遺産分割の話し合い、どう進める?揉めてしまう原因と対処法を解説します

目次

はじめに

ご家族を亡くされた直後に、相続の手続き、特に遺産分割の話し合いを進めることは、精神的にも大きなご負担かと思います。

「どうやって話し合えばいいのだろう…」
「なかなか話し合いがまとまらなくて困っている…」

そんなお悩みやご不安を抱える方もたくさんいらっしゃいます。

このページでは、相続に馴染みのない方にも分かりやすいように、

  1. 遺産分割協議の基本的な流れ
  2. 話し合いが難航してしまう主な原因
  3. 原因ごとの対処法

について、解説していきます。 この情報が、少しでも皆様のお悩みを軽くし、円満な解決への一歩を踏み出すためのお役に立てれば、私たちも大変嬉しく思います。


「遺産分割協議」って何だろう? まずは基本の流れを知りましょう

「遺産分割協議」という言葉を初めて聞かれた方もいらっしゃるかもしれません。 これは、亡くなられた方(「被相続人(ひそうぞくにん)」といいます)が遺された大切な財産を、相続人となる方々の間で、具体的にどのように分けるかを話し合って決めることです。

この話し合いは、相続人全員が納得し、合意することがとても大切になります。

【遺産分割協議の基本的なステップ】

普段あまり経験することのない手続きですから、一つ一つ確認していきましょう。

  • 相続する人は誰?(相続人の確定)
    • まず、「誰が相続人になるのか」を正確に確認することから始まります。
    • 亡くなられた方の出生から死亡までの戸籍謄本(こせきとうほん)などを集めて、法的に相続権のある方を全員把握します。ご自身が思っていた方以外にも相続人がいるケースもありますので、とても大切な作業です。
  • どんな財産があるの?(相続財産の調査と評価)
    • 次に、亡くなられた方がどのような財産を遺されたのかを調べます。
    • 預貯金、不動産(土地や家)、株式、自動車、貴金属などのプラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も全て洗い出します。
    • 財産の種類によっては、その価値(評価額)を調べる必要も出てきます。
  • みんなで話し合おう(遺産分割協議の開始)
    • 相続人と遺される財産が全てはっきりしたら、いよいよ相続人全員で、誰がどの財産をどれだけ相続するかを具体的に話し合います。
    • 直接顔を合わせて話し合うのが基本ですが、遠方にお住まいの方がいる場合などは、手紙や電話、メール、オンライン会議などを活用することもできます。
  • 決まったことを書類に残そう(遺産分割協議書の作成)
    • 話し合いがまとまり、相続人全員が合意したら、その内容を「遺産分割協議書(いさんぶんかつきょうぎしょ)」という書類にきちんと残します。
    • これは、後から「そんな約束はしていない」といったトラブルが起きるのを防ぐため、そして不動産の名義変更などの手続きにも必要となる大切な書類です。全員が署名し、実印を押印するのが一般的です。
  • ステップ5:財産の名義を変えよう(名義変更などの手続き)
    • 作成した遺産分割協議書に基づいて、不動産であれば法務局で、預貯金であれば金融機関で、それぞれ名義変更などの手続きを行い、実際に財産を分けていきます。

これが、遺産分割協議の大まかな流れです。 もちろん、ご家庭の状況によって、この通りにスムーズに進むこともあれば、途中で少し時間がかかったり、専門家のお手伝いが必要になったりすることもあります。


話し合いがなかなか進まない…よくある原因

相続人同士、円満に話し合いを終えたいと願っていても、残念ながらスムーズに進まないこともあります。 もともと関係性の悪くなかったご親族同士でも、思わぬところで話し合いが難航してしまうのは、決して珍しいことではありません。 では、どのような原因が考えられるのでしょうか。いくつか代表的なものを見てみましょう。

  • 原因1:気持ちのすれ違いや不信感
    • ご家族やご親族だからこそ、長年の間には様々な出来事があり、お互い誤解や言いにくい感情が積み重なっていることがあります。そうした気持ちが、遺産分割というデリケートな話し合いの場で表面化し、冷静な対話できなくなることがあります。
  • 原因2:財産の分け方で意見がまとまらない
    • 例えば、ご実家の土地や建物のように、物理的に分けにくい財産がある場合や、「この財産は私が欲しい」という希望が他の相続人と重なってしまった場合など、分け方で意見が対立してしまうことがあります。また、財産の価値をどう評価するかで、認識が異なることもあります。
  • 原因3:「私が多くもらうべき」という主張が出る
    • 「亡くなった親の介護を自分だけが長年してきたから、その分多く財産をもらいたい(これを「寄与分(きよぶん)」と言ったりします)」とか、「自分だけ生前に親からまとまったお金をもらっていない(他の兄弟は「特別受益(とくべつじゅえき)」を受けていた)から、その分を考慮してほしい」といった主張が出ることがあります。これらは法的に認められる権利の場合もありますが、その評価や計算が難しく、感情的な対立を生みやすい原因の一つです。
  • 原因4:話し合いに参加してくれない人がいる
    • 相続人の中に、遠方に住んでいたり、仕事が忙しかったり、あるいは相続にあまり関心がなかったりして、なかなか話し合いに応じてくれない方がいると、全員の合意が必要な遺産分割協議は前に進めません。
  • 原因5:相続の知識がなくて不安
    • 相続の手続きや法律は、普段あまり触れることのない分野なので、専門的な知識がないと「どう進めればいいのか」「法的に正しい分け方はどうなのか」が分からず、不安になって話し合いが停滞してしまうことがあります。
  • 原因6:借金が見つかってどうすればいいか分からない
    • 亡くなられた方に借金があったことが後から判明した場合、その借金を誰がどのように負担するのか、あるいは相続自体を放棄すべきなのかなど、対応に困り、話し合いがストップしてしまうことがあります。

これらの原因は、一つだけの場合もあれば、複数が絡み合っている場合もあります。


どうしたらいいの? 話し合いが進まない時の対処法のヒント

話し合いが進まない原因が少し見えてきたら、次はどうすれば良いかを考えてみましょう。 ここでは、原因に応じた対処法のヒントをいくつかご紹介します。 ただ、ご家庭の状況は本当に様々ですので、「これが唯一の正解」というものはありません。あくまで一般的なアドバイスとして、参考にしていただければと思います。

  • 対処法1:感情的なもつれには「距離」を
    • 直接会って話すと感情的になりやすい場合は、手紙やメールで、自分の気持ちや考えを整理して伝えてみるのも一つの方法です。
    • もし、中立的な立場で話を聞いてくれる方がいれば、その方に間に入ってもらうのも良いでしょう。
  • 対処法2:分けにくい財産は「専門家の知恵」を借りる
    • 不動産のように分けにくい財産については、無理に現物のまま分けようとせず、例えば「売却してお金で分ける(換価分割:かんかぶんかつ)」という方法や、「相続人の一人が相続する代わりに、他の相続人に相当額のお金を支払う(代償分割:だいしょうぶんかつ)」という方法など、様々な分け方があります。
    • 不動産の価値評価については、不動産鑑定士という専門家にお願いして、公平な価格を出してもらうと、話し合いの基準ができて進めやすくなることがあります。(当事務所よりご紹介も可能です)
  • 対処法3:「特別受益」や「寄与分」は客観的な資料と話し合いを
    • 「特別受益」や「寄与分」の主張がある場合は、まず、その根拠となる資料(生前贈与の記録、介護の記録など)があれば、それを元に具体的に話し合ってみましょう。
    • ただ、これらの評価は法律的な判断も絡むため、当事者だけではなかなか合意に至るのが難しい場合も多いのが実情です。もし、お互いの主張が平行線で、話し合いが難しいと感じたら、法律の専門家である弁護士に相談して、法的な観点からどう考えられるのかアドバイスをもらうのも良い方法です。
  • 対処法4:非協力的な人には「根気強い呼びかけ」と「公的な手続き」
    • 話し合いに応じてくれない相続人の方には、まず、手紙などで遺産分割協議の必要性を丁寧に伝え、参加を根気強く呼びかけてみましょう。
    • それでもどうしても応じてくれない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停(いさんぶんかつちょうてい)」を申し立てるという方法があります。調停になると、裁判所からその方に通知が行き、話し合いのテーブルについてもらいやすくなることがあります。
  • 対処法5:知識がなくて不安な時は「情報収集」と「相談」
    • まずは、このページのような情報源や、市役所などの行政機関が提供している相続に関するパンフレット、信頼できる書籍などで、基本的な知識を得ることから始めてみましょう。
    • ただ、本やインターネットの情報だけでは、ご自身のケースに具体的にどう当てはまるのか判断が難しいことも多いと思います。そんな時は、弁護士会などが実施している無料法律相談などを利用して、専門家から直接アドバイスをもらうと、不安が解消され、何をすべきかが見えてくることがあります。当事務所でも毎月定例の無料相談を実施しています。
  • 対処法6:借金がある場合は「期限」に注意して専門家へ
    • 亡くなられた方に借金があるかもしれない、あるいはあることが分かった場合は、とても注意が必要です。なぜなら、「相続放棄(そうぞくほうき:プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないこと)」や「限定承認(げんていしょうにん:プラスの財産の範囲内でのみ借金を返済すること)」といった手続きには、原則として「ご自身のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」という期限があるからです。
    • この期限は短いので、借金の可能性がある場合は、できるだけ早く弁護士などの専門家に相談し、財産調査や必要な手続きについて、急いでアドバイスを受けるようにしてください。

4.どうしても話し合いがまとまらない…そんな時はどうすれば?

相続人同士で一生懸命話し合っても、残念ながらどうしても合意に至らない場合もあります。 そんな時は、次のような公的な手続きを利用して解決を図る道があります。

  • 遺産分割調停(いさんぶんかつちょうてい)
    • これは、家庭裁判所で、調停委員という中立な立場の人が間に入って、相続人双方の言い分をじっくり聞きながら、お互いが納得できる解決策を一緒に探してくれる話し合いの手続きです。
    • 調停委員は、法律の専門家や地域で信頼のある方などが選ばれ、公平な立場で助言をしてくれます。強制的に何かを決定するのではなく、あくまで話し合いによる円満な合意を目指します。
  • 遺産分割審判(いさんぶんかつしんぱん)
    • 調停でも話し合いがまとまらなかった場合、自動的に「審判」という手続きに移行します。
    • 審判では、裁判官が、それぞれの相続人の主張や提出された資料など、一切の事情を考慮して、最終的に「このように遺産を分けなさい」という決定(審判)を下します。この決定には法的な拘束力があります。

弁護士に相談するという選択肢について

ここまで読み進めていただいて、「自分たちの話し合いも、少し専門家のアドバイスが必要かもしれないな」「調停や審判のことを考えると、一人では不安だな」と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。

そのような場合は、相続問題に詳しい弁護士に相談してみるというのも、大切な選択肢の一つです。

弁護士は、

  • あなたの状況を法的な観点から整理し、どんな解決策があるのか、それぞれのメリットや注意点は何かを分かりやすく説明してくれます。
  • あなたに代わって、他の相続人の方と冷静に話し合い(交渉)を進めてくれます。
  • 遺産分割調停や審判になった場合に、あなたの代理人として、法的な主張をしたり、必要な書類を作成したりするなどのサポートをしてくれます。

弁護士に相談すると聞くと、少し敷居が高いように感じられるかもしれませんが、 最初の相談は無料のこともおおいので、まずは一度、弁護士事務所に問い合わせてみてはいかがでしょうか。 お話をするだけでも、今後の見通しが立ったり、抱えていた不安が少し軽くなったりされる方もたくさんいらっしゃいます。


できるかぎり穏やかな解決を目指して

遺産分割の話し合いは、残されたご家族がそれぞれの新しい生活へと踏み出すための、大切な区切りとなる手続きです。 時には、意見がぶつかり合い、お辛い気持ちになることもあるかもしれません。

でも、どうか一人で抱え込まず、このページでご紹介したような情報を参考にしたり、必要であれば専門家の知恵も借りたりしながら、少しでも穏やかに、そして円満に解決できる道を探していただけたらと願っています。

この情報が、少しでも皆様のお心に寄り添い、お役に立てることを心から願っております。

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