家族信託とは?仕組み・メリット・デメリット・注意点を解説

法律事務所羅針盤(千葉県市川市)所属の弁護士本田真郷です。
来たる相続に向けた対策手法として、「家族信託」が近年注目を集めています。
家族信託を上手に活用すると、被相続人となる方の意思を適切に反映した形で、次世代に財産を引き継ぐことができます。
また、家族信託は認知症対策としても効果を発揮するので、お元気なうちに家族信託の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
この記事では、相続対策としての「家族信託」の仕組み・メリット・デメリット・注意点などを解説します。

目次

1. 家族信託とは?

家族信託とは、親族の誰かに財産の管理を任せる仕組みをいいます。
財産の所有者が亡くなった場合や、認知症などにより判断能力を失ってしまった場合には、財産を適切に管理する人がいなくなってしまいます。
その際、事前に家族信託を設定しておくと、信頼できる親族が、信託契約等の規定に従って、財産を適切に管理してくれるのです。
このような性質から、家族信託は相続対策の手法の一つとして、近年注目されています。

2. 家族信託の当事者・仕組み

家族信託には、主に以下の当事者が登場します。

①委託者
信託財産を拠出する人です。
相続対策として家族信託を設定する場合、被相続人となる方が委託者になります。

②受託者
受益者のために、信託財産の管理・処分を行う人です。
被相続人となる方にとって、信頼できる親族などを受託者とします。

③受益者
信託から利益(配当など)を受ける人です。
被相続人が財産を残したい人(配偶者、子など)を受益者とします。

上記を踏まえて家族信託の仕組みを整理すると、

(a)委託者が拠出した信託財産を
(b)受託者が
(c)受益者のために
(d)管理・運用・処分する仕組み

ということになります。

家族信託を設定すると、委託者が受益者に対して経済的利益を与えることになりますが、その過程で、信頼できる受託者による管理・運用・処分が行われるのが、家族信託の大きな特徴です。

3. 家族信託のメリット

近年家族信託が注目されているのは、主に以下のメリットが存在することによります。

3-1. 信頼できる受託者に財産管理を任せられる

生前に家族信託契約を締結すれば、あらかじめ信頼できる親族を受託者に指名したうえで、財産の管理を任せることができます。
何も対策をせずに相続が発生し、相続財産の管理者が不在となってしまう事態を想定すると、家族信託の設定による事前対策の効果は大きいといえるでしょう。

3-2. 相続人同士のトラブルを防止できる

家族信託の信託財産は、相続財産からは除外され、信託契約に基づいて、最終的に受益者へ分配されます。
したがって家族信託には、生前贈与や遺贈などと同様に、遺産分割の対象となる財産を減らすことにより、相続人同士のトラブルを防止する効果があります。

3-3. 柔軟に仕組みを設計できる

家族信託では、信託契約において、財産の管理・運用・処分の方法を柔軟に定めることができます。
たとえば信託財産が金銭であれば、どのような資産に投資して運用するか、どの段階で受益者に配当を行うかなどを、委託者と受託者の合意によって自由に決められます。
このような自由度の高さは、生前贈与や遺贈には見られず、家族信託特有のメリットといえるでしょう。

3-4. 認知症対策としても活用可能

家族信託は、認知症対策としてもその有効性が注目されています。
元気なうちに家族信託を設定しておけば、万が一認知症になってしまった場合にも、信頼できる受託者が適切に財産を管理してくれます。
また、受益者に対する財産の承継について、判断能力のしっかりした段階での意思内容を適切に反映できる点も大きなメリットです。

4. 家族信託のデメリット

家族信託は、幅広い活用可能性のある仕組みですが、その一方でいくつかのデメリットもあります。
家族信託の主なデメリットは、以下のとおりです。

4-1. 身上監護に関する事項は対象外

家族信託では「身上監護」、つまり委託者の身の回りの世話に関する法律行為を、受託者に委託することはできません。

<身上監護の例>
・住居の確保
・生活環境の整備
・施設などへの入所、退所に関する契約の締結
・医療機関との治療や入院に関する契約の締結
など

身上監護に関する事項は「成年後見」または「任意後見」によってカバーされる事項です。
そのため、身上監護に関する事務の委託を要する場合には、成年後見や任意後見を家族信託と併用する必要があります。

4-2. 税務申告の手間が増える

家族信託の収益が年間3万円を超える場合、所轄の税務署長に対して「信託の計算書」を提出しなければなりません(所得税法227条、同法施行規則96条2項)。
また、受益者への配当が行われた場合には、受益者の側で確定申告を行う義務が生じることがあります。
このように、税務申告の手間が増える点は、家族信託を設定するデメリットの一つといえるでしょう。

4-3. 信託設定時の弁護士費用などが高額

家族信託は、遺言や生前贈与に比べて仕組みが複雑なため、弁護士などの専門家への依頼が事実上必須となります。
また、弁護士などへの依頼費用についても、生前贈与や遺言書作成のサポートよりも高額になるケースが多く、おおむね50万円から100万円程度を見込んでおく必要があるでしょう。

5. 家族信託を設定する際の注意点

家族信託を有効な相続対策として機能させるためには、以下の各点に留意しましょう。
家族信託を含めて、納得できる形で相続対策を設計するには、弁護士へのご相談をお勧めいたします。

5-1. 信託契約の内容をきちんと作りこむことが大切

家族信託における信託財産の管理・運用・処分のルールは、信託契約の内容によって決まります。
よって、信託財産の管理・運用・処分について、委託者の意思を適切に反映するためには、信託契約にその内容をきちんと盛り込むことが大切です。
また、信託の運用上トラブルが発生した場合にも、信託契約によって事後処理を行いますので、トラブルを想定したリスク管理規定を盛り込んでおくことも重要になります。
こうした観点から、家族信託契約の内容については、弁護士と相談しながら十分な検討を行うことをお勧めいたします。

5-2. 成年後見や遺言などと組み合わせるのがよい

家族信託は万能ではなく、それだけでは相続対策として不十分な面もあります。
しかし、成年後見(または任意後見)や遺言など、他の手法と組み合わせることにより、互いの短所を補い合うことができるかもしれません。
たとえば前述のように、家族信託は身上監護をカバーできませんが、成年後見(または任意後見)と組み合わせれば、財産管理と身上監護の両方をカバーすることが可能です。

また、農地は信託が原則禁止されているところ(農地法2条2項3号)、遺言によって農地の承継人を指定すれば、農地についても相続人同士の遺産分割トラブルを防止できます。
このように、具体的な状況によっては、家族信託と他の相続対策を組み合わせることも検討するとよいでしょう。

6. まとめ

家族信託は、柔軟で使い勝手のよい仕組みであることから、相続対策として幅広い活用可能性を持っています。
家族信託を相続対策として上手に活用するためには、家族信託契約の内容を十分に検討したうえで、必要に応じて他の相続対策と組み合わせることが大切です。
弁護士にご相談いただければ、依頼者の状況やご希望に合わせた相続対策を、総合的な観点からご提案いたします。
来たる相続への備えをしておきたい方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。

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