親の借金を相続したくないときのQ&A|相続放棄の手続きと期限

  • 「父が亡くなった後、消費者金融から督促状が届いた…」
  • 「親に借金があるかもしれないが、財産とどちらが多いか分からない…」

相続は、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も引き継ぐことになります。もしプラスの財産より借金の方が多い場合、何もしなければ、あなたがその借金を背負うことになってしまいます。

そうした事態を避けるために、法律は「相続放棄(そうぞくほうき)」という手続きを認めています。

このページでは、親の借金が発覚した時にどうすべきか、相続放棄の基本から注意点までを、Q&A形式で弁護士が分かりやすく解説します。


目次

相続放棄の基本

Q. 親の借金も、子どもが相続しないといけないのですか?

A. はい、何もしなければ、法律上、借金も相続することになります。 相続とは、亡くなった方の財産に関する権利や義務をすべて引き継ぐことです。そのため、プラスの財産(預貯金、不動産など)も、マイナスの財産(借金、ローン、未払金など)も、両方とも自動的に相続人が引き継ぐのが原則です。


Q. 借金を相続しない方法はありますか?

A. はい、それが「相続放棄」です。 相続放棄とは、家庭裁判所に申し立てをすることで、「プラスの財産もマイナスの財産も、一切何も引き継ぎません」と法的に宣言する手続きです。これが認められれば、その人は初めから相続人ではなかったことになり、借金を支払う義務もなくなります。


Q. 「相続放棄」は、どうやって手続きするのですか?

A. 相続放棄は、「借金は要りません」と他の相続人に伝えるだけでは成立しません。 必ず、家庭裁判所に「相続放棄申述書(そうぞくほうきしんじゅつしょ)」という正式な書類と、戸籍謄本などの必要書類を提出して、申し立てる必要があります。 裁判所がその申し立てを受理して、初めて法的な効力が発生します。


【重要】「期限」についての注意点

Q. 相続放棄ができる期限はいつまでですか?【最重要】

A. 原則は、「自分のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」です。

一般的には、「親が亡くなったことを知った日」からカウントして3ヶ月です。この期間は「熟慮期間(じゅくりょきかん)」と呼ばれ、財産を調査して、相続するか放棄するかを決めるための期間とされています。この3ヶ月は非常に短いため、迅速な対応が必要です。


Q. 借金があることを知らなかった場合でも、3ヶ月過ぎたらもう放棄できませんか?

A. 3ヶ月を過ぎていても、相続放棄が認められる可能性はあります。

例えば、「亡くなってから1年後、突然、父の借金の督促状が届いた」というように、借金の存在を知らなかったことに正当な理由があると裁判所に認められれば、「借金の存在を知った時から3ヶ月以内」として、放棄の申し立てが受理されることがあります。 期限が過ぎていると手続きは複雑になるため、この場合はすぐに専門家に相談すべきです。


Q. 財産の調査に時間がかかり、3ヶ月以内に決められそうにありません。

A. もし財産の調査が終わらない場合は、家庭裁判所に「相続放棄の期間伸長」を申し立てることができます。 これが認められれば、熟慮期間を数ヶ月延長してもらうことができます。ただし、これも当初の3ヶ月の期限内に申し立てる必要があります。


相続放棄ができなくなるケース(法定単純承認)

Q. 親の預金を一部でも使ってしまったら、もう相続放棄はできませんか?

A. はい、原則としてできなくなります。 相続財産を処分したり、使ったりする行為は、「私は財産を相続します」という意思表示(=単純承認)をしたと見なされます。

  • やってはいけない例
    • 故人の預金を解約して、自分の生活費に使った。
    • 故人名義の不動産を売却した。
    • 故人の借金を、故人の預金から一部返済した。

【例外】 故人の葬儀費用を、故人の預金から支払うことなどは、社会通念上、単純承認には当たらないとされる場合が多いですが、判断が難しいため注意が必要です。


Q. 借金がどれくらいあるか分からない場合、どう調査すればよいですか?

A. 故人宛の郵便物(督促状、クレジットカードの明細など)を確認するのが第一歩です。 それでも全容が分からない場合は、信用情報機関(JICC、CIC、KSCなど)に対して、相続人として信用情報の開示請求を行うことで、故人がどこから借り入れをしていたかを調査できる場合があります。


その他の選択肢と弁護士相談の目安

Q. プラスの財産と借金、どちらが多いか分からない場合はどうすれば?

A. そのような場合は、「限定承認」という手続きも選択肢になります。 これは、「相続したプラスの財産の範囲内でのみ、借金を返済します」という条件付きで相続する方法です。もし借金を返しても財産が残ればそれをもらえ、財産が足りなければそれ以上は支払わなくてよい、という制度です。 ただし、手続きが非常に複雑で、相続人全員で共同して行う必要があるため、利用されるケースは多くありません。


Q. 私が相続放棄をしたら、親の借金は誰が払うことになるのですか?

A. あなたが相続放棄をすると、相続権は次の順位の相続人に移ります。

  • 第1順位(子): 子であるあなたが放棄すると…
  • 第2順位(親): 故人の親(あなたの祖父母)に移ります。
  • 第3順位(兄弟姉妹): 故人の親も亡くなっている場合、故人の兄弟姉妹(あなたのおじ・おば)に移ります。

借金を次の順位の人に背負わせないためには、相続権が移ったことを伝え、その人たちも必要に応じて相続放棄の手続きをしてもらう必要があります。


Q. 弁護士への相談は、どのような場合に検討すればよいですか?

A. 借金の問題は、迅速さと正確な法的手続きが求められます。特に、以下のような状況では、弁護士など専門家のあアドバイスをもらうことがスムーズに問題の解決につながります。

  • 忙しくて必要書類を集めたり、家庭裁判所への申述手続準備をしたりする時間が確保できない場合。
  • 相続放棄の期限(3ヶ月)が迫っている、または既に過ぎてしまっている場合。
  • 故人の預金を使ってしまったなど、相続放棄が認められるか判断が難しい場合。
  • 財産調査や借金の調査を自分で行うのが困難な場合。
  • 「限定承認」という複雑な手続きを検討したい場合。

弁護士に依頼すると、財産調査から家庭裁判所への書類作成・提出までを正確かつ迅速に進めることができます。

特に期限が過ぎたケースでは、裁判所を説得するための法的な主張が必要になるため、専門家のサポートが重要になります。

この記事を書いた人

千葉県の市川市の法律事務所 羅針盤の弁護士。「お客様の根本問題を解決する」がモットー。複雑な法律の知識についてわかりやすく解説します。

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