、そのマンション(および管理費を支払う義務)は、法律上の相続人(配偶者や子など)に引き継がれます。 まだ遺産分割協議(誰がマンションを継ぐかの話し合い)が終わっていなくても、相続人全員が法的に支払い義務を負います。
したがって、まずは相続人の代表者に連絡を取り、「口座が凍結されたため、振込用紙等でお支払いください」と連絡するのが第一歩です。
Q. 相続人が誰か分かりません(行方不明・疎遠など)。どうやって探せばいいですか?
A. 戸籍謄本(こせきとうほん)等を取得して調査することが可能です。
通常、他人の戸籍を勝手に取ることはできません。しかし、管理組合は「債権者(管理費を請求する権利がある人)」という立場にあるため、正当な理由として認められれば、役所で故人の「出生から死亡までの戸籍」や、相続人の「戸籍の附票(現在の住所が分かる書類)」を取得して、相続人を特定することができます。
Q. 亡くなった人の部屋に荷物が残っています。管理組合で処分してもいいですか?
A. 絶対に勝手に処分してはいけません。 これには細心の注意が必要です。
たとえゴミのように見えるものであっても、部屋の中にある全ての物は「相続財産」であり、相続人の所有物です。管理組合が勝手に部屋に入って処分すると、不法侵入や器物損壊、窃盗などで訴えられるリスクがあります。 処分できるのは、原則として相続人、または裁判所に選任された相続財産清算人となります。
相続放棄・相続人不在の対応
Q. 判明した相続人から「相続放棄したから払わない」と言われました。どうすれば?
A. 相続放棄が家庭裁判所で正式に受理されている場合、その人は「初めから相続人ではなかった」ことになります。したがって、その人に管理費を請求することはできません。
この場合、対応は以下の手順になります。
- 放棄の証明書を確認する
口頭だけでなく、「相続放棄申述受理通知書」の写しを提出してもらいます。 - 次の順位の相続人を探す
子が全員放棄したなら親、親もいないなら兄弟姉妹…と、法律上の順位に従って次の相続人を探し、その人に請求します。
Q. 相続人全員が相続放棄をしてしまい、誰もいなくなってしまいました。
A. これは管理組合にとって最も困難な状況です。誰も所有者がいない(=誰も管理費を払わない)状態が続いてしまいます。
この場合、最終的な解決策としては、家庭裁判所に申し立てを行い、「相続財産清算人」を選任してもらう方法があります。 選任された清算人が、故人の財産(預貯金など)を整理し、マンションを売却(競売など)して、その代金の中から滞納管理費を支払ってもらう流れになります。
Q. 「相続財産清算人」を選任するには費用がかかりますか?
A. はい、ここが大きなハードルとなります。 申し立ての手数料自体は数千円ですが、裁判所に「予納金」というお金を納める必要があるケースが多いです。事案によりますが、数十万円〜100万円程度かかることもあります。 (※故人に十分な現預金があることが明らかな場合は、予納金が少額または不要になることもあります)
「予納金を払ってでも、マンションを売却して新しい所有者を決めるべきか(=将来の管理費収入を確保するか)」、あるいは「費用倒れになるリスクがあるか」を、理事会・総会で慎重に判断する必要があります。
弁護士への相談・依頼の目安
管理費の回収業務は通常、管理会社のサポート範囲内ですが、相続が絡むと「法律事務」の領域に入るため、管理会社だけでは対応できないケースが増えてきます。
Q. 管理会社に任せておくだけではダメなのでしょうか?
A. 一般的な督促業務であれば管理会社でも対応可能です。ただし、「交渉」や「法的手続き」が必要な段階になると、弁護士でなければ対応できない法律上の壁があります。
弁護士法などの法律により、管理会社が報酬を得て「法的な交渉」や「訴訟代理」を行うことは禁止されています(非弁行為)。 そのため、以下のような場合は、弁護士への依頼が必要になります。
- 相続人が支払いを拒否し、法的な反論をしてきた場合
- 内容証明郵便を送っても無視され、支払督促や訴訟などの裁判手続きを行う場合
- 相続財産清算人の選任申し立てなど、家庭裁判所での複雑な手続きが必要な場合
Q. 滞納額よりも弁護士費用の方が高くなりそうで心配です(費用倒れ)。
A. そのご心配はもっともです。滞納額が数十万円程度の場合、回収できた金額よりも弁護士費用の方が高くなる「費用倒れ」のリスクは確かに存在します。
しかし、管理組合の運営においては、「金銭的な収支」以上の意味を考慮する必要があります。
- 公平性の確保
「最後まで拒否すれば払わなくていい」「逃げ得が許される」という前例ができることで、今後の回収に支障を来す可能性があります。 - 将来の損失防止
現在は数十万円の滞納でも、放置すれば数年後には数百万円に膨れ上がり、解決がより困難になります。また、その間、新しい入居者を入れることもできません。
「マンションの正常な運営を取り戻すための必要経費」として、ご依頼をいただく場合もあります。当事務所では、受任前に必ず費用の見積もりと回収の見通しをお伝えし、管理組合の皆様のメリット・デメリットを客観的に整理してご説明します。
Q. 理事会の一存で弁護士に依頼しても良いのでしょうか?
A. 弁護士との契約は管理組合の予算に関わるため、基本的には理事会の決議(場合によっては総会の決議)が必要です。
いきなり契約するのではなく、まずは「法律相談」として弁護士の見解を聞き、見積もりを取った上で、理事会で「弁護士に依頼するかどうか」を諮るのが一般的な流れです。 必要な場合は、合意形成のために、「なぜ弁護士が必要なのか」を説明方法もサポートいたします。
Q. 弁護士に相談に行く際、何か資料は必要ですか?
A. 初回相談の段階では、お手元にある資料だけで構いませんが、以下のものがあるとより具体的なアドバイスが可能になります。
- 管理規約・使用細則
違約金や弁護士費用の負担に関する条項を確認するため - 登記事項証明書(登記簿謄本)
対象の部屋の所有者情報を確認するため - 滞納状況が分かる資料
管理費等の未収金一覧表など - これまでの経緯メモ
いつ亡くなったか、相続人と連絡は取れたか、管理会社がどのような対応をしたか等の記録
まだ手元にない資料があっても、相談後に調査することができます。
お困りごとがあればいつでもお問い合わせ・ご相談ください。

