相続が開始される(=被相続人が死亡)と、原則として、被相続人の財産に属した一切の権利義務が相続人に相続されます(民法896条)。
その中には、負債も含まれる他、財産ではあっても、実際には財産的価値はなく、むしろ管理費や税金の支払等で収支がマイナスとなってしまういわゆる「負」動産も含まれます(以下、このような不動産を「負動産」と言います)。
負動産は、把握できるものであれば相続放棄等により対策することも可能であるものの、被相続人自身も知らない内に相続等によって所有していたようなケースもあり、全容が把握しきれない場合が存在します。
本コラムでは、そのような負動産の内、土地に関する相続の対策の必要性とその方法について解説します。
●相続対策の必要性
- 固定資産税の負担
土地を相続すると、相続人が土地の所有者となるため、固定資産税が課されることになります。
固定資産税は、名義人に対して課される税ですから、その利用実態にかかわらず、土地を所有しているだけで税負担を負うこととなります。
なお、土地上に建物を所有している場合や農地といった場合には、軽減税率の適用を受けられます。
- 権利の細分化
土地の相続を放置しておくと、その後の世代が気づかずに相続し、多数人の共有状態になり、権利が細分化するおそれがあります。
権利が細分化すると、権利者を把握することが困難になり、権利者の同意が必要な処分を行うことが困難になります。
- 相続登記の義務化
土地を相続により取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その土地の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請を行うことが、令和6年4月1日より義務化されました。(不動産登記法76条の2第1項)
申請を正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料が課される可能性があります。(不動産登記法164条1項)
- 土地周辺の環境への悪影響
土地が管理されないまま放置されると、雑草が生い茂り、景観が悪くなるほか、野生動物の住処となり、地域の家屋へ侵入するおそれがあるなど、悪影響が生じる可能性があります。
- 損害賠償のリスク
土地が山林等の場合、管理を怠り、がけ崩れや倒木等の要因により、他人に損害を与えた場合、損害賠償責任を負うリスクが存在します。
特にがけ崩れ等は起こった際の他者に与える影響が大きいため、損害賠償額が多額に上るおそれがあります。
以上で見てきたように、相続について何らの対策も行っていないと、責任面でも金銭面でも労力面でも多大な重荷を背負うことになりかねません。
●土地の相続対策
相続対策としては、おおまかに分けると、そもそも相続をしない方法と、相続をした後で処分する方法の二つに分かれます。
1 そもそも相続をしない方法
(1)相続放棄
最も簡便かつ確実な方法は、相続放棄(民法915条1項)を行うことです。
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内であれば、相続放棄を行うことができます(ただし、期間については裁判所に申述をすることで伸長をすることが可能(民法915条1項但書))。
相続放棄をした場合には、負動産を含めた一切の財産及び負債を相続しないことになります。そのため、他に相続したい財産がある場合には、相続放棄はできません。
なお、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月を超えると、単純承認をしたものとみなされ(民法921条2号、915条1項)、伸長の手続きをしない限り、放棄をすることは一切できなくなる点に注意が必要です。
(2)遺産分割
そこで、自身が当該土地を相続しないことを内容とする遺産分割協議を行うことが考えられます。
この点、厳密には、相続放棄及び限定承認(民法922条)がなされない場合は、相続人は相続について単純承認をしたとみなされますから、相続人は相続財産を一度相続することになります。しかし、その後、遺産分割協議を経て自身が負動産となる土地を相続しない旨の遺産分割を行うことで、一定の例外を除き、相続開始時に遡って当該土地の所有者ではなくなることになります(民法909条)。
その際、負動産となる土地は誰も相続したくないと考えるのが通常ですから、そのような土地の財産価値をマイナスと評価した上で、他の相続人と協議して、その他の相続財産を分配するのが良いでしょう。
もっとも、この方法は相続人全員の合意を得る必要があるため、自分の意思のみで行える相続放棄と比べて格段に難易度が高い方法となっています。
2 相続をした後で処分する方法
(1)所有権の放棄
一般的に、個人が所有する財産はその処分は自由に行えます(民法206条)から、土地についても所有権を放棄することができるようにも思われます。
しかし、現行の民法上、土地の所有権を放棄する方法等を定めた条文は存在しないことから、原則として土地の所有権を放棄することはできないこととなっています。
もっとも、相続で取得した土地に関しては、令和5年4月に創設された、相続土地国庫帰属制度が使える場合があります。同制度を利用すると、土地の所有権を放棄し、国庫に帰属させることができる場合があります。
ただし、同制度により土地を国庫に帰属させる場合、一部の土地は対象外となるほか、申請の手続や審査の費用、10年分の土地管理費相当額の負担金の納付など、それなりの費用と労力が必要となるため、注意が必要です。(参照:相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)
(2)所有権の譲渡
上記のように、土地の所有権の放棄には様々なハードルがあるため、基本的には譲渡(売買及び贈与)により処分することになります。
ただし、この場合はもちろん、土地の譲受人を自分で見つけることが必要なのであり、資産価値のない土地を譲り受ける人を探すのは困難を極めます。
譲渡を行う場合に一番現実的なのは、隣地の所有者に贈与することです。隣地の所有者であれば、自己の土地とひとまとめにして管理できるため、比較的譲り受けてもらいやすく、また、登記情報から所有者の氏名や住所がわかるため、交渉が行いやすいとの利点があります。
また、地方自治体に寄付をするという方法もありますが、こちらは用途や目的がある場合にしか受け付けてもらえないため、実現可能性はかなり限定的です。
以上を総合すると、負動産を相続しないためには、相続放棄が簡便かつ確実であり、その他の方法は、自己の意思のみで行うことができないため、難易度が格段に上がってしまいます。
相続をしたくない負動産がある場合には、相続放棄をするか、遺産分割協議にて活用できる他の相続人に相続してもらい、なるべく相続しないようにするのがベストです。
自分の知らない間に相続人になっていた場合であっても、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内であれば相続放棄は可能です。
●弁護士に依頼するメリット
相続放棄等は時間的制限があります。被相続人が亡くなり、様々な手続きをしている間に過ぎてしまうということも考えられます。
弁護士に相談することにより、その時点でなすべきことや今後に向けてなすべきこと等を、法的な観点から的確なアドバイスを行うことができます。
当事務所では、相続に関する経験豊富な弁護士が対応いたします。
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(執筆者 弁護士 大月裕哉)