弁護士が解説。遺留分手続における不動産の評価方法を分かりやすく解説

市川市本八幡の法律事務所羅針盤の弁護士の本田です。

遺産に土地や建物などの不動産が含まれると、不動産を相続した人の相続財産取得割合がほかの人よりも大きくなる結果、相続が不公平になるケースは少なくありません。

しかし、自分は少しの遺産しか相続できなかった場合でも、遺留分侵害額請求によって保障される遺留分との差額を請求すれば、金銭を受け取れる場合があります。

遺産に不動産が含まれるケースで遺留分侵害額請求をする際、ポイントになるのが「不動産の評価方法」です。

評価方法や評価時期を間違えて不動産を低く評価すると、遺留分手続で本来相手に請求できるはずの金額より低い金額で請求することになりかねません。

そこで、今回は遺留分侵害額請求手続の概要や、遺産に不動産が含まれる場合の評価方法について、分かりやすく解説します。

不動産の相続でお悩みの方はぜひご一読ください。

目次

遺留分侵害額請求とは

遺留分とは、最低限取得できる遺産割合、遺留分侵害額請求とは、その遺留分を侵害された場合に取り戻すために行う請求のことです。

たとえば、遺産の総額が4,000万円、ある相続人の遺留分が4分の1の場合、この相続人の遺留分相当額は1,000万円です。

遺産を700万円しか相続していなければ、遺留分との差額300万円を、遺留分を侵害しているほかの相続人に請求できます。

遺留分があるのは、法定相続人のうち兄弟姉妹以外の相続人です。遺留分の割合は誰が相続人なのかによって以下のように変わります。

相続人遺留分
配偶者のみ配偶者:2分の1
配偶者と子配偶者:4分の1、子:4分の1
子のみ子:2分の1
配偶者と親配偶者:3分の1、親:6分の1
親のみ親:3分の1
配偶者と兄弟姉妹配偶者:2分の1、兄弟姉妹:なし
兄弟姉妹のみ兄弟姉妹:なし

ある相続人が不動産を相続すると、その相続人の相続財産取得額が高額になり、逆にほかの相続人の相続財産取得額は少額になって遺留分を下回るケースがあります。このようなケースでは遺留分侵害額請求が可能です。

遺留分の計算方法の詳細は以下の記事も参考にしてください。

遺留分の計算方法について

遺留分侵害額請求で不動産の評価方法が問題になる理由

遺留分を侵害された相続人がほかの相続人に請求する場合、まずは侵害された遺留分金額を計算する必要があります。

遺留分計算の対象になる財産に不動産が含まれるケースでは、不動産の評価額がいくらなのか、計算しないと侵害額を確定できません。

しかし、不動産の評価方法には後述するように複数の評価方法があります。

遺留分侵害額請求をする側は、相手に対して少しでも多く請求できるように、評価額が高くなる評価方法を主張することが一般的です。

一方で、請求される側は、自分が請求される額を低く抑えるため、評価額が低くなる評価方法を主張する傾向にあります。

そのため、不動産の評価方法を巡って意見が対立することが少なくありません。

遺留分の計算で不動産の評価方法が問題になった場合には、交渉や調停、裁判などを通じて不動産の評価方法を確定させる必要があります。

遺留分に含まれる不動産の評価時期

遺留分を計算する際、不動産価格の計算は相続開始時点、つまり被相続人が亡くなったときの不動産の価格を使います。

仮に、被相続人の死亡時点では不動産の評価額が3,000万円で、遺留分侵害額請求を行った時点では値上がりして3,500万円だとしても、値上がり分は考慮されません。

相続開始時の評価額を用いる点については、民法1043条で「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」とされていることや判例によって実務上確立されています。

また、生前贈与された不動産が遺留分対象に含まれる場合も、不動産の評価時期は相続の開始時です。

生前贈与されたときの価格ではないので、被相続人が亡くなったときの不動産の評価額を確認する必要があります。

遺留分手続における不動産の評価方法は4つ

遺留分を計算する際、不動産の評価方法は主に以下の4つです。

  • 路線価
  • 固定資産税評価額
  • 公示価格
  • 時価(実勢価格)

4つの価格はそれぞれ用途が異なり金額が違うため、同じ土地・建物でも、いずれの価格を用いるのかによって評価額が変わります。

路線価(相続税路線価)

路線価とは、主に相続税や贈与税の算出のために用いる価格です。

道路に面する標準的な1㎡あたりの価格のことで、国税庁のサイト「路線価図・評価倍率表」で土地ごとの路線価を確認できます。

※路線価が定められていない土地では倍率方式で価格を算出します

たとえば、200㎡の宅地が面している道路の路線価が25万円の場合、宅地の評価額は「200㎡×25万円」で5000万円です。

路線価は1月1日時点の価格が7月1日に公表されます。一般的に公示価格の80%程度の金額と言われています。

相続開始時点の土地の評価額を計算する場合は、相続が開始した日が属する年の路線価を用いて計算します。

固定資産税評価額

固定資産税評価額とは、主に不動産の所有者が支払う固定資産税を計算するための価格です。

固定資産税評価額は3年に1回見直され、自治体が決定して4月頃に公表されます。一般的に公示価格の70%程度の金額と言われています。

固定資産税評価額は、毎年4月以降に自治体から送付されてくる納税通知書に記載されている評価額を確認したり、不動産所在地の自治体へ固定資産評価証明書の発行申請を行うことにより確認することができます。

固定資産評価証明書の発行申請は、納税義務者(被相続人)の相続人も行うことが可能です。
手続方法の詳細や必要書類は自治体のホームページなどに掲載されていることがほとんどですので、事前に確認するようにしましょう。

公示価格

公示価格とは、自由な取引において通常成立すると考えられる1㎡あたりの土地の価格のことで、土地本来の価値を示すための価格です。

公示価格は、更地の場合の評価額として国土交通省から毎年3月に公表され、国土交通省のサイト「標準地・基準地検索システム」で確認できます。

土地の売買や資産評価の目安として活用される価格であり、実際の取引価格に近い価格です。

ただし、公示価格はあくまで1月1日時点の価格であるため、それ以降の価格変動は反映されていません。

また、公示価格は特殊事情がない場合の売買価格です。

周辺環境など個別事情の影響が大きい場合は、公示価格と実際に売買をする場合の時価の乖離が大きくなることがあります。

時価(実勢価格)

時価とは、不動産が実際に売買される場合の取引価格のことで、売り手と買い手の間で売買が成立するときの価格です。

不動産がいくらで売れるのか、時価は実際に売る前の段階では分かりませんが、時価の目安額であれば以下の方法で調べることができます。

  • 国土交通省のサイト「不動産取引価格情報検索」で類似の土地の過去の売買価格を調べる
  • 公示価格をもとに算出する
  • 不動産会社や不動産鑑定士に査定を依頼して調べる

一般的に時価は公示価格の1.1~1.2倍が目安とされるケースが多いため、公示価格の金額を1.1~1.2倍して時価の目安額を計算する場合があります。

ただし、その土地の固有の事情があるために、公示価格と時価が大きく乖離する場合もあるので注意が必要です。

周辺環境など固有の事情を反映した時価の目安額を知りたい場合は、不動産会社や不動産鑑定士に査定を依頼して評価額を確認します。

費用は不動産会社の簡易査定であれば無料で対応してもらえることもありますが、より精度が高いとされる不動産鑑定士の鑑定評価書を取得する場合、一般的には数十万円以上の費用が掛かることが通常です。

遺留分を計算するときの不動産価格はいずれの評価方法が適切か

不動産の評価額を計算する際、いずれの評価方法を用いるかはケース・バイ・ケースです。

遺留分を請求する側であれば、各評価方法による評価額を比較して、より高い金額を用いることになります。

建前上は、時価の目安額は公示価格の1.1~1.2倍、路線価と固定資産税評価額はそれぞれ公示価格の80%程度・70%程度であるため、最も高いのは実勢価格による評価額ということになりますが、ケースによっては実勢価格よりも路線価や固定資産税評価額が高いケースもあります。

一般論として、東京23区を代表とする都心部に近づくほど路線価・固定資産税評価額と比べて実勢価格が高額となりやすく、逆に都心部と離れた地方においては、路線価・固定資産税評価額の方が実勢価格よりも高いという逆転現象が生じることも珍しくない状況も生じます。

遺留分侵害額請求をする場合は、対象不動産の各評価方法の特性を踏まえて、採用すべき評価方法を検討する必要があります。

交渉・調停・訴訟になった場合の不動産評価額の決定方法

遺留分を請求する側と請求される側で交渉し、不動産の評価額に差がある場合、中間額で折り合いをつけるケースが見られます。

しかし、請求される側が不当に低い評価額を主張してきたような場合は、中間額が低くなって請求する側からすると不利になるため、中間額で折り合うことが適当とは言えません。

当事者間の協議で合意に至らなければ、裁判所を介した手続に移行します。調停や訴訟によって解決を目指す段階です。

調停や訴訟では、不動産会社に依頼して作成した査定書や、不動産鑑定士に依頼して作成した不動産鑑定評価書などが双方から提出され、評価額の検討を行います。

しかし、それでも解決できない場合は、裁判所が選任した不動産鑑定士による鑑定を実施するよう、裁判所から求められることがあります。

裁判所が鑑定人として不動産鑑定士を選任した場合、鑑定費用の負担割合は法定相続分に応じた金額です。

過去の判例を見ると、裁判所が選任した不動産鑑定士が出した査定額で裁判所が決定を下すケースが多いものの、私的鑑定結果などほかの要素も考慮に入れて裁判所が判断を下すケースも見られます。

訴訟を提起して裁判所の判断にゆだねる場合は、自分にとって有利な結果になるとは限らないのが実情です。

意図的に評価額を低く操作したと思われる査定書を相手が提出してくるようなケースでは、訴訟を起こして裁判所が選任した鑑定人による査定額で決着した結果、結果的に相手が当初提示した評価額や中間額より高い評価額で決定するケースもありますが、逆に訴訟を起こして裁判所に判断をゆだねたために不利な結果になる場合もあります。

遺留分侵害額請求の手続の流れ

遺留分侵害額請求を行う場合、一般的に以下の流れで手続を進めます。

  1. 遺留分の有無や割合を確認する
  2. 遺留分計算の対象となる財産や金額を確認する
  3. 話し合いで解決を目指す
  4. 話し合いで解決できなければ遺留分侵害額請求調停を申し立てる
  5. 調停で解決できなければ遺留分侵害額請求訴訟を提起する

遺留分計算の対象となる主な財産は以下の財産です。

  • 亡くなった人が死亡時点で有していた財産
  • 相続開始前1年以内に生前贈与された財産
  • 10年以内に相続人が受けた特別受益

遺留分を侵害された人が遺留分侵害額請求を行う場合、遺留分の計算やほかの相続人に対する請求権の行使の手続、交渉、反論などでは専門的な知識が必要です。

加えて、遺留分計算の対象に不動産が含まれるケースでは、いずれの評価方法を使って評価額を計算すべきなのかや、鑑定費用をかけてでも不動産鑑定士に依頼すべきかなど、実務経験に根ざした判断が求められます。

遺留分を侵害された場合、一般の方がご自身で対応するのは難しいため、相続に強い弁護士に相談するようにしてください。

まとめ

遺留分侵害額請求を行う場合、遺留分計算の対象財産に不動産が含まれるケースでは、不動産の評価額が問題となります。

請求する側と請求される側で評価方法や評価額に違いが生じて、揉めることも少なくありません。

遺留分を侵害されて請求する側であれば、交渉や調停、訴訟を通じて、少しでも高い評価額で決着できるかどうかがポイントです。

交渉で解決できず裁判で解決する場合は、訴訟費用や弁護士費用、不動産の鑑定費用などがかかり、費用負担が大きくなる場合があります。

どこまで費用をかけて対応すべきか、一般の方では判断が難しい場合もあるので、遺留分の侵害をはじめとした相続トラブルは弁護士に相談するようにしてください。

相続に強い弁護士であれば、過去の判例や実務経験に基づく交渉・裁判対応が可能です。

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