市川市本八幡の法律事務所羅針盤の弁護士の本田です。
不公平な遺言内容や生前贈与で自分の遺留分が侵害された場合に、受遺者や受贈者に対して請求できる遺留分侵害額請求。
その請求にあたって問題の一つに、いくら請求すればよいか遺留分の計算方法があります。
遺留分の金額は、「遺留分割合×遺留分を算定する基礎となる財産」で計算しますが、この遺留分を算定する基礎となる財産の計算方法が問題となることがあります。
このページでは、遺留分を算定する基礎となる財産の計算方法について解説します。
遺留分の計算にあたって財産をどう計算すればいいかわからない、という場合にはぜひ参考にしてください。
遺留分・遺留分侵害額請求とは
まず、遺留分・遺留分侵害額請求とはどのようなものかについて簡単に確認しましょう。
遺留分とは
遺留分とは、相続が発生したときに、兄弟姉妹以外の相続人に認められている、最低限度の遺産の取り分です(民法1042条)。
被相続人は遺言や生前贈与をすることができますが、遺言や生前贈与によって相続人がその法定相続分に相当する遺産を相続できなくなってしまうことがあります。
相続人の生活保障や、被相続人の遺産は法定相続人の貢献によって形成された部分もあるという考え方から、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者や子供など)に、最低限認められる権利として規定されているのが遺留分です。
遺留分侵害額請求とは
遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害されている相続人が、遺留分を侵害している受遺者(遺贈を受けた人)、受贈者(生前贈与を受けた人)に対して遺留分に相当する金銭の支払いを請求する権利をいいます(民法1046条)。
遺留分を侵害されている相続人は、遺留分侵害額請求をすることによって、侵害された遺留分に相当する金銭を支払いを受けることができます。
なお、以前は遺留分減殺請求権という名称・制度でしたが、2019年7月1日施行の民法改正によって遺留分侵害額請求権に変更されているので注意しましょう。
遺留分割合
遺留分侵害額請求として請求する場合には、遺留分を算定する基礎となる財産×「遺留分割合」で計算されます。
遺留分割合については民法1042条1項で次の通りとなっています。
- 直系尊属のみが法定相続人である場合:1/3
- その他:1/2
相続人が複数いる場合には、法定相続分にこの遺留分割合を乗じることになります。
例えば、父・母・子2人という家族構成での遺留分割合は次の通りとなります。
相続人 | 法定相続分 | 遺留分 |
配偶者 | 1/2 | 1/4 |
子 | 各1/4 | 各1/8 |
子 |
遺留分を算定する基礎となる財産
遺留分を算定する基礎となる財産の計算方法は次の通りとなっています。
被相続人が相続開始の時において有した財産の価額(民法1043条1項) + 相続開始前の1年間にした贈与(民法1044条1項前段) + 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与(民法1044条1項後段) + 相続人に対する相続開始前の10年間にした婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与(民法1044条2項) ― 債務の全額を控除した額(民法1043条1項) |
各項目について確認しましょう。
被相続人が相続開始の時において有した財産の価額
被相続人が相続開始の時において有した財産の価額が遺留分を算定する基礎となります。
被相続人の遺産は基本的には算定されることになります。
ただし、年金請求権のように一身専属権とされる財産や、墓・仏壇・位牌といった祭祀財産にあたるものはその対象とならないとされています。
年金請求権のような一身専属権はそもそも相続の対象にならず、相続財産として計算されないためです。
また、祭祀財産は相続によって承継されるものではなく、祭祀承継者に引き継がれることになるためです。
贈与の形式として、贈与者の死亡を条件として贈与する死因贈与が行われることがあるのですが、死因贈与は民法554条の規定により遺贈の規定が準用されるとしていることから、遺贈に含むものとして解釈されます。
相続開始前の1年間にした贈与(民法1044条1項前段)
相続開始前の1年間にした生前贈与が加算されます。
生前贈与として加算される原則は、過去1年間の間に行われた贈与のみです。
当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与(民法1044条1項後段)
生前贈与についての例外として、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与については、過去1年間よりも前のものであっても加算されます。
「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った」といえるためには、生前贈与の当事者双方が遺留分を侵害することを知っていれば十分で、遺留分を侵害される相続人となる人が誰かを知っていること、遺留分権利を加害する意図までは不要とされています。
相続人に対する相続開始前の10年間にした婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与(民法1044条2項)
生前贈与のうち、相続人に対して婚姻・養子縁組・生活をするための費用として行われた生前贈与(特別受益となる贈与)については過去10年間にわたって行われたものが加算されます。
共同相続人間の公平を守るために規定されています。
債務の全額を控除した額(民法1043条1項)
以上の財産から被相続人が負っていた債務の全額が控除されます。
債務としては次のようなものがよく問題となります。
- 消費者金融や信販会社などの貸金業者からの借金
- 住宅ローン・自動車ローンなどの各種ローン
- 個人事業主である場合の買掛金・未払金・未払賃金など
遺留分を算定する基礎となる財産の計算にあたっての注意点
遺留分を算定するにあたって、下記のような注意点があります。
財産の評価をする基準時
たとえば、ある物を生前贈与したとして、その後にその財産が値上がりもしくは値下がりすることもあります。
この場合に、生前贈与した財産については、生前贈与時の価値で評価すべきなのか、相続開始時の価値で評価すべきなのかが問題となります。
この点について、裁判実務上は、相続開始時の時価で評価すべきとされています(最高裁判所昭和51年3月18日判決など)。
そのため、過去に生前贈与したものが、相続開始時にいくらとなっているのかを確認することが必要となります。
負担付き贈与・不当な対価で行われた有償行為
生前贈与について、一定の負担が課せられている負担付き贈与が行われた場合、その負担を控除した分を加算することになります(民法1045条)。
また、形式上は売買契約のような形をとっていても、その対価が不当で実質的には贈与あるいは負担付き贈与と同視できるような場合には、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限って負担付き贈与とみなして同様に扱います。
特別受益について持ち戻し免除の意思表示をしていた場合
生前贈与をするにあたって、特別受益に当たる贈与の財産の価額を、相続財産に算入しなくて良いとする被相続人の意思表示のことを、持ち戻し免除の意思表示と呼んでいます。
特定の相続人が生前贈与を受ける場合、特別受益として相続分の計算にあたって相続財産に加算することになります。
ただし、被相続人の持ち戻し免除の意思表示があれば、相続財産として加算しないという処理が取られます。
これは、そのような生前贈与を行った被相続人意思を尊重するためです。
この持ち戻し免除の意思表示があったとしても、遺留分の計算をする場合には相続財産として加算されます(最高裁平成24年1月26日決定)。
これは、遺留分は遺留分権利者となる相続人の権利であり、被相続人の持ち戻し免除の意思表示によっても侵害することが許されないという理由によるものです。
保証債務の取り扱い
被相続人が個人事業主や会社経営者であるような場合、他の個人事業主や会社などの債務の連帯保証人となっていることがあります。
このような保証債務については債務が履行されれば負担は全くないですし、連帯保証人が数名いるような場合もあり、常に債務として保証している額を控除できるわけではありません。
この点について、主たる債務者が弁済不能の状態にあるため保証人がその債務を履行しなければならず、かつ、その履行による出指を主たる債務者に求償しても返還を受けられる見込みがないような特段の事情が存在する場合でない限り、保証債務は被相続人の財産から控除される債務には該当しないとしたと裁判例があります(東京高判平成8年11月7日判決)。
逆に言えば、主債務者が無資力であるため、保証人が自己の最終負担において保証債務を履行しなければならない状況であれば、保証債務の控除が可能となる場合があると考えられます。
まとめ
このページでは遺留分の計算の基礎となる財産の算定についてお伝えしました。
遺言や生前贈与によって遺留分を侵害された場合に行う遺留分侵害額請求をする場合、いくら請求をするのかは非常に重要となります。
どのような遺産が計算の対象になるのかをきちんと把握して、正確な金額を請求することが、スムーズな回収につながります。